【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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終章

212:幸せになりました

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 物語の最後は「幸せになりましたとさ、
めでたし、めでたし」だと思う。

そう言う意味でいけば
俺はいつだって「めでたし、めでたし」の
日々を送っている。

そう思えるぐらい、
俺はヴィンセントのそばにいて
毎日が幸せだし楽しい。

今日はとうとう、学校の卒業式だ。

と言っても俺は建設中の
王立の魔法研究所が完成するまでは
学校に通い続けるし、
魔術を研究する仲間も
発掘していかねばならない。

卒業しても、あまり何も変わらない。

いや、変わることもある。

俺とヴィンセントの結婚式が
もう秒読み段階だ。

俺はすでにヴィンセントの伴侶だし
ハーディマン侯爵家の嫁として
公認されている。

だが、結婚式もお披露めも
何もしていなかったので
下級貴族たちには何も伝わってないと思う。

わざわざ「俺がヴィンセントの嫁だ」
なんて言って歩かないし、
高位貴族の面々だって、
俺が公言して歩いていないのに
わざわざ言いふらす者もいない。

みんなパットレイ公爵家と
ハーディマン侯爵家が怖いのだ。

俺はあまり夜会には出ない。

そして夜会に出たとしても
兄やヴィンセント、
幼馴染の殿下たちにひっついているから
限られた者たちとしか
接する機会が無いのだ。

そんな中で俺の噂は
良いものも悪いものも
ひっくるめてかなり社交界を
にぎわしているようだ。

もちろん、にぎわっているのは
下級貴族たちだけなのだが。

そんな俺も今日卒業したら、
成人として認められる。

成人の儀はしていないけれど、
別にしなくても構わない。

そういや、ヴィンセントの
成人の儀の時は俺、
熱出してぶっ倒れてたから
結局、見に行けなかったんだよな。

あれだけは物凄く残念だった。

でも俺は前世で成人式もしたし、
今更感しかない。

卒業式が終わったら、
俺はヴィンセントにエスコートされて
卒業生たちの最初で最後の公式パーティーに参加する。

学生の間は身分の差など関係なく
共に切磋琢磨して学んだが、
卒業後はそうはいかない。

だからこそ、卒業式後は
身分差が全くない状態の、
最初で最後のパーティーなのだ。

この世界での卒業式は
卒業証書の授与があるわけでもなく
物凄く簡単なものだった。

校長の挨拶があり、
新旧生徒会長の送辞と答辞。
それで終了だ。

その場はすぐに解散となり、
また同じ場所でパーティーが始まる。

俺が卒業式場を出ると
すでにヴィンセントが
待っていてくれた。

一旦、屋敷に戻って
着替えるから、迎えに来なくても
良いと言っていたのに、
ヴィンセントは少しでも
俺と一緒に居たいと言う。

ほんと、昔から過保護で
溺愛が過ぎる。

……嬉しいけど。

俺を迎えに来たヴィンセントを見て
下級貴族の生徒たちが
俺を見て何やら言っている。

きっと俺が権力をかさに着て
ヴィンセントを縛り付けてるとか
言ってるんだろうな。

まぁ、権力ではない
違うもので縛り付けてるけど。

って自分で思って笑ってしまう。

「イクス?」

「ううん。僕はヴィンスのことを
物凄ーく強く束縛してるなって思って」

「束縛?イクスが?」

ヴィンセントは笑う。

「それならもっと俺を
縛り付けてくれてもいいんだがな」

そう言ってヴィンセントは
俺の手を繋ぎ、馬車までエスコートした。

どうやらヴィンセントは
俺の前以外では、あまり笑わない人間らしい。

そのことに気が付いたのは
着替えてパーティー会場に入った時だ。

ひそひそとうわさ話が聞こえる。

それは俺のことではなくて
隣にいるヴィンセントのことだった。

ヴィンセントが笑ったとか、
笑顔を初めて見たとか、
氷の騎士では無かったとか。

氷?
ヴィンセントが?

