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タウンハウスに引っ越しました

23:言い過ぎた

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 前世の弟のことを考えていると
部屋の扉がノックされた。

「はい」

「アキルティア様、
旦那様がお呼びでございます」

俺が返事をした後、
キリアスが扉を開けてお辞儀をする。

「父様が?」

俺はすぐさま扉へと向かった。

この屋敷の君主は父だからな。
機嫌よく過ごしてもらおう。

俺はキリアスに連れられ
応接室に向かう。

俺や父の部屋、義兄の部屋などは
すべて屋敷の2階に配置され、
1階は応接室やキッチン、使用人たちの
部屋など人が比較的出入りしやすい場になっているようだ。

逆に2階に上がる階段は、玄関前の大きな階段しかなく、
誰もかれもが2階の上がれるわけではない。

歩きながらの説明を聞く限り、
2階に上がることができる侍女やメイドも
ごくわずかの限られた者だけらしいのだ。

公爵家のプライベート空間だから
それだけ気を遣っているのだろう。

応接室では、キリアスがノックをして
声を掛けた途端、父が笑顔で走ってきて
俺を抱き上げた。

うん、いつも通りだな。
どうせそのままどうせ膝に乗せられるのだろう。

俺が抱っこで運ばれている間に
少し年上の侍女がお茶を淹れてくれて
テーブルに準備をしてくれた。

何故か、俺のお茶も父のお茶も
同じ場所だ。

……つまり俺が父の膝上で
お茶を飲むことが決定している
ことがうかがえる。

「アキ、お前に護衛を付けようと思う」

父がソファーに座り、
俺を膝に乗せるなり言った。

「護衛?」

「そうだ。
学園では侍従か騎士を一人付けることができる。
学園にはお前の義兄もいるが
念のために、だ」

学校に行くぐらいで護衛とは。
じつはこの国は治安が良くないのか?
と耳を疑うぜ。

父は義兄も護衛を付けていると言い、
学園の行き帰りは必ず義兄と一緒に
行動するように何度も言う。

「わかりました」

「よし。
じゃあ、キール!」

扉の近くに控えていた男性が
父に呼ばれて俺の前に立った。

茶色い短髪の好青年だった。

少し細い目が笑うと和らいで
キツイ印象が薄くなる。

背が高く、腰から下げている
細身の剣もカッコいい。

20歳は超えているだろうが
前世では……いや、
前世でなくても、モテモテだろう。

「お前の護衛のキールだ。
これでも最近まで
近衛騎士をしていたから
腕は確かだぞ」

「え? すごい!
強いんですねっ!」

って思わず目をキラキラさせてしまった。

だが。

ちょっと待て。

最近まで近衛騎士をしていたということは
王族を守っていたとか
そういう仕事をしてたってことだろう?

それが何で急に俺の護衛なんかになるんだ?

「父様」

「なんだい? キールは
腕もいいし、侍従の真似事もできるし
オススメだぞ」

そのオススメを、権力で王宮から
引き抜いてきたんじゃないだろうな。

俺は父をじと、っと見つめた。

「あ、アキ?」

「父様。もしかして無理やり彼を
僕のために王宮から連れて
来たんですか?」

え?と父の顔が固まった。

やっぱり。

「父様は権力があるのですし、
彼が嫌だと思っていても
断ることなどできないでしょう?

近衛騎士と言えば、出世頭じゃないですか!
それを僕のような子どもの護衛をするために
わざわざ引き抜いて来るなんて!

彼には彼の人生があるんですよ?
それを権力で歪めて言い訳がありませんっ」

ここでしっかり言っておかないと、
親馬鹿の父はまた同じことをするに違いない。

「で、でも、アキ……」

「父様。僕は父様は優しくて強くて
かっこよくて、素敵な父様だと思っています。

僕を沢山愛してくれていますし、
僕も父様のことが大好きです。

でも僕以外の人にも、
同じ様に配慮をしてあげてください」

そう言うと父はそうだね、とうなだれてしまった。

ヤバイ、言い過ぎたか?

おろおろした俺に、
穏やかな声が聞こえた。

「発言をお許しいただけますか?」

キールだった。

父が頷く。

「アキルティア様。
お心遣いありがとうございます。

ですが私は近衛騎士でいることに
限界を感じていたところを
旦那様に救っていただいたのです。

何に変えても、必ずお護り致します。
どうか、おそばでお護る栄誉を
お与えください」

俺のそばで、
キールが長い足を折り跪いた。

え?
ちょっと待って。
そんなことされたら
ビビっちゃうよ。

父も俺を見て

「キールはお前のために
公爵家に来てくれたんだよ」

と俺を背中から抱きしめて言う。

自分から望んできたんだよ?
父様が無理やり連れて来たんじゃないよ?

と、父の目と口調が訴えていた。

それのどこまで本当かわからないが
近衛騎士を辞めてすでに公爵家に
雇われたキールを放置することもできないだろう。

近衛騎士に戻るのも無理だろうしな。

「わかりました。
よろしくお願いします」

と頭を下げると
父はほっとしたような顔をして、
キールは顔を上げ俺を見つめた。

「誠心誠意、命を賭してお守り致します」

「たのんだぞ」
と言ったのは、父だ。

俺は命なんて懸けて欲しくないんだけどね。

それからキールは俺の護衛だけれど
侍従といういか、秘書?みたいな
役割になった。

常に俺のそばにいて、
今まで俺の着替えとかを手伝ってくれていた
メイドさんたち、侍女さんたちはいなくなり
すべてキールが手伝うようになった。

学園に行った時のことを考えてのことだろう。

タウンハウスにもメイドや侍女はいるが、
父としてはできるだけ俺と接触する人間を
減らしたいと考えているようだ。

俺が珍しい紫の瞳を持つ人間だからだろうな。

俺が成長したら、男の身体のままでも
妊娠できるようになってしまう。

まだ精通もしていない子どもの身体だが
これで俺が誰かに恋でもしたら
女子になったりする可能性もあるのだ。

いや、俺が同性を好きになるなんて
考えたこともないけどね。

なんにせよ学園に通うようになったら
多くの人との接触は免れない。

気を引き締めていかないとな。



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