【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

文字の大きさ
上 下
121 / 355
新しい世界

122:金太郎になる

しおりを挟む


 

 まだ早朝だと聞いていたのに、
部屋の外を出ると、神官たちが
あちこちで働いているのが見えた。

おいしそうな匂いがしたので
朝食の準備をしている時間なのかもしれない。

私たちを見かけた神官たちは
全員、驚いたような顔をして、
けれど何も言わずに、さっと廊下の隅により、
私たちを通してくれた。

しかも、深々と頭を下げて。

最初は、私が女神の愛し子だから
過剰な敬意を払ってくれているのかと
思っていたのだけれど。

『聖樹』がある部屋に近づくにつれ、
剣を持った聖騎士らしき人たちの
数が増えて、ようやく思い至ったのだ。

みんな、私に脅えているんじゃない?って。

だって大きな剣を持った聖騎士が
私を見るなり、血の気が引いたように
青ざめて、慌てて礼をして道を開けるのだ。

最初はレオを怖がっているかと
思ったけれど、どうみても聖騎士たちの
視線は私を捉えている。

「マイク、ディラン、
私…怖い?」

思わず聞いてしまった。

マイクは何も言わない。

かわりに、ディランが私の髪をくしゃりと撫でた。

「そりゃ…まぁ、あれだけ派手に
あの神官をぶちのめしたんだ。

人間業とは思えねぇし、この国じゃ、
聖獣ってのは女神の眷属なんだろ?

それを馬と同じに移動手段に
使ってんだ。

脅えられても仕方ねぇだろ」

ぐうの音もでない。

「けどな、すごかったよな、あれ。
あの、異世界人なめんな、ってあれ。

すっげー恰好良くて、惚れ直したぜ」

あぁ、言った。
うん、そんなこと言ったよね、確かに。

頭に血が上り過ぎて、
つい、言ってしまった。

「あれでお前は、間違いなく
異世界から召喚された女神の愛し子だって
認識されたってわけだ」

「う~~、恥ずかしい」

「いえ、ユウさま。
素晴らしいことです。

これでユウさまを騙る不届き者は
二度とでないでしょう」

マイクはにこにこと言う。

そうだろうけど。

でもさ、乱暴者とか思われてるかも?

良く考えたら私…
偉そうに動物の背に乗って
のしのし歩いてるって、
金太郎みたいじゃない?

まさかり担いだ金太郎は
クマに乗って移動するんだよね?

レオはクマじゃなくて獅子だけど。

改めて冷静になると
教会内の神官たちに無言で
しかも脅えた目で見つめられている。

でも邪険にするとかではなく
敬意は払ってくれているようで
丁寧にお辞儀をされ、
道を譲られるのだ。

これって、独裁者…?

