【完結・R18】「いらない子」が『エロの金字塔』世界で溺愛され世界を救う、そんな話

たたら

文字の大きさ
上 下
114 / 355
新しい世界

115:生贄と闇の魔素

しおりを挟む



 私がマイクの膝の上で
早く、と訴えるので、マイクは諦めたように
話をしてくれた。

マイクは小声で、口もとを私の頬に寄せる。

「以前…かなり前のことですが
ある村で<闇>の魔素を研究した者がいるのです。

人間たちが<闇>の魔素を使って
魔獣や魔物を生みだせば、
それらを操ることができると思ったようです」

あ、その話…知ってるかも。

「結果、その村は滅びました。
魔獣になった村人の暴走が原因だそうです。

この話をすることは王命で禁じられ、
神官の間でも、この研究のことは
禁忌の魔術とされ、
研究方法や研究結果は破棄された…
と、されています」

「されている?」

「はい。ですが噂では
ごく一部の高位神官が破棄したと
見せかけて着服したとの噂があるのです」

「え、それって…」

「はい、その高位神官というのが
今から向かう『聖樹の街』を実質
治めている教会の主教…神官になります」

めちゃくちゃ真っ黒じゃない?それ。
嫌な予感しかしないんだけど。

「私もその研究資料を見たわけではないので
はっきりとは言えないのですが。

聞いた話では<闇>の魔素は
幼い子どもほど染まりやすく、
魔獣や魔物になりやすいと。

その代わり、自我が保ち辛く、
従順になりにくいと…そう神官の間では
噂話として流れておりました。

ですので、実際に使役するのであれば
成人した人間が良いでしょう。

ですが、としてなら
子どもを……」

私の顔から血の気が引いていたのに
気が付いたのだろう。

マイクが言葉を、止めた。

私は、感情を押さえようと
何度も呼吸を繰り返した。

私はかつて、<闇>の魔素の
研究で辛い思いをした人たちを知っている。

その滅んだ村も見たことがある。
そしてその後、その研究を引き継いだ人も。

まだ。
まだのか。

むしろ、あれが序章だったのか。

怒りが、沸き起こる。

あの研究を引き継いだ人は
大きな悲しみを抱えた人だった。

決して面白半分や私利私欲のために
<闇>の魔素に手を出したわけでは無かった。

なのに。

子どもを実験材料にして
まだ、そんなことをしている人間がいるのか。

<闇>の魔素など、操れるものではないのに。

「ユウ、さま」

きゅっと抱きしめられた。

あまりにも憤ってしまって、
マイクの膝の上だと言うことを
忘れてしまっていた。

「申し訳ありません。
御聞き苦しい話をしてしまいました」

「ううん、違う。
謝るのはマイクじゃない」

もし、その話が本当なら
謝るのは<闇>の魔素を扱おうと
している人間たちだ。

イライラする。

イライラする…けど。

マイクの唇が、頬に触れた。

意図的なのか、偶然なのかわからない。
でも、触れた場所から、
あたたかな気持ちになる。

大丈夫でしょうか。
と、耳元で囁くマイクの唇は
今度は耳たぶに触れる。

偶然…じゃない。

乙女な…マイクの戯れだ。

でも嫌じゃない。
嬉しい。

私は息を吐いた。

「ごめんね、落ち着いた」

「いえ、私も伝え方に
もっと配慮をすべきでした」

私の手を取り、マイクが心配そうに
指先に唇を寄せる。

甘い空気なのに、
恥ずかしがっているのは私だけだ。

「どうか…街に入ったら
決して私と離れないようにしてください。

また、街から出るときも…」

「出るときも?」

「はい。『聖樹の街』は
街の外もまた、危険なのです」

そう言ったマイクの言葉の意味が
わかったのは、『聖樹の街』に
近づいてきた時だった。

いきなり馬車の歩みが遅くなり、
窓の外を見ると……

砂漠だった。

いや、砂丘?

とにかく一面、砂だ。

風が吹くと砂ぼこりが酷い。

御者のおじさんは大丈夫だろうか。


こんな中に街があるのか。

確かに街から逃げ出すのも入るのも、
一人では大変だと思う。

何かあって街から一人で逃げ出しても
こんな砂漠では、遭難しそうだ。

「この場所も…以前は森だったのです」

「え?そうなの?」

考えられない。

「けれど…『聖樹』が枯れ始め
世界に異変が起こり始めた時、
ここも緑が失われ、砂になってしまったのです」

そんなことってあるのだろうか。
これも<闇>の魔素の影響?

予想外のことが起こり過ぎて
頭がパンクしそうだ。

教会に行ったら、女神ちゃんに
絶対に話しかけよう。

何が起こっているのか
ちゃんと聞かなければ。

そう決意しているうちに
馬車は『聖樹の街』に着いた。

おじさんは、砂ぼこりを防ぐために
防御魔法が付与されたコートやマフラーみたいな
ものを着ていた。

馬も同じように防御されている。

そうだよね、良かった。

おじさんは、マイクが街の門番に
通行書を見せて扉を開けるまで
ちゃんと見送ってくれた。

私も手を振ってお礼を言う。

「ユウさま、参りましょう」

マイクに促され、私は大きな鉄の門をくぐる。

中に一歩踏み出した途端、
急に重苦しい空気に私は呼吸を止めた。

まるで何かに上から抑え込まれているような感覚だ。

なにこれ?
物凄く、息苦しい。

みんな、普通に息できてるの?

「ユウさま、どうかされましたか?」

マイクは普通だ。
周囲を見回すが、誰も…苦しそうな顔をしている人はいない。

振り返ると大きな門は閉まり、
その門は…高い、まるでこの街が
要塞であるかのように、強大な塀へと繋がっている。

閉鎖的な空間に、空気が重く感じるだけなのか、
それとも、本当にのか。

自慢じゃないが私の『器』は大きすぎて
<闇>の魔素は、量が少ないとわからない。

例えるならば、水たまりも琵琶湖も一緒。
太平洋ぐらい大きかったら気が付くけど。
みたいな感じだ。

つまり、そんな私が
ここまで苦しいと感じるのだから
これが<闇>の魔素の影響だとしたら
大事だと思う。

それに神官であるマイクが
これに気が付かないと言うことは
街を蔓延している<闇>の魔素が
強大だということだ。

あまりにも大きな力には
人間は鈍感になる。

それは生存本能らしいけど
今は、ダメだ。

鈍感になっていては、
本当に滅んでしまう。

どうする?
マイクに言う?

迷っているうちに、
私はマイクに手を引かれ、
次の馬車に乗っていた。

教会から迎えが来ていたようだ。

乗るとすぐに
馬車は街中を走りだす。

馬車の中ではマイクも心なしか
緊張しているように見えて
私は口を閉ざした。

もう少し、様子を見よう。

マイクの手をぎゅと握ると、
マイクは私を見て、安心させるかのように
優しく笑った。


しおりを挟む
このお話の前作です。
良ければ、ご覧ください。

【R18】女なのでBとLのみの世界は勘弁してください!「いらない子」が溺愛に堕ちる!

このお話の前作です。第一章↑には、番外編として悠子と入れ替わった男の子、勇くんと
年上残念イケメンとの男×女R18 サイドストーリーも掲載しています。

ご興味があれば、併せてご覧ください。
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...