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新しい出会い
24:忠犬ゲット?
しおりを挟む私はため息を付いた。
「ディラン。
私はディランと
これからも旅をするつもりだし、
変なことでケンカしないで。
ね。ずっと一緒って約束したもんね。
マイク…も、
親切にしてもらったのに
勝手に出て行ってごめんなさい。
でもそれは私の意志だし、
ディランは私に巻き込まれただけなの。
私はディランと一緒に
行かなきゃならない理由があるから
これからもディランと一緒に居るし
旅はディランと続けるわ」
ごめんね、というように。
でもはっきり言うと、マイクは
悲しそうな顔をした。
反対にディランは
嬉しそうに私を抱っこしなおす。
「そういうわけだ。
悪かったな」
って、胸を張って勝ち誇るように
言うことじゃないし。
「では、私はユウさまに、
何もしてさしあげることが
できないのでしょうか」
しょぼん、と悲しそうに言われ、
私はわんこか!?
って思う。
幻想でマイクに
垂れた耳が見えそうだ。
「あ、あるよ!
して欲しいこと」
「本当ですか!」
嬉しそうなマイクに
ぶんぶん振る尻尾が見える。
「あのね。
『聖樹』が見たいの」
私はマイクの耳も尻尾も
見えない、見えない、と
心の中で呟く。
「できるかな?
この教会の『聖樹』も
そうなんだけど。
他の街の『聖樹』も
できれば見て回りたいの。
マイクさえ良ければ、
紹介状みたいなものを
書いてもらえたら嬉しいんだけど」
マイクはかなり高位の
神官みたいだし、
もし紹介状を貰えたら
これからかなり楽になるかもしれない。
「もちろんです!
そんなものでよければ、
すぐにでもご用意しましょう」
「ほんと!?
ありがとう!!」
私はマイクの手を取り、
ぎゅーっと握った。
マイクは顔を真っ赤にして、
光栄です、って小さく言う。
「ほら、もういいだろ」
ディランがまたマイクの手を叩く。
マイクは不満そうな顔をしたが
すぐに私を見て微笑を浮かべた。
「ではまず、この教会の
『聖樹』をご覧になられますか?」
「できれば、ぜひっ」
前のめりで言ってしまったのは
仕方が無いと思う。
これからどうするか悩んでいたのだから。
マイクはそれから、
私が村を出た後、
どのように私を追いかけたかを
話をしてくれた。
村や町に立ち寄り、
私たちの話を聞いたところ、
どうやら私が何か
目的があってディランと
行動を共にしているのではないかと
思い始めたらしい。
そしてその目的には『聖樹』が
かかわりあっているのではないかと
そう思ったことなどを話してくれた。
あの村でも『聖樹』を
芽生えさせてしまったから、
そこから連想したみたい。
おかげで、私たちの
目撃証言を追うのではなく、
あの村から一番近い『聖樹』がある
この教会で待ち伏せしていたんだとか。
なるほど。
そういった経緯で、
私たちが来たら、すぐにでも
『聖樹』の場所に案内できるよう
手配済みだったらしい。
あと気になっていた
あの村のことを聞いてみたら
村のおじいちゃんたちは
……みんな、退職した神官だった
みたいだけど。
村を出たのは理由があるだろうと
言ってくれていて、
いつでもまた来て欲しいと
マイクは言付けされていた。
いい人たちだ。
その村の神父だったマイクは
私を探しに旅に出たので、
あの教会は村長さんが
マイクの代わりに守っているらしい。
もともと、マイクは
イレギュラーであの村の
住民になったようなものだから
本人曰く、『いてもいなくても
どちらでも構わない存在』らしい。
そんなこと無いとは思うけど。
でも気がかりはなくなって、
私はいくぶんか、ほっとしていた。
マイクがさっきお茶を持ってきた
見習いの男の子に話をしてくれて
私たちはすぐに『聖樹』がある
場所に行くことができた。
ディランは大きな教会で
緊張しているのか、
私と手を繋いではいたが、
どこか…ぎこちない。
王都の大神殿にあった
『大聖樹』の間は、大きな部屋にあり
天井が吹き抜けになっていた。
というより、屋根がなかった。
屋根が無くて、
太陽の光も、雨も
そのまま『大聖樹』に
降り注ぐような作りの部屋だった。
だけど、そんなことをするのは
『大聖樹』だったからだろう。
この教会の『聖樹』は
教会の奥にある……箱庭?
みたいな場所にあった。
そこは、太陽の光が降り注ぎ、
心地よい風も吹いていて、
とても良い場所だとは思うけど。
どうみても……なんて言うんだろう、
元の世界にあった京都の家屋にある
坪庭…みたいな感じだった。
建物と建物の間にある空間を
利用した小さな庭みたいなところに
幹の太い…でもどこか、
枯れていそうな、
そんな『聖樹』が立っている。
枝の先に白い小さな花の蕾が
一輪だけ咲いていたけれど。
強い風が吹くと、
今にも落ちてしまいそうだ。
それに警備は、
大丈夫なんだろうか、
って思うような状態だった。
『聖樹』の周囲には
柵もなく、知らない人が見たら、
ただの枯れ木にしか見えない。
『大聖樹』の時は
かなり警備の騎士がいたので
拍子抜けだった。
これなら教会に忍び込めば
簡単に『聖樹』を
見れるんじゃない?
