【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

文字の大きさ
上 下
142 / 355
隣国へ

141:村の過去

しおりを挟む
 


 なんとか二人を宥めて、
私たちは遅い昼食を食べた。

私の精神的ダメージが、半端ない。

それでもお腹は空いたので、
マイクが町で買ってきてくれたサンドイッチを食べ、
ディランが森の入り口で見つけたと言う
果物をかじる。

マイクはそれ以外にも肉や野菜も
買ってきてくれていた。

村の井戸の水が飲めることは
すでに確認済なので今夜からは自炊ができそうだ。

と言っても、私は作れないけどね。

お腹が膨れると、
マイクは町できいてきた話をしてくれた。

なんでも昨夜、
私たちを乗せた辻馬車の御者が
こんな何にもない場所で馬車を
下りた私たちを心配して
朝からあの馬車の停留所あたりで
待っていてくれたらしい。

なんて良い人なんだ!

それですぐに辻馬車に乗って
町に行くことができたから
戻ってくるのも早かったんだね。

その御者の話では、
数年前まではこの村は私が思った通り
暖かい水が沸く泉があり、
その泉の水を飲んだり、
体を湯につけると傷や病気が治ると
言われていたそうだ。

だから体を悪くしている年配の人や
なかなか治らない傷を持つ冒険者の人たちが
この村を湯治場として使っていたらしい。

おそらく私たちがいるこの家は
その人たちが湯に浸かったり、
宿泊するのに使っていた家なのだろう。

また町から辻馬車で通う人もいて
そのことがあり、町とこの村を定期的に
行き来する辻馬車が生まれたそうだ。

けれど、いつの間にか泉が枯れ、
湯治に通う人もいなくなり、
湯治場に通う人たちへの
飲食や土産用の水を売ったりして
生計を立てていた村の人たちも
少しづついなくなっていったらしい。

そして今ではすっかり廃村になったけれど
辻馬車だけは廃れずにいた。

それはこの村が特別だからというわけではなく
ただ単に私たちが通って来た町と、
また別の街とをつなぐルートの間に
この村があるので、馬を休憩させる場所として
利用しているということだった。

そんな場所に、しかも真っ暗な夜に
私たちが馬車を下りたのだ。
そりゃ御者さんも驚いただろう。

それなら声を掛けてくれたらよかったのに、
と、思わないこともないが。

ただ、御者さんは、私たちを
この辺りで目撃証言がある魔獣を
調査しに来た冒険者だと思ったらしい。

そこで心配もあったし、
情報を聞きたくて朝から待っていたそうだ。

もちろん、私たちに言えることなんて
何もないけどね。

マイクはそこで、偶然、
この場所の宣伝を見かけて
立ち寄ることにした旨を御者さんに伝え、
しばらくこの廃村に留まることも
伝えたそうだ。

そしてお金を握らせて、
朝でも夜でも。
馬を休ませるタイミングで
町で食料などを購入し、
村に届けてもらうよう話を付けたらしい。

購入するものは、こちらから指示が
無い限りは御者さんのお任せで。

買い物に使う金額はこちらが指定するけれど、
それに上乗せをしたお金を渡すので
その差額が御者さんの儲けになるんだとか。

ふえー。
ほんと、マイクってすごいと思う。
仕事ができるというか、なんというか。

しかも御者さんがいつくるか
わからないから、この家に届けるように
言ったけれど、もし前もって到着する時間が
分かるようなら、停留所に取りに行く話もしているらしい。