いやいや、ないない。
冗談じゃない。

そう思っていたら
「ユウちゃん!」と
廊下に明るい声が響いた。

無言の脅えた空気の中に、
その声は異様に聞こえる。

けれど、私にとっては
天使の声だ。

「エルヴィン」

可愛い弟のような存在である
エルヴィンが、前から駆け寄って来た。

優秀な金聖騎士団の中ではまだまだ
ヒヨコと呼ばれているけれど、
足が早く、頼りになる斥候担当だ。

「起きたんだ、良かった」

レオの背に乗っている私を
ぎゅーっと抱きしめてくる。

ディランが咎めようとしたけれど
私は手でそれを制した。

「うん。心配かけてごめんね」

「ほんとだよ!
ユウちゃんは目覚めないし、
やることは沢山だし、
団長たちは機嫌悪いし、
俺は早馬が得意だろうって
何度も王都を往復させられるし」

唇を尖らせるエルヴィンの頭を
私は、よしよし、と撫でてあげた。

「ユウはどこに行くんだ?
団長たちのところか?
朝食なら、俺が部屋に運んでやるよ」

と言ってくれたけど
私は首を振った。

「聖樹が見たいの。
ちゃんと浄化できてるか確認したくて」

女神ちゃんと話に行くとは言えないから
そういう言い方をした。

「そっか。わかった」

エルヴィンは素直に私を案内してくれる。

金太郎の一向に一人、お供が増えた。

もちろん、エルヴィンの相棒であるケインも
すぐに出会う。

感動の再会をもう一度して
お供をもう1人、増やした。

物凄く…目立っている。

わかってるけど…わかってるけど!
今更、どうしようもない。

内心、あたまを抱えていると
静かに騒ぎになっていたらしく、
様子を見に来たバーナードと出会った。

「ユウ、寝てても、起きてても騒ぎを起こすな」

と、バーナードに諦めたように言われた。

ようやく『聖樹』の部屋に来て、
扉を開けて貰った途端、
ヴァレリアン、カーティス、スタンリーの
3人と目が合った。

「「「ユウ!」」」

3人が駆け寄ってくる。

そして9人と一匹の大所帯は
神官や聖騎士たちを遠巻きに、
ようやく『聖樹』の前にやってきたのだ。

レオの背に乗って体を休めたからか、
レオの聖気に癒されたのか。

私も体に力が戻ってきていたので、
『聖樹』の前でヴァレリアンに
抱き上げてもらった。

靴を履いてないことに気が付いたけど、
マイクがさっと靴を履かせてくれる。

さすが!

私がヴァレリアンの腕から下りると
神官の服を着た高い身分らしき人が
私の前に跪いた。

「女神の愛し子様。
私はグルマンの後任で
この教会を取り仕切ります
チャージ・ベルグと申します。

この度のことは…」

と、頭を下げるので、私は慌てて
いいの、いいの、と手を振る。

「この教会の人たちは
何も悪くないってわかってるから」

そういうと、ベルグさんは
ほっとしたような顔をした。

うん。絶対に私、
怖がられてるよね?

気に入らないからって、
いきなり誰かを殴ったりしないよ?

「えっと、聖樹に触れてもいい?」

一応、聞いておこう。
『聖樹』は教会のものだし。

「もちろんでございます」

ベルグさんが大きく頷くので
私はレオを連れて『聖樹』の前に立った。

他の皆は、少し離れた場所で
待っていてもらう。

そんな私たちを、ベルグさんを含め
教会の人たちは、さらに離れた場所で
じっと『聖樹』を…いや、私を見つめていた。

ちょっとやりにくい。

「レオ、今なら私の声は
女神ちゃんに届く?」

『ああ、問題ない』

レオは頷いた。

じゃあ、と私は『聖樹』に触れる。

「女神ちゃん。
めちゃくちゃ言いたいことがあるから
聞こえたら、返事をして」

思いもよらず、強い声が出た。

途端。

『すまん~っ、許してくれーっ』

と泣き声が頭に響いた。

女神ちゃんだ。

神官さんたちが周囲を見回している。

あ、この声、まる聞こえなんだった。

「いいから、女神ちゃん。
話がしたいから、そっちに呼んで」

このまま話をしたら、
女神の威厳もあったもんじゃない。

……もう遅いかもしれないけど。

『怒ってないか?』

「怒ってるから、話がしたいんですけど?」

わーん!と女神ちゃんの泣き声がして
上から…聖樹の葉から水滴が雨のように
ぼたぼた落ちて来た。

ただ、普通の水滴ではなく
光輝いているので、後ろの方で
「聖水だ!」と歓喜の声がする。

私がいなかったらバケツでも持って来てそうな勢いだ。

「女神ちゃん。私、びしょ濡れになる」

そういうと、水滴に濡れた私とレオの体が
輝き始めた。

「ユウ!」

「ユウさま!」

と私を呼ぶ声がしたけど
私は大丈夫、って手を上げた。

「ちょっと、女神ちゃんを叱ってくる。
すぐに戻るから」

いや、わかんないけど。

とにかく心配しないで!

そう伝えた瞬間、私の身体は
水の膜のようなものに包まれた。

あぁ、またこのパターンね。

そう思って目を閉じて。

次に水が弾ける気配に目を開けると
目の前には土下座する姿勢で
謝り続ける女神ちゃんがいた。

しおりを挟む
このお話の前作です。
良ければ、ご覧ください。

【R18】女なのでBとLのみの世界は勘弁してください!「いらない子」が溺愛に堕ちる!

このお話の前作です。第一章↑には、番外編として悠子と入れ替わった男の子、勇くんと
年上残念イケメンとの男×女R18 サイドストーリーも掲載しています。

ご興味があれば、併せてご覧ください。
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...