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プロローグ
俺、頑張った
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俺は秋元秋良。
秋元のアキとあきらのアキでアキという文字が
続くので学生時代からアキと呼ばれている。
俺はまだ24歳で社会人としては新米だが
まだ高校生の弟を育てているので
毎日頑張って残業している。
早朝出勤もしているし、
休日出勤もある。
そんなわけでなかなか弟と
じっくり会話する時間がないのだが
なんとかして弟を大学に行かせたいと
思っているので、今が頑張りどころだ。
弟は今、高校二年生だ。
両親は、父親が早くに他界。
看護婦をしながら俺と弟を育てでくれた母も
過労だったのだろう。
体調を崩して、あっけなく亡くなってしまった。
母が他界したときは、俺の就職が決まっていて
弟が高校生になったばかりの頃だった。
母の保険金もあったし、
幸い、借金などもなかったので
俺と弟はなんとか生活をしていくことが
できたのだが、弟も俺も新しい生活が
始まったばかりだったので、
顔を合わすと喧嘩ばかりするようになってしまった。
弟はいわゆる反抗期だと思って
俺は本気で受け止めることはしなかったが
そんな俺を弟は毛嫌いして、
怒りをぶつけてくる。
仕事で疲れているのに
弟が毎日のように俺に文句を言うので
俺は段々と弟と向き合うのが面倒くさくなってきた。
弟の顔を見て、おまえのために俺は働いているのだと、
そう怒鳴り付けたくなったことだって何度もある。
でもそうしなかったのは、
母親との約束があったからだ。
「弟をお願いね」と俺の手を握った母の願いを
俺はしっかりと受け止めた。
だから俺は金を稼ぎ、弟を大学に行かせて
りっぱな社会人にするのだ。
その為ならなんだってやる。
そう決意して働いて働いて。
あの日は、会社に泊って仕事をした翌朝だった。
なんとか納期に間に合ったと
ふらふらと家に帰宅する途中、
制服を着た弟が歩いているのを見かけた。
その日は平日で、弟を見かけた場所は
弟の高校からほど遠い場所だ。
まさかサボってるのか。
俺が必死で働いているのに!
そう思うと頭に血が上って、
俺は弟に向かって駆け出した。
怒鳴ってやろう。
俺がどんなに頑張っているのか
母が、おまえのことをどれほど心配していたか。
走って走って追いかけて。
弟の名を呼んだ時、
その先で凄いスピードで走ってくる車が見えた。
どうみても普通じゃない。
俺はそのまま走った。
どうか間に合ってくれ!
本当なら、弟の腕を掴んで引き寄せるつもりだった。
それぐらいの距離はあった。
だが。
凄いスピードで近づいてきた車は、
何故か弟の近くに来てから
さらにスピードを上げた。
俺は夢中で弟を突き飛ばす。
瞬間、大きな衝撃が俺を襲った。
痛みに目を閉じる前に、
俺は必死で弟を見る。
無事だっただろうか。
俺と、母の大事な弟。
一瞬、目があう。
目を見開いて、驚いた、弟の顔。
あぁ、良かった。
お前が無事で。
そう思ったのが俺の最後の記憶だった。
次に俺が目を覚ました場所は、
真っ白い、何もない空間だった。
体を動かそうと思ったけれど、
何故か動くことができない。
それこそ、目を開けているのか
閉じているのかさえ、わからない。
病院かと思ったけれど、
俺自身の身体さえ
俺は認知できなかった。
あぁ、俺、死んだんだな、と思った。
でも俺、頑張ったし、弟は無事だった。
だからもういいか、死んでも。
そう思ったら、
大きな手に頭を撫でられる感覚がした。
『そうだね、頑張ったね』
暖かい声がする。
『頑張りすぎて、君の魂は
ちょっと疲れているみたいだ』
なんだろう。
眠くなってくる。
『たくさん頑張ったご褒美に、
ここでゆっくり休んだらいい。
元気になったら、
沢山愛される場所に行こう』
沢山愛される場所?
そんな場所なんて、あるのだろうか。
でもあったらいいな。
俺は、家族に恵まれなかった、なんて言わない。
けれど、もう少し長く、
家族と過ごす時間が欲しかった。
母と、父と、弟と。
それから、友達も欲しかった。
俺は母が仕事で家を空けることが
多かったから、弟の世話をするために
クラブ活動もしなかったし、
学校のクラスメイトと遊ぶこともなかった。
もし俺が愛さえる場所があるのなら、
友だちと、家族と一緒に
笑って過ごせる場所がいいな。
俺がこのまま死の世界に行くのなら、
父や母と会えるのだろうか。
そしたらまた、一緒に……?
