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獣人の国
213:酷い現状
しおりを挟む「じゃあ、さっそくだけど、
この国のこと、ディランにはなんて聞いてるのかな?」
そう言われて、
私はディランから聞いていた
『聖樹』の話をした。
この国に『聖樹』は1本しかなくて、
国を魔物や魔獣から守っている。
人口が増えて来たので、
領土を増やしたいけれど、
『聖樹』の力が届く範囲が限られているので
領土を増やすことはできない。
そんなとき、女神のご神託が降りて、
セイジョが何とかするから
探して来いってと言われ、
ディランが探しに来た。
たしか、そんな話だったと思う。
「そう。そういう話だったんだ。
ディランが旅に出た時はね。
でも、それから色々困ったことが出てきてしまってね」
デビアンさんはお茶を一口飲んだ。
「人口が増えている。
それは物凄い数で、だ。
ユウ殿も町や宮殿にいる人間が
多いとは思わなかったかい?」
確かに、と私は頷く。
おそらく後ろにいるマイクも頷いているだろう。
「不思議なんだけどね。
色々……ほんとうに、色々なことが
急激に変わったんだ」
デビアンさんは言う。
「人口もいきなり増えた。
最初はおだやかな上昇だったのに、
いきなり多くの者たちが
多くの子どもを生んだ。
いや、それだけではない。
様々な価値観が急に生まれ、
国は混乱している。
急に今までとは全く違った
主義主張をする者たちが増え、
対応にも追われているのだ。
もちろん、理由はない。
ただ、呪いとしか言いようがない。
……なにをどう説明すれば
理解してもらえるのか、
わからないのだが」
困ったように眉をひそめるデビアンさんに
私は土下座する勢いで謝りたくなった。
たぶんそれ、女神ちゃんの仕業だ。
そうとしか考えられない。
私に報告、連絡、相談を徹底するように
教え込んだはずなのに、
また勝手に何かやってるんだ!
私があやまるのも変だけど、
でも、女神ちゃんは私の身内みたいなものだし。
対応に困っていると、
マイクが私の後ろから声を出した。
「1つ1つ、小さなことからで構いませんので
ユウさまにお話をしてくださいますか?」
ありがとう!とマイクを振り返ると、
マイクが小さく頷く。
そんな私とマイクの様子を見て、
デビアンさんは、取り乱してすまない、と
頭を下げる。
そして、話を始めた。
それは私が、当事者だったら
摩訶不思議過ぎて、正気を失ったと
思ってしまう程の内容だった。
デビアンさんの話では、
デビアンさんがおかしいと気が付いたのは
ディランが旅に出て数か月たってかららしい。
国におかしな呪いが発生したというのだ。
その呪いは、『聖樹』から遠ざかると、
人間たちに獣のような耳やしっぽが
生えるというものだった。
ただその呪いは『聖樹』のそばで
祈りを捧げると、すぐに消えるらしい。
デビアンさんはそんなわけがないと思ったが、
実際に耳や尻尾が生えた騎士の姿を見て
呪いだと判断したらしい。
そして耳やしっぽが生えた人たちは、
『聖樹』に祈り、元通りの生活に戻ったが
戻らないものもあった。
それは、感覚だったり、感性だったり、
嗜好だったり。
目に見えないような些細なことから
考え方や、価値観まで
すべてが変わってしまったらしい。
たとえば、肉ばかり好んで食べていたのに、
野菜しか食べ無くなったり、
普通の家屋に住んでいたのに、
土壁の家に住みたいと岩や土を
山から運んできたり。
そして実際に、そういった者たちは
誰にも作り方を学んでないにもかかわらず
望んだ家を作ってしまうのだ。
それが原因で、パートナーと別れた人もいる。
けれど、家族でその変化を受け入れた者たちは
一様に多産家系に変わってしまったという。
また沢山子どもが生まれるのは良いが、
そうやって生まれた子どもたちは
発育が異様に早く、あっというまに
成人のような状態になってしまうらしい。
おかげで国の人口は増えるし、
『聖樹』から離れられないので
人口密度は高くなるばかり。
最近は、そういった呪いがあるので
『聖樹』の力が届かないような森に
狩りに行く者も減り、
職に溢れる人もでてきているらしい。
私は頭をかかえたくなった。
それ、獣人設定が途中で生まれたからだと思う。
女神ちゃんがいきなり、
『幼女で聖女』より獣人の国が良いとか言いだして。
この国を創った後だというのに、
いきなりこの国の人たちを
獣人にしてしまったのだ。
女神ちゃんは、大丈夫だとか
辻褄をちゃんと合わせたとか、
そんなことを軽い調子で言っていたけど。
全然ダメじゃん!
ダメダメじゃん!
きっと、獣人と言っても、
様々な種族がいるだろう、と私は思った。
元になっている獣によって、
肉食か草食かの違いもあるだろうし、
樹の上で住みたい獣もいれば、
土の中で生活したい獣もいる。
子どもの成長が早いのも獣の特徴だと思うし、
多産もそうだと思う。
だからこの国はいろんなものが
ごちゃごちゃしていたのだ。
女神ちゃんの『獣人がいい』の一言で
とてつもない被害が生まれている……。
いや、ここで途方に暮れていてもしょうがない。
何をすべきか考えなくては。
私が考え込んでしまったからか、
デビアンさんは、本当なんです、と
さらに言い募る。
「大丈夫。疑ってません」
私は慌てて言った。
疑うどころか、原因も知っている。
デビアンさんはほっとしたような顔をした。
「ディランはこの国から離れていましたので
呪いにはかかってないと思われますが、
一応、検査を今、受けさせています」
ディランは、犬歯がめちゃくちゃ
大きくなったんだよ、って言ったら
きっと驚くだろうなー。
はははは。
って笑ったら、冗談にならないかしら?
「ユウ殿。
この国を貴方は本当に救ってくださるのか?
あなたは、この国の救世主なのだろうか」
「ユウさまを疑うのですか?」
私が返事をする前に、マイクが唸る。
「ユウさまは、わが国の至宝。
女神の友人であり、愛し子であり、
多くの奇跡を起こす稀有な存在なのです。
そのユウさまが、わざわざ
この国に足を運んだと言うのに、
ユウさまを疑うなど……っ!」
「マイク!」
私は慌てて立ち上がった。
それ以上は言うな、と首を振る。
「しかし、ユウさま」
「いいの。
この国には私のことは知られてないし、
私に何ができるかまだわからないんだから。
期待させても申し訳ないし」
私はマイクを宥めて、
改めてデビアンさんに向き直った。
デビアンさんもマイクの剣幕に
驚いたのか、ソファーから立ち上がっている。
「私に何ができるかわかりませんので、
かならずこの国を救います、とは言えません。
ですが、『聖樹』に関しては、
なんとかなると思います」
「本当ですか!」
デビアンさんは声を挙げ、
私の手を取り、何度も頭を下げる。
けれど後ろからは
「ユウさまのお言葉を信じることが
できないなど、愚者でしかない」と
冷たい言葉が聞こえて来た。
いや、さっきの「本当ですか?」は
疑いの言葉じゃないと思うんだけどな。
そう思ったけれど、
私は何も言わずに、曖昧に笑って見せた。
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