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獣人の国
230:会いたい人【賢者SIDE】
しおりを挟む僕は白い空間で、
女神が勧めるお茶を2杯飲んだ。
そしてケーキとクッキーも食べた。
合間に僕の存在が異世界で
どんな扱いになるのか、
僕に何を求められているのかを聞いた。
女神は悠子ちゃんの話になると
饒舌になった。
初めてできた友だちだとか、
いつかは一緒に世界を創るのだとか。
目をキラキラさせて話をしている。
そんなことができるのかはわからないが、
あまりにも嬉しそうに語るので
僕は施設の子どもたちを思い出し、
ひたすら相槌をうつ。
ただ、話を聞いている限り、
この女神に随分と悠子ちゃんは
振り回されているように見える。
優しく世話焼きの悠子ちゃんは
きっとこの女神のことを
施設の妹たちと同じように感じて
接しているのだろう。
女神の話は、意味不明な単語が
たまに出てくるが、
それでもやるべきことはだいぶ理解できた。
『もし元の世界に戻りたくなったら
ユウに言えばいい。
ユウはわしと繋がってるからな。
戻してやる。
ただし、元の世界のそなたは
さほど長生きはできんじゃろう。
その状態に戻るぞ』
「僕が女神の世界に行ったら。
元の世界に戻らなかったら
どうなりますか?」
『おぬしの身体は、まぁ、元気になるじゃろう。
少なくとも、元の世界に戻るよりは
ずっと長生きできるじゃろうな』
「そうですか。
ありがとうございます」
つまりは、女神の世界にいれば
悠子ちゃんと長い時間、
一緒にいることができるわけだ。
それだけでも、ありがたい。
『おぬしの名は、賢者じゃ』
賢者。それは一度聞いた。
でもそれは称号ではないのだろうか。
『おぬしがもし、
わしの世界で生きていくことを決めたら
名を付けて貰えばいい。
それでわしの世界の住人になれる』
「それまでは?」
『おぬしはわしの世界の客人扱いじゃ。
先輩女神に無理を言って
そなたを借りて来たんじゃ。
名を付け、名乗れば、
そなたはわしの世界の理に組み込まれる。
じゃから、当分わしの世界では
そなたの名はない。
覚悟が決まったら、
ユウに付けて貰え』
僕が悠子ちゃんがいる世界で生きると
覚悟を決めたら、悠子ちゃんが
僕に名前を……同じ世界で生きるための
資格を与えてくれるのか。
『ユウはおぬしを訪ねてくるだろう。
しばし待っておれ」
女神は言う。
僕がわかりましたと頭を下げると、
また急に視界がまたぐらぐらしてきた。
と思ったら、
僕は……気が付いたら小さな家の中に
ぽつんと立っていた。
あの絵本の家だ、と僕はすぐに思った。
そこから僕はまずは生活基盤を
整えることに専念した。
幸い、家には食料も置いてあったし、
家の裏には井戸もあった。
備え付けてあったクローゼットには
僕が着れる服が何着も入っていたし、
戸棚にはベットや布団、毛布も、
洗い替えのシーツまであった。
風呂は水汲みをしなくても
何故か水が出てくる水道があり、
漠然と魔法だと思った。
ソファーやテーブルなどの
家具もすべて揃っている。
不自由はなさそうだ。
女神からもらった『見る・知る』の
力は便利で、草や食べ物なども
見ようと思ってみるだけで
成分や効能、組み合わせで何が生み出せるかなど
様々な情報が頭に浮かぶ。
僕はその力を使って、
薬を作り、街に出た。
僕が若返っていることに
気が付いたのは、街に出るようになってからだ。
街の人たちに最初はあやしまれたが、
薬を売りに来たと言えば、
街の人たちの興味を引く。
そこで最初は簡単なものを無料で渡し、
満足できたら、お金や食料を
持って来てほしいと頼んだ。
するとよほど薬の効き目が良かったのか、
その翌日から僕の家には
いろんな人たちが訪ねてくるようになった。
とはいえ、
薬を売りに街に行く必要が無くなっても
僕は数日おきに街に出た。
街の人たちの様子や、
大きな変化がないかなど、
歩きながら観察をするためだ。
そうやって生活をしながら
僕は毎日、大量の女神の記憶が
書かれた本や資料に目を通した。
本や資料を『見る』と、
中身を見なくても、何に関して
書かれているのかがわかるので、
中身を見ることなく、
まずはおおまかにわけていく。
塔には隣国の……悠子ちゃんが
女神の愛し子として召喚される前の
世界の詳細が書かれている物ばかりを集めた。
女神は何度も世界が崩壊したと言っていたので、
読めばその経緯がわかると思う。
だが、これはすぐに見る必要はないだろう。
それから書庫として考えていた部屋には、
悠子ちゃんがこの世界に来てから
起こったことが書いてあるものばかりを集める。
女神がやりたかったこと。
やろうとしていたこと。
悠子ちゃんがそれにどうかかわったのか。
悠子ちゃんがどのように女神と接し、
女神が何を変えたかまで
本には載っていた。
あとは、この国を創るときに
女神が考え行ったことが書いてある本と、
獣人の資料もある。
大量だ。
少しづつ読んで行こう。
それと、種。
何の種か聞いてないが、
推察すると『聖樹』の種だと思われる。
大事に保管しておかないと、
失くしてしまったら
取り返しがつかない。
悠子ちゃんと出会った時のために
客間……いや、悠子ちゃんの
部屋も作っておこう。
あと書庫も。
整理した本や書類はここに整理して
置いていけばいいだろう。
僕は計画を立てながら
この世界に少しづつ馴染んで行った。
女神の本によれば、
獣人で魔法を使える人はごくわずかだが、
隣国……悠子ちゃんがいる国では
魔法を当たり前のように使える人が
大勢いるらしい。
代わりに獣人たちは身体能力が高い。
魔法を打ち消すぐらいの強い精神力を
手にすることもできるようだ。
もし国同士で交流を始めるのであれば、
そのあたりも考えなければならないだろう。
互いに知らないものを受け入れるのは
脅威になるだろうから。
そういう僕は、当たり前だけど
魔法なんて全く使えなかった。
少しだけ残念だ。
悠子ちゃんは魔法が使えるのだろうか。
そんなことを考えたりしながら
僕が生活を始めて数か月ぐらいは
経っただろう。
この国の王という人から使いがきた。
ようやく、物語が進むのだと思った。
ただ、使者の人に名前を聞かれて
「賢者です」と名乗ったら、
物凄く微妙な顔をされた。
元の世界で随分と長生きをしたが、
名前を名乗って恥ずかしいと
思ったのは初めてだ。
だが、新しい経験というのは、
存外楽しいものだ。
僕はそう思いながら
悠子ちゃんが来るのを待っていた。
そして悠子ちゃんが僕の家にきたのは
その使者が来てからさらに数か月後のことだった。
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このお話の前作です。
良ければ、ご覧ください。
【R18】女なのでBとLのみの世界は勘弁してください!「いらない子」が溺愛に堕ちる!
このお話の前作です。第一章↑には、番外編として悠子と入れ替わった男の子、勇くんと
年上残念イケメンとの男×女R18 サイドストーリーも掲載しています。
ご興味があれば、併せてご覧ください。
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