317 / 355
愛があるれる世界
316:愛し合いたい欲
しおりを挟むマイクは私の指をなぞり、
ようやく繋いだ手を離した。
そして私の手を取り、
その手のひらに口づける。
「私は……何度もユウさまに
好きに触れていいと言われても、
私は自分から触れることができない
臆病者なのです」
苦しそうに、マイクは告白する。
「こうしてユウさまから先に
触れていただかないと、
ユウさまを求めることができない臆病者。
どんなにユウさまに、私が『特別だ』と
そう言っていただいても
それを喜びながらも、
身分制度がちらつくと、
自信が無くなり、私は脅えてしまう」
マイクの舌が、
私の手のひらに押し当てられた。
「それでも私は。
何度も、何度も。
ユウさまの気持ちを確かめたい。
私がユウさまをお慕いする気持ちを、
ユウさまに押し付けたくて仕方がないのです」
マイクも、愛すること、愛されることに
臆病なんだろうか。
私はふとそんなことを思った。
私がいつも誰かに
「愛されたい」と思っていたけれど、
実際に愛されてしまうと、
脅えてしまったように。
マイクももしかしたら
人と関わり合うことが
苦手なのかもしれない。
「押し付けて、いいよ」
私はマイクの手を引いた。
「私も、愛されたい欲を
皆に……ううん、マイクに押し付けてるもん」
だから、おあいこ。
そう言うと、
マイクは少しだけ笑って
私に引き寄せられるまま、唇を重ねた。
軽く触れただけだったけれど、
それだけで私は甘い息が出てしまう。
マイクの香りを強く感じて、
もっと触れたい、って思う。
だからすぐに離れようとしたマイクに
腕を伸ばして抱きついてみる。
マイクは私を抱き留めたけれど、
動くことはしなかった。
私はマイクが受け入れてくれたので
マイクの胸にしがみつき、
シャツ越しの肌に頬を摺り寄せた。
暖かい人肌は、久しぶりな気がした。
マイクの腕の中は特に安心できる。
それはきっと、マイクが私を
マイクの全てを掛けて愛してくれていると
私の無意識が理解しているからだと思う。
マイクはきっと、
私以上に大事なものは、ない。
私のために家族も切り捨ててしまうような人だ。
マイクの最愛は私なのだ。
そう思うだけで、嬉しくなる。
私の前ではマイクには
大事な家族も友人も、
守るべき国もない。
王族や国の中枢を担う貴族でないからこそ、
マイクはその存在すべてで
私を愛してくれることができるのだ。
その価値を、マイクは理解していない。
そのことが、
どれだけ私を幸福にしているのか、
わかってないのだ。
だから私は何度でも言う。
「私はマイクにそばにいて欲しいの。
ずっと、ずっと。
こうして、私が甘えたいときは
マイクに受け留めて欲しいし、
沢山触れ合いたい」
マイクにしがみついて
私はマイクの心臓の音を聞いていた。
安心するのだ。
「大好き」というと、
私の体を支える腕の力が強くなる。
「ユウさま」
マイクが私の耳に唇を寄せた。
マイクの優しい声が、
私の耳をくすぐる。
「愛しています。
私を伴侶にと望んでいただけるのであれば、
私は……どのような苦難にも堪えて見せましょう」
それは決意だったんだと思う。
マイクの言葉には強い意志があった。
でも私はマイクに苦難を与えたいわけではない。
ただ、一緒にいたいだけなのだ。
どうしたらいいのだろう。
私はマイクを見上げる。
どうしたら?
マイクはヴァレリアンたちとの
身分差が苦しいという。
なら、マイクとヴァレリアンたちが
一緒にいる時間が無くなれば
いいのではないだろうか。
それなら、独占欲が強い
カーティスだって、
マイクを排除することはできない。
なら、さっき話題に出ていた
『通い婚』という状態が
一番良いんじゃないだろうか。
マイクがこの国に住めば、
ヴァレリアンたちとは会わなくて済むし……。
と、考えて、
マイクはこの国の住人ではないし
家族との問題も解決したのに、
私が勝手に決めることではないと
思い直す。
私は今まで一人で考えて
一人で行動していたので
こういう時はつい、
一人で考えてすぐに先走ってしまう。
ちゃんとマイクの意見を聞かないと。
だいたい、マイクには
プロポーズもしてもらってないのだし。
いや、私がプロポーズをしたのと
同じ状況になってるのか?
だからこんな話になっているのか?
よくわからなくなってきた。
私は頭を整理しようと、
マイクから少しだけ体を離す。
こうして問題が起こった時は
1つ、1つ解決していく。
それは工場バイトで学んだことだ。
だから私は聞いた。
「マイクは私と結婚するのは嫌?」
「そんな筈はありません!」
激しく、すぐに否定され
私はほっと息をつく。
「よかった」
「ほんとうにユウさまは…
私との婚姻を望んでくださっているのでしょうか?」
まだ疑うのかと
マイクを見上げると、マイクはすぐに
申し訳ありません、という。
この世界の貞操観念とか倫理観とかが
私のいた世界とかなり違うことは理解している。
もしかしたらマイクは
肌を重ねたり、好きだと告げたりしても
それと結婚は別だと考えていたのだろうか。
まぁ、一夫多妻とか一夫多妻とか。
そういうのが普通の世界なので、
浮気とかそういう考えが
薄い世界なのかもしれない。
こういうことは、
きちんと話をしておいた方がいいのかな。
この世界の常識を知らないと
今後、苦労するかもしれないし。
でも、もし結婚……するならば、
みんなと結婚するのなら。
その知識は必要ないかもしれない。
だってもうこれ以上、
ダンナ様を増やすつもりはないのだから。
そんなことを考えていると、
マイクの唇が私の頬に触れた。
さっき、ディランが落とした唇とは
逆の頬だった。
マイクがこうして自分から進んで
私に触れてくることは、あまりない。
うん、嬉しい。
私はつい、笑みをこぼしてしまった。
0
このお話の前作です。
良ければ、ご覧ください。
【R18】女なのでBとLのみの世界は勘弁してください!「いらない子」が溺愛に堕ちる!
このお話の前作です。第一章↑には、番外編として悠子と入れ替わった男の子、勇くんと
年上残念イケメンとの男×女R18 サイドストーリーも掲載しています。
ご興味があれば、併せてご覧ください。
良ければ、ご覧ください。
【R18】女なのでBとLのみの世界は勘弁してください!「いらない子」が溺愛に堕ちる!
このお話の前作です。第一章↑には、番外編として悠子と入れ替わった男の子、勇くんと
年上残念イケメンとの男×女R18 サイドストーリーも掲載しています。
ご興味があれば、併せてご覧ください。
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる