【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

文字の大きさ
上 下
298 / 355
愛があるれる世界

297:女神の愛し子の行方2【ヴァレリアンSIDE】

しおりを挟む
 

 この部屋は広く、
俺が座っているソファーとテーブルは
3人掛けのものと、一人掛けの椅子が
二脚でセットになっている。

だがそれ以外にも
この部屋でユウだけでなく
俺たちも長時間過ごせるように
簡易デスクや、テーブルなどもある。

この部屋の入口付近には
飾り棚などで遮り、
侍従が控えられる場所も作っている。

簡易キッチンも併設しおり、
今はヒヨコたち……ケインやエルヴィンは
そちらのデスクに座っていた。

もちろん、部屋の一番奥は
ユウのための大きな天蓋付きのベットがあり、
さらに奥は浴室になる。

ここは『大聖樹の宮』の、一番警護が厚い、
特別な場所だ。

人見知りが激しいユウの世話は
護衛も兼ねて俺たち金聖騎士団が、
というよりも、副団長であり
第三王子のカーティスが主に行っていた。

通常、着替えなどは侍従が
手伝うものだが、全てカーティスが
俺たちを牽制し、独占してやっていた。

そう言った意味では、
侍従が出入りすることがないこの部屋に
侍従用の控えの場を作ったのは、
ヒヨコたちのためだ。

仲の良いことが金聖騎士団の特徴だが
ずっと団長である俺や
副団長のカーティスのそばにいるのは
ヒヨコたちに負担がかかると
バーナードが進言したからだ。

ヒヨコ、ヒヨコと呼ぶ二人も、
そろそろ新米のヒヨコでは
なくなってきていて、
ユウがいなくなった一件からは、
顔つきもかなり良くなっている。

ヒヨコなりに成長したとは思うし、
そんな配慮は必要ないと思ったが、
実際に控えの場を作ると、
ケインとエルヴィンはその場から
離れることはなかったので
それなりに必要だったのかと今では思っている。