「すごいね、マイク。ありがとう!
そんなこと考えることができるなんて
尊敬するっ」

それなら町に買い物に行く必要はないし、
御者さんもお金が儲かるし。

すごい、すごい、って手放しで褒めたら
マイクは嬉しそうに…誇らしそうな顔で笑った。

「そのように言っていただいて光栄です、ユウさま」

少し頬を染める顔が可愛く思えて、
私はマイクの髪をぐしゃぐしゃ撫でた。

マイクはまた微笑を深くする、が。

「マイクが一緒にいてくれてよかった」
と私が言った途端、
ディランに腰を引き寄せられた。

不機嫌なディランの顔が見える。

「も、ちろん、ディランも
一緒にいてくれてありがとう」

折角、不毛な喧嘩は終わっていたのに
蒸し返すところだった。

あぶない、あぶない。

「それで?」とディランがマイクを見る。

「この村に出る魔獣のウワサとやらは?」

「目撃情報は曖昧のようです。ユウさま」
と、ディランに聞かれたのに
マイクは私に返事をする。

「ただ…」

マイクは一旦、離しをそこで区切り、
言いにくそうにした。

「どうしたの?」

「町で話を聞いていくと、
泉が枯れ始めた原因が
その魔獣と関係しているのではないかと言う
話を多数聞きまして」

マイクは言い辛そうに顔をしかめた。

「あくまでも噂ということですが、
この村のかつての村長は
泉の水を使って私腹を肥やしていたそうで
この近くの町の人や、この村の住人たちからも
嫌われていたようです」

それ、利益を独り占めしてたとか
そういうパターンだよね、きっと。

「そしてある日、
このあたりを治める領主が
泉の水は領地にある限り
領主のものだ、と主張して
利益を得るのではなく、
広く領民に行き渡るよう計らえと
村長に命じたそうです」

「いい領主さんだね」

「ええ、ですがそれを村長は拒否し、
領主の私兵によってとらえられようと
したのですが…」

「逃げたの?」

「いえ、殺されたそうです」

私は思わず息を飲んだ。
たった水ごときで。
……ただ湧き出る水のために
命を落とすって。

「その村長は抵抗し、
捕縛を逃れ、剣を振り回したため
しかたなく私兵が村長を殺したそうですが
その村長が死んだと言う場所が…」

「まさか、泉があった場所か?」

ディランが口を挟んできた。

「ええ、そのようです。
それから泉の水は出なくなり
村人は、村長の血で泉が穢れたからだと
そう噂をしたとか」

「え? ちょっと待って」

それ、お風呂のお湯とか、
ご飯を食べた時の水とかに
村長の血がまざったりしてない!?

「ユウ。
その話は何年も前のことだし、
食事の水も湯も井戸の水だ。
泉とは関係ない」

思わず立ち上がった私を
ディランが落ち着け、と宥めてくれた。

マイクも私を見て安心させるように
微笑ってくれる。

「おそらく『聖樹』の件もあったからだとは
思うのですが、そのあたりから
村長が魔獣になったのではないか、などの
ウワサもでてきたようです。

ただし、そういった噂も
『聖樹』が蘇ったあたりから
下火になっていたようなのですが。

ところがここ最近、
急に目撃情報が増え、領主からは
この村付近を通る辻馬車の御者たちには
警戒するようにとの通達があったとか」

「つまり、領主が動く原因になったことが
実際にあったってことか?」

「ええ、しかもその魔獣を領主が見たそうです」

「え?そうなの? 無事だったの?って
無事だからそんな通達ができたのか」

焦って妙なことを聞いてしまった。

私の言葉にマイクは優しく頷いて
領主は無事でしたが、と言葉を続けた。

「ただ魔獣を目撃した領主の話では
その魔獣は人間たちを襲うどころか
まったく興味がない素振りだったそうです。

しかも、その姿は黒い体に長い耳をして
背中に大きな翼があった…とか」

ん?
なんか…知ってるような気がする?

それら言葉、嫌な予感しかないんだけど。

ねぇ?






しおりを挟む
このお話の前作です。
良ければ、ご覧ください。

【R18】女なのでBとLのみの世界は勘弁してください!「いらない子」が溺愛に堕ちる!

このお話の前作です。第一章↑には、番外編として悠子と入れ替わった男の子、勇くんと
年上残念イケメンとの男×女R18 サイドストーリーも掲載しています。

ご興味があれば、併せてご覧ください。
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...