優しい手が俺の頭を何度も撫でる。
『眠るがいい。
次は君が愛され、守られる世界だ』
いいな、それ。
俺も守ってもらえるなんて。
俺はうとうとする。
いいな。
愛される世界か。
楽しみだな。
俺はそんなことを思いながら
眠りの世界に落ちて行った。
秋元のアキとあきらのアキでアキという文字が
続くので学生時代からアキと呼ばれている。
俺はまだ24歳で社会人としては新米だが
まだ高校生の弟を育てているので
毎日頑張って残業している。
早朝出勤もしているし、
休日出勤もある。
そんなわけでなかなか弟と
じっくり会話する時間がないのだが
なんとかして弟を大学に行かせたいと
思っているので、今が頑張りどころだ。
弟は今、高校二年生だ。
両親は、父親が早くに他界。
看護婦をしながら俺と弟を育てでくれた母も
過労だったのだろう。
体調を崩して、あっけなく亡くなってしまった。
母が他界したときは、俺の就職が決まっていて
弟が高校生になったばかりの頃だった。
母の保険金もあったし、
幸い、借金などもなかったので
俺と弟はなんとか生活をしていくことが
できたのだが、弟も俺も新しい生活が
始まったばかりだったので、
顔を合わすと喧嘩ばかりするようになってしまった。
弟はいわゆる反抗期だと思って
俺は本気で受け止めることはしなかったが
そんな俺を弟は毛嫌いして、
怒りをぶつけてくる。
仕事で疲れているのに
弟が毎日のように俺に文句を言うので
俺は段々と弟と向き合うのが面倒くさくなってきた。
弟の顔を見て、おまえのために俺は働いているのだと、
そう怒鳴り付けたくなったことだって何度もある。
でもそうしなかったのは、
母親との約束があったからだ。
「弟をお願いね」と俺の手を握った母の願いを
俺はしっかりと受け止めた。
だから俺は金を稼ぎ、弟を大学に行かせて
りっぱな社会人にするのだ。
その為ならなんだってやる。
そう決意して働いて働いて。
あの日は、会社に泊って仕事をした翌朝だった。
なんとか納期に間に合ったと
ふらふらと家に帰宅する途中、
制服を着た弟が歩いているのを見かけた。
その日は平日で、弟を見かけた場所は
弟の高校からほど遠い場所だ。
まさかサボってるのか。
俺が必死で働いているのに!
そう思うと頭に血が上って、
俺は弟に向かって駆け出した。
怒鳴ってやろう。
俺がどんなに頑張っているのか
母が、おまえのことをどれほど心配していたか。
走って走って追いかけて。
弟の名を呼んだ時、
その先で凄いスピードで走ってくる車が見えた。
どうみても普通じゃない。
俺はそのまま走った。
どうか間に合ってくれ!
本当なら、弟の腕を掴んで引き寄せるつもりだった。
それぐらいの距離はあった。
だが。
凄いスピードで近づいてきた車は、
何故か弟の近くに来てから
さらにスピードを上げた。
俺は夢中で弟を突き飛ばす。
瞬間、大きな衝撃が俺を襲った。
痛みに目を閉じる前に、
俺は必死で弟を見る。
無事だっただろうか。
俺と、母の大事な弟。
一瞬、目があう。
目を見開いて、驚いた、弟の顔。
あぁ、良かった。
お前が無事で。
そう思ったのが俺の最後の記憶だった。
次に俺が目を覚ました場所は、
真っ白い、何もない空間だった。
体を動かそうと思ったけれど、
何故か動くことができない。
それこそ、目を開けているのか
閉じているのかさえ、わからない。
病院かと思ったけれど、
俺自身の身体さえ
俺は認知できなかった。
あぁ、俺、死んだんだな、と思った。
でも俺、頑張ったし、弟は無事だった。
だからもういいか、死んでも。
そう思ったら、
大きな手に頭を撫でられる感覚がした。
『そうだね、頑張ったね』
暖かい声がする。
『頑張りすぎて、君の魂は
ちょっと疲れているみたいだ』
なんだろう。
眠くなってくる。
『たくさん頑張ったご褒美に、
ここでゆっくり休んだらいい。
元気になったら、
沢山愛される場所に行こう』
沢山愛される場所?
そんな場所なんて、あるのだろうか。
でもあったらいいな。
俺は、家族に恵まれなかった、なんて言わない。
けれど、もう少し長く、
家族と過ごす時間が欲しかった。
母と、父と、弟と。
それから、友達も欲しかった。
俺は母が仕事で家を空けることが
多かったから、弟の世話をするために
クラブ活動もしなかったし、
学校のクラスメイトと遊ぶこともなかった。
もし俺が愛さえる場所があるのなら、
友だちと、家族と一緒に
笑って過ごせる場所がいいな。
俺がこのまま死の世界に行くのなら、
父や母と会えるのだろうか。
そしたらまた、一緒に……?
優しい手が俺の頭を何度も撫でる。
『眠るがいい。
次は君が愛され、守られる世界だ』
いいな、それ。
俺も守ってもらえるなんて。
俺はうとうとする。
いいな。
愛される世界か。
楽しみだな。
俺はそんなことを思いながら
眠りの世界に落ちて行った。
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