思わず怪訝な顔で見上げたので
ヴィンセントが首を傾げる。

「ううん、ヴィンスはカッコイイし
笑顔は可愛いし、最高だと思って」

「……可愛い? 俺が?」

「うん、僕、ヴィンスの
笑った顔、大好きだもんね」

と、俺が言うと、
ヴィンセントの耳が
虚を突かれたように赤くなる。

「ちょ、あんまし、今は見るな」

恥ずかしがるヴィンセントも
可愛いと思う。

なんて思ってたら、
ヴァルターとミゲルに声をかけられた。
エリオットも一緒だ。

「あんなりこいつを甘やかすなよ」
とエリオットが挨拶もそこそこに俺に言う。

「だが、ここでのイチャイチャは
歓迎だな。うるさい声が減る」

その声に何故かミゲルとヴァルターも
うんうん、と頷く。

俺は三人に挨拶をしてから
ミゲルとエリオットを改めて見た。

「結婚おめでとうございます」

エリオットに言うと、
ミゲルは、やめてよー!って
慌てたように手を振った。

二人は数日前に結婚式を挙げたのだ。

なんで卒業式の前に?って思ったけれど
何でもエリオット側の両親が
早めに子どもの顔が見たいと言うことで
卒業を待たずに『珠』の使用を始めたらしい。

そしてけじめとして、
籍を入れて、式を挙げたのだ。

俺があの設定集を読む前だったら
『珠』の話を根掘り葉掘り
聞き出すところだったが、
俺にはもう必要ない話かもしれない。

「ヴァルにもすっごく素敵な
お嫁さんと出会えるよ」

と拗ねた顔のヴァルターに
俺が言うと、
「悲しいフォローはするな」
と言われてしまう。

「騎士は人気があるからな。
心配しなくてもいいんじゃないか?」

エリオットが言うと、
ミゲルの頬が少し膨れた。

「俺はどんなに人気があっても
ミゲルしか見てないから大丈夫だ」

なんてエリオットがさりげなく
ミゲルを宥めている。

二人の仲が良さそうで俺は嬉しくなる。

「イクス」

声をかけられ、
俺は、ヴィンセントを見た。

「また漏れてるぞ」と言われて
俺は、はっとする。

周囲から、きゃーっと
楽しそうな声が聞こえた。

空から真っ白い花びらが
降ってきたのだ。

「誰かの魔法?」
「素敵」
「なんて素晴らしい演出かしら」

とあちこちで声がする。

「ごめん、ミゲルが
幸せそうだったのが嬉しくて」

俺が言うと、ミゲルが
「これもイクスのしわざなの?」と
驚くのではなく、呆れた声で言う。

ヴァルターまでもが
「イクスはいつも予想の範疇を
超えてくるな」と感心した。

そんなつもりはないのだが。

でも誰も俺のことを
疑ってないから大丈夫だろう。

「イクス、そろそろ始まる」

ヴィンセントが差し出す手に
俺は自分の手を重ねた。

ミゲルとエリオットも
頷き合い、ヴァルターは
騎士らしく背筋を伸ばした。

俺とヴィンセントがこの場で
仲良くすることで、
妙な噂もきっと払拭されるだろう。

この先の未来も、幸せな未来しか想像できない。

俺のそばには大事な友人たちと、
そして隣にはヴィンセントがいる。

……バカ妹。
俺は最高に幸せだぞ!

俺は心の中で叫ぶ。

「イクス」

ヴィンセントが身をかがめて
俺の耳元に唇を寄せた。

「ずっと一緒だ」

うん、それは幸せが
ずっと続くって意味だ。

だから俺も笑って答える。

「ヴィンス、大好き」

ヴィンセントの満面の笑みが見える。

周囲にさっきとは違う悲鳴と
驚きの声があがる。

でも、そんなの関係ない。

だってヴィンセントは俺のものだから。

誰にも上げないもんねーって小声で呟いたら。

「イクスも俺のものだからな」って
また耳元で囁かれた。

あぁ、幸せだ。

ポン、って大きな花瓶に飾ってた花の本数が増えたけれど。

俺は幸せいっぱいで、
ヴィンセントに抱きついた。


パーティーではヴィンセントと
イチャイチャしたおかげで
社交界ではあっと言う間に
兄と王女以上のバカップル、
という不名誉なレッテルを
俺たちは貼られてしまうのだが。

そんなことさえ、
嬉しいと思ってしまう俺は
かなり重症だと思う。

いいんだ。

前世妹は、イクスオレバカで、
イクスはヴィンセントバカで。

そのヴィンセントはイクスバカなんだから。

全員で溺愛バカってことで丸く収まると思う。

だって俺、それで幸せだし。

俺がそう言うと、
ヴィンセントは笑って
すぐ俺にキスをする。

「俺も幸せだ」ってそう言われるだけで
俺はまた心が温かくなる。

いつかきっと、ヴィンセントとの
赤ちゃんが欲しいと思う日が来ると思う。

そう思ったら身体が変化していくらしいから
もしかしたら今も体が変化しているのかもしれない。

今ならそれも受け入れられそうだ。

だって、ヴィンセントの愛情を
こんなに沢山貰っているのだから。

不安になることなんてない。

「ヴィンス、好き」

抱きついて俺はまた口癖を言う。

そんな俺を受け止めて
ヴィンセントは俺を抱きしめてくれるのだ。


そんな俺が……体の変化を感じたのは
卒業式から1年後のことだった。


俺とヴィンセントに新しい家族が
生まれるのは、もう少し先のこと。

俺の幸せな異世界転生物語りは
まだまだずっと続くのだ。




<完>



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