【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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終章

211:それから

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 俺が温泉から戻ったら
領地の屋敷に、義姉になる王女様がいて
物凄くびっくりした。

なんでも兄に会いたくて
結婚式よりも先に嫁ぎに来たと言う。

いや、なんでそんないきなり?

あの駄犬兄王子といい、
なぜ君たちは報告も相談も連絡もできず
そうやっていきなり行動するかな。

そこに座れ!
説教だ!

って思ったけれど。
切れ者だと信じていた兄が
王女にメロメロで
デレデレだったので俺は口を閉ざした。

その代わり、俺も早めに
ハーディマン侯爵家に移ることにした。

だって小姑っぽくなるのは嫌だったし。

王女も兄も、父も母も
気にしなくていいと言ってくれたが
やはり俺が気にするのだ。

俺はリタだけを連れて
早めに嫁入り……と言えばいいのか
ハーディマン侯爵家に拠点を移す。

とはいえ、俺は学生だったし、
リタもついて来てくれたから
生活はあまり変わらない。

寝泊まりする場所が変わり、
ヴィンセントとイチャイチャする
時間が増えただけだ。

結婚式は、数か月後、
俺が卒業してからになるが、
その前に兄と王女の結婚式がある。

国を挙げての慶事ということで
今から町も活気づいているようだ。

隣国との交流も盛んになり、
俺は学校と、魔力の研究と
それから隣国から来た
使節団の相手もするようになった。

理由は義姉が隣国の王女ということと
その兄の駄犬と親友だからだ。

そう俺はいつのまにか
駄犬と飼い主の関係から
親友に格上げされていた。

ヴィンセントも騎士として
国の慶事にかかわるので
忙しそうにしている。

だから言っていないのだけれど。

俺はあの秘密基地の部屋で
久しぶりに前世妹の
設定集を読んだ。

前世で妹ときちんと
お別れをしてから、
設定集はずっとこの場所にある。

ただ、俺が設定集を開くと
毎回、新しいことが書き込まれているので
前世妹とは、直接やりとりは
できないけれど、どこかでは
繋がっているのだと思う。

ジュは秘密基地に住み着いているが、
相変わらずカミサマにこき使われているように見える。

だが、俺と出会うと
嬉しそうにすり寄ってくるので
やっぱり、可愛い。

ジュを膝の上に置き、
俺は椅子に座って設定集をめくる。

俺の身体がどうやら
普通の男性の身体ではないような
気がして、気になったのだ。

一応、ミゲルやヴァルターに
さりげなく探りを入れるのだが
俺がヴィンセントと抱き合う時に
起こる体の反応は、
どうも一般的ではないと思う。

俺は設定集の、イクス・パットレイの
項目を覗き込んだ。

「は?」

いつのまにか、ページが増えていた。

書き込む場所がなくなったのだろう。
何故か大量にページが増えている。

これもバカ妹の力だと言うなら
俺の魔力よりも、前世妹の方が
よっぽどすごいと思う。

「……妹よ、俺はこれでもお前を
可愛いと思ってたんだ」

思わず設定集を読んで俺は呟く。

「だが、これほどバカだったとは……
常識を考えろ、というか
お前は妄想して楽しいだけだろうが
俺にとっては現実なんだぞ」

目の前の設定集には、
あからさまに、抱かれる前提の
俺の身体の変化について書かれていた。

『愛される幸せを知ったら、
自然と愛を周囲に分け与えるようになる』

ってこれは魔力が駄々洩れのことだよな。

『抱かれると思ったら
相手を受け入れられるように
身体が自然に緩み、蜜が出る』

これは、これは……!
バカ妹よ、女性がこんな破廉恥なことを
書いてはダメだ!
倫理観と貞操感を養え!

『蜜は甘く、互いに求め合う効果がある』

本気か。
どうりでヴィンセントが俺を
甘い、甘いと言うわけだ。

『深く愛し合い、
互いが望めば自然に
子どもを授かる身体に変わっていく』

「は?」

それって『珠』なんか関係なしに
俺が妊娠できる体に変化するってことか?

え?
今は大丈夫だよな。

うん、大丈夫……のはず。

なんだよ、変わっていくって。
表現が曖昧過ぎなんだよ。

ふわっと設定すんな、ふわっと。

身体が変化する条件とか
なんか、あるだろう、明確な何かが!

と俺は設定集を読んで、
膝の上のジュが驚いて飛び降りるぐらい
激しく抗議をしたのだが。

もちろん、前世妹に届くわけはない。

そして俺は、身体のことを
ヴィンセントに伝えることもできず
ただ、ハーディマン侯爵家で
いつも通りの日々を過ごしている。

いつかは言おうと思う。

でも、もし本当に体が
変化しているというのなら
ちょっとだけ怖いし、
まだ受け止めれてないから
焦って言わなくてもいいか、とも思っている。

それに。
そう、それに結局俺は。

「イクス!」と名を呼ばれ
俺は顔を上げた。

ここはハーディマン侯爵の庭で
俺はのんびりお茶を飲んでいたのだ。

今日は学校が午後から休みだったので
早めに帰った俺はヴィンセントが
帰ってくるのを庭で待っていた。

「おかえり、ヴィンス」

ヴィンセントが俺のそばまで来ると
そばで控えていたリタが
さっとお茶の準備をする。

「本を読んでたのか?」

「うん、僕はやっぱり
貴族社会のことはあまり知らないから」

手元には貴族年鑑がある。

一応読んだけれど、この世界には
写真がないから、実際に会っても
誰がどんな人かは全くわからない。

今までは社交界には出なくてもいいと
言って貰っていたけれど、
俺ももうすぐ卒業する。

そしたら本格的に
ハーディマン侯爵家の長男に
嫁いだ『ヨメ』になるのだ。

高位貴族の長男の嫁として
できることはせねばならないだろう。

「イクスは、イクスができることを
してくれたら十分だ」

ヴィンセントは俺の頭をくしゃくしゃ撫でる。

俺の『力』のことを知っている陛下や
俺の家族でもあるパットレイ公爵家、
ハーディマン侯爵家の面々は
俺が全く社交をしなくても何も言わないと思う。

隣国からパットレイ公爵家に
嫁いできた義姉も隣国の王女だったし、
なんならその兄とは駄犬と飼い主……じゃない、
親友の間柄だ。

それに俺の『力』の正体は知らなくても
俺が何らかの加護をカミサマから
与えられていると考える高位貴族も多い。

まぁ、それだけのことは
やらかしてきた自覚はあるので
当たり前かもしれないが。

だが。
それらを全く知らない下級貴族たちは
今まで社交界に全く出ていなかった俺を
あやしんでいるし、
表立っては言わないけれど
蔑んでいる人もいると思う。

俺が嫁いだせいで、
ハーディマン侯爵家の品位が下がるとか
ヴィンセントが陰口をたたかれるのは
やっぱり嫌なのだ。

俺がそう言うと
ヴィンセントはイクスは偉いな、と
子ども扱いをして頭をまた撫でる。

でもこの子ども扱いも
俺が嫌では無いから困ったものだ。

もちろん、そっと触れるだけの
キスをされるのも、嫌ではない。

ほんとに俺は幸せ過ぎて……
毎日、困ったものなのだ。



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