って思ったけど。
マイクの話では、
この教会は今はマイクと
一緒だったから大丈夫だけど、
礼拝堂以外は、場所によっては
限られた人しか出入りできないような
魔術が常時、展開されているらしい。
つまり、限られた人しか
限られた場所に行けないわけで。
無理に入ろうとすると、
それこそ人間が確認する前に
無条件で魔法攻撃がなされるらしい。
すごいセキュリティだ。
見えないからと言って
うかつには近寄れないってことか。
「えっと、今は
『聖樹』に近づいても大丈夫?」
一応、聞いておく。
マイクは頷いた。
良かった。
私が『聖樹』に近づくと、
何やら慌てたような様子で
年配の神官や、その補佐みたいな
人たちが私に近づいて来ようとした。
でも、マイクが一にらみしただけで
足が止まる。
もしかして、マイクって
偉いだけでなく、怖い人なのかも?
邪魔されなくて助かるけど。
私はディランの手を離し、
『聖樹』を見上げた。
『聖樹』は…正直、
あまり良い状態ではなかった。
あんなに礼拝堂は
良い空気が流れていたのに。
私はマイクが神官たちを
制してくるのを見て、
ディランを見た。
ディランも少し離れた場所で
私を見守ってくれている。
一度『聖樹』を蘇らせているので
今更驚かれないとは思うけれど。
私の力を見て、怖がられたりしたら
嫌だな、とか思う。
肌を重ねてしまったからだろうか。
私のディランに対する感情が
どんどん育っている気がする。
いや、恋愛とかじゃなくて、
嫌われたくないと言うか、
守られているのが心地よいとか
家族みたいというか。
金聖騎士団の皆と離れてしまい
寂しくて、ぽっかりあいた穴に、
ディランが入りこんでしまったみたいだ。
でも、私をディランが拒絶したとしても
それを私が否定することはできない。
距離を置かれたら嫌だけど、
これからも一緒に旅をするわけだし。
そんなことを考えていたら、
風が頬を撫でた。
優しい風だった。
私は空を見上げた。
真っ青な、綺麗な空だ。
沈んでいきそうな心が浮上する。
しなければならないことは、
感情を抜きにして、しなければならない。
考えるのは、それからだ。
私は『聖樹』の幹に触れた。
元気がない、というよりも
<聖なる魔素>が枯渇している気がする。
もしかして<闇の魔素>を
吸い過ぎたのかな?
私の【器】の<愛>で
なんとかなるだろうか。
「大丈夫?」
手のひらで固い幹に触れ、
ざらざらした樹の皮に
額をこつん、と当てた。
一応、花が1輪だけ咲いていたが
この『聖樹』には花を咲かせるだけの
力が残ってないような気がした。
このままだと、この花は
実にはならない。
それだけは、わかる。
だから私は手の平から
<愛>を注ぐ。
目を閉じて。
私の手のひらから、
【器】に溜まった<愛>が
『聖樹』に流れるように。
風が…吹く。
手が熱くなり、
その熱が『聖樹』を包み込むように、
イメージをする。
『聖樹』を癒すように。
光を浴びて、若葉が伸びる。
青々とした芽が、花が、
大きく太陽に向かって伸びていく。
そんな…イメージ。
ぽたり、と何か冷たいものが
頬にあたる。
目を開けて見上げると、
『聖樹』の葉から
水滴が落ちて来た。
女神ちゃんの涙かと思った。
『大聖樹』を癒した時に
溺れかけたのは女神ちゃんの
涙だったから。
でも、違った。
『聖樹』の葉は、
私を癒すかのように
水滴を…光の液を私に注いだ。
それは、私が使った【器】を
癒すかのような光だった。
私の【器】に『聖樹』の光が
しみわたったとき、
パシっと音がして、
『聖樹』が、割れた。
え!?
って思って。
もちろん、その場にいる
全員が固まった。
でも、私はすぐに理解した。
「いいよ、手伝ってあげる」
縦に割れた『聖樹』は、
『大聖樹』と同じだ。
割れた裂け目に、私はまた
<愛>を注いだ。
そして、さっき『聖樹』に
貰った光の力も一緒に注ぐ。
すると…『聖樹』の裂け目から
新しい芽が生まれた。
もっと、もっと。
元気になって。
そう願って、さらに
<愛>を注ぐ。
すると『聖樹』は
ぐんぐん、枝を伸ばす。
もともとあった『聖樹』の
割けた幹は、新しい樹木に
取り込まれるように
存在が薄くなり……
消えた。
目の前には、
若々しい新しい『聖樹』がある。
疲れたー。
やりきった感で
ふーっと息を吐くと、
マイクが私に駆け寄り、
跪いた。
「ユウさま。
未来永劫の忠誠を貴方に」
って、手を取られ、指先にキスされる。
一瞬、驚いて呼吸を止めてしまったけど。
けど!
ちょっと待って!
重い、重い、重い!
言葉が重いよ?
そういう時は「ありがとう」でしょ?
何よ、未来永劫って。
忠誠なんかいりませーん!
10
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