俺の座っているソファーから
飾り棚の方を見ると、
「ユウちゃーん」
と、情けない声でデスクに突っ伏する
エルヴィンの姿が目に入る。

隣のデスクに座っていたケインが
そんなエルヴィンを冷たい目でみているが、
その冷静な瞳にも焦りが見えていた。

窓辺に視線を移すと
スタンリーが眼鏡の奥で
厳しい瞳を外に向けていた。

もともと厳しい顔つきの男だったが
ユウがいなくなってから
さらに冷酷さに磨きがかかったように見える。

カーティスもだ。
他人の前では『優しい第三王子』の仮面を
上手く被っていたが、ユウが消えてからは
その仮面もはがれかかっている。

金聖騎士団の中で唯一、
結婚式を控えたバーナードだけは
通常通りだ。

……表面上は、だが。

バーナードはカーティスや
スタンリーにもお茶を配り、
ヒヨコの二人には自分で入れるように言う。

不満そうなエルヴィンと
頭を下げるケインを促し、
バーナードは二人の背を押して
簡易キッチンへと向かった。

ここはユウのための特別な部屋なので
この部屋に居れば、何でも揃う。

簡易のキッチンがあるので
料理も作れるし、風呂も、
大きなベットもある。

金聖騎士団のメンバー全員が
この部屋で一緒に泊まることも可能だ。

人見知りをして、俺たち以外の人間を
怖がっていたユウのために、
引きこもれるように特別に作らせた部屋だった。

俺はバーナードが淹れたお茶を一口飲んだ。

ユウがいた時は、甘いお茶や
ミルクを入れたお茶も飲んだが、
ユウがいない今、そんなお茶を好んで
飲むものはここにはいない。

また以前は、ユウが喜ぶからと
菓子やフルーツなども常備されていたが
それも、ない。

俺たちが飲むための酒は置いてあるが
ユウがいなくなってからは
飲む気にもなれず、
食器棚の隅に放置されたままだった。


「ユウ、早く帰って来いよ」

俺は呟いた。

早く顔が見たい。
可愛い笑顔を見たい。

小柄な体を抱きしめたい。

俺は息を吐き、
カップをテーブルに置いた。

と、急に、ドン!という音がして
壁が揺れた。

反射的に全員が戦闘態勢になる。
剣に手を掛け、音がした方を見る。

音は簡易キッチンのそばにある
食器棚から聞こえたような気がした。

ガラス製の扉が付いた
ただの食器棚だ。

ユウが好んでいたカップや皿、
カトラリーが置いてあるだけの棚。

常備していた菓子は無くなり、
一番下の段には、
俺たちの酒のボトルが入っている。

俺たちはじっと、食器棚を見た。
かなりの音だった。

上から何かが落ちて来た気配はない。
もちろん、何かがぶつかった形跡もない。

どうみても食器棚に変化はないように見える。

中にある食器も割れた様子はない。

どういうことだ?
何が起こったのかわからずに、
部屋は異様な緊張感に包まれた。

誰も言葉を発しない。

俺の指示を待っているのだ。

俺はもう一度食器棚を見る。

剣から手を離さずに、
食器棚に向かった。

俺の隣にカーティスが立つ。

すぐ前にバーナードが来た。

バーナードは盾役なので
俺の前に立ったのだろう。

すぐにスタンリーとケイン、
エルヴィンも俺の後ろに着く。

部屋は広いとはいえ、室内だ。

広がって戦闘することはできない。

緊張したまましばらく待ったが、
何も起こらない。

「あの音、食器棚から聞こえたよな?」

俺の問いに

「私もそう聞こえたけど、
じつは壁の向こうの音だった……?」

とカーティスが言う。

「いや、食器棚から聞こえた」
とスタンリーがすぐに否定した。

「でも、何も聞こえないな」と
スタンリーが呟いたとき、
もう一度、食器棚が揺れた。

大きく、左右に。

だが地震ではない。
どこも揺れていない。

ただ不自然に、食器棚だけが
何故か左右に揺れたのだ。

魔法……でもない。
魔力は感じない。

「どういうことだ?」

俺の問いかけに、誰も答えなかった。

どうしたものか、と思った俺の目の前で
今度は食器棚が、ガチャガチャと
ガラス製の扉を鳴らしている。

「え? え? 何、なに!?」

エルヴィンが興奮したような声を出す。

不可解なことに恐怖が沸き起こった、
というよりは、好奇心にあふれた、
というような声だった。

俺は全員に、一歩下がるように指示を出す。

不可解過ぎる現象に
念のため退避できるように距離を取ったのだ。

どうすべきか。

緊張のまま食器棚を見つめる。

と、突然、食器棚の扉が開いた。

食器が入っているだけの
奥行きが浅いただの棚だった筈なのに。

「コントかよ!
ってそんなわけあるか!」

と乱暴なのに、可愛らしい声がして、
中から人が出て来た。

俺たちが。
いや、俺が。

ずっと恋焦がれていた……。

「ユウ!!」

俺が叫ぶと、ユウは可愛らしい笑顔で
俺たちを見た。

そして首を傾げ、振り返る。

「また食器棚!?
どうなってんの、いったい!」

とユウは叫んだが。
俺たちはそんな言葉を聞くこともなく
夢中でユウの元に駆け寄る。

そして誰よりも早く俺は、
ユウを抱きしめた。





しおりを挟む
このお話の前作です。
良ければ、ご覧ください。

【R18】女なのでBとLのみの世界は勘弁してください!「いらない子」が溺愛に堕ちる!

このお話の前作です。第一章↑には、番外編として悠子と入れ替わった男の子、勇くんと
年上残念イケメンとの男×女R18 サイドストーリーも掲載しています。

ご興味があれば、併せてご覧ください。
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...