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タウンハウスに引っ越しました
22:タウンハウス
しおりを挟む王宮での間者騒動からしばらく経って
俺はタウンハウスに居を移すことになった。
学校……いや、この世界では学園というらしいが
とにかく学び舎に通うことになったからだ。
領地も王都から馬車で感覚的には1時間以内の近くだし、
家族みんなでお引越しはしなくていいか、
ということになり、俺はタウンハウスで
義兄と暮らすことになり、
父と母は基本、領地にいることになった。
と言っても、父は王宮に勤めているので
最低でも一日おきにはタウンハウスに
寝泊まりするらしいし、
タウンハウスにも執事さんや
侍女さんにメイドさん。
もちろん、護衛騎士さんたちもいる。
義兄は俺と7つ年が離れている筈だから
今は17歳だ。
義兄は公爵家に引き取られてから
すぐにタウンハウスに行ってしまったから
正直、今まであまり親しく接する機会はなかった。
前世弟と俺も7歳差だったので、
なるほど、前世弟も、俺に対して
こんな気持ちだったのかと思ったりもする。
共通の話題があまりないし、
前世の時のように、スマホやテレビが
あるわけでもない。
7つも年上の兄が弟に愚痴や本音を
漏らすこともないし、弟としても、
やはり会話を盛り上げねば、とか
気を遣ってしまうし、
会話が空回りしてしまうと
それなりに落ち込んでしまう。
でも互いの誕生日などは一緒にお祝したし、
俺も義兄の誕生日には
色々頑張ってプレゼントした。
しょせんは庭の花で作った
押し花の栞とか、
綺麗に磨いた石とかだけど。
だって財力のない子どもなんて
そんなことぐらいしかできないだろう?
押し花の栞も、綺麗に磨いた石も、
前世の弟は物凄く喜んでくれたが
あれはまだ小さい時だったからだろう。
さすがに7歳も年上の義兄に
渡すものでは無いとは思ったが。
こんなちゃちなプレゼントを渡すなんて
恥ずかしすぎると思いつつ
差し出した俺の手を、
義兄はいつも嬉しそうに握って
ありがとう、と言ってくれた。
本当にできた義兄だと思う。
そんな俺たちを見て、
両親も屋敷の人たちも
微笑ましいというように見ていたし。
仲の良い兄弟という感じを
アピールすることはできていたんじゃないだろうか。
とはいえ、何か特別のことが無い日に
義兄が領地に戻ってきた日は、
たいてい俺はティスに呼ばれて
城に出かけてしまっていたし。
いまだに体力のない俺は、
朝は遅く夜は早く寝てしまうので
義兄が帰宅するころにはいつも寝てしまい、
あまり会話をする機会も無かった。
だがこれからは違う。
兄弟で一緒に過ごすのだ。
兄弟だ。
年の離れた兄弟。
しかも俺が弟!
わくわくする。
これからは一緒に
遊んだりできるだろうか。
いや、無理か。
相手は17歳だ。
前世の弟を思い出し、
無理だな、と思う。
きっと反抗期、真っ最中だ。
口を開けば
「ウザイ、邪魔、シね、めんどい」
としか言わなかった。
うん、辛い。
思い出すのはやめよう。
そんな弟でも俺は
可愛がってたつもりだったんだがな。
反抗期はそういう愛情すべてが
嫌になる時期なんだろうな。
よし。
積極的にかかわるのはやめておこう。
そんなことを思っていると
あっという間に馬車はタウンハウスに着いた。
王宮にはしょっちゅう遊びに出かけているので
王都は初めてではないが、
タウンハウスは初めてだ。
「お待ちしておりました」
と執事さんっぽい人が声を掛けててくれて
俺が父にエスコートされて馬車を下りると
大勢の使用人さんたちが一斉に頭を下げた。
うぉ!
どこの金持ちに使用人だよ、って
思うシチュエーションだが、
俺の父が金持ちなんだよな。
父は俺の手を引き、
一番前にいる男性に俺を引き合わせた。
「タウンハウスを任せている
執事のキリアスだ。
何かあれば彼に言えばいい」
父がそう言うとキリアスは
恭しく頭を下げた。
「お会いでいる日を
心よりお待ちしておりました。
アキルティア様」
年は30代ぐらいか。
まだ若いけれど、
銀色の髪と丁寧な口調が合っていて
親しみやすく感じる。
「こちらこそ、よろしくね」
俺が言うと、キリアスは嬉しそうな顔をした。
「さぁ、こちらへ。
お部屋は準備しております」
案内された部屋は、
ベットや机、本棚や
洋服を入れるクローゼットなど
かなりの家具があったが、
それでも広く感じる。
窓も大きく、
カーテン越しに外を見ると
綺麗な庭が見えた。
領地の屋敷よりはこじんまりしているが
それでもかなりの広さだろう。
「アキルティア様」
部屋を見回していると
キリアスが机の前に立ち
「ここに学園に必要なものは
揃えておりますので、
ご確認くださいませ」と頭を下げる。
「ありがとう」
そう言うと、キリアスは
お休みいただいた後、
屋敷をご案内いたしますので
いつでもお声掛けください。
と言って部屋を出て行った。
「すごいな、公爵家」
それしか言えない。
屋敷も凄いが、使用人も凄い。
こんな子どもに仕えるのって
嫌じゃないんだろうか。
まぁ、この世界では
かなり強い身分制度があるので
この世界の人たちにとっては
当たり前のことかもしれないけれど。
俺には違和感というか、
逆に俺みたいな子どもに傅くとか
申しわけないみたいな気分になってしまう。
そのうち俺も慣れるのだろうか。
俺は机の上に置かれた教科書や
ノート、インクペンなどを確認した。
ベットには父が買ってくれた大きな
クマのぬいぐるみがおいてある。
広いベットの半分はクマが占領しているが
肌触りも良く、俺は結構気に入っている。
陛下からの褒美で何を貰うかを考えた時、
子どもが欲しいものと言ったら
特大のぬいぐるみだと思いついたのだが、
我がながら良い選択だった。
父は俺が初めておねだりしたものだから
物凄く喜んでくれたし、
義兄の部屋にクマと一緒に遊びに行くと
義兄も喜んで部屋に入れてくれる。
子どもらしいチョイスだし、
人間関係も良くしてくれるし、
ぬいぐるみと言えども、
なかなかの優れものだ。
俺は気を良くして
クローゼットを開けてみる。
すると新しい制服や、
煌びやかな服が
つり下がっていた。
そう、きらびやかな、だ。
誰が着るんだろう?と思うような
キラキラしたり、ふりふりしたりした
シャツなんかもある。
俺が着るのか?
本気か。
確かに客観的に見ると
この顔は可愛い部類に入ると思うが
中身は俺だ。
正直、辛い。
だが意外と、この世界では
男でもフリルを着たりするのかもしれない。
なんたってまだ10歳だしな。
俺の前世の弟も、
幼いころは上着やシャツなんかは
女子の古着を買って着せていたこともある。
理由は女児服の方が安かったからだ。
……もしかしてそれが
反抗期に繋がったのだろうか。
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