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終章
206:熱い……夜(物理的に)
しおりを挟む俺は露天風呂に浸かったまま
動けずにいた。
もう、月見酒なんて悠長なことは
言ってられない。
だってあれだろ?
きょ、今日はこれから……
しょ、しょ、初夜……かも!?
そうだよな。
そういう話だったよな。
俺がこの風呂から出たら
ヴィンセントと一緒に
ベットに行くってことか?
あのめちゃくちゃデカイ
キングサイズよりも大きそうなベットに?!
ど、ど、どうする?
こんなことなら、
「初夜が無い」なんて言わずに
初夜になったら何をすればいいのかを
ミゲルに相談すれば良かった。
いや、今更そんなこと言っても
もう遅い。
いや、待てよ?
ヴィンセントだって
ほんとはやり方を知らないのかも?
だって、昼間のあれ……は、
なんか、気持ち良かったし、
ヴィンセントと一緒になったって気がして
魔力が漏れちゃうぐらいにに
満たされた気分になった。
ヴィンセントはあれが初夜だと
思っているとか……!
いや、ないな。
ない、ない。
だってヴィンセントは
『珠』を使うことを知ってるし、
俺を慣らすように
今までも触れてきた。
ということは。
今日は本番ってことか?
どうする?
いや、拒否はしないぞ。
するはずがない。
だが、だがしかし。
「イクス」
湯に浸かってワタワタしていたら
ヴィンセントに名を呼ばれた。
顔を上げると、
露天風呂の縁にヴィンセントが
身をかがめて立っている。
「おいで」
甘い声に俺は背中から
電流が走ったみたいになった。
おいで。って。
そんな手を差し出されたら
行かないわけにはいかない。
俺はちゃぷちゃぷと歩いて
ヴィンセントの手を掴む。
すると段差もあるし、
重たい筈だが、ヴィンセントは
俺の身体を難なく湯から
引き上げた。
そしてウッドデッキの椅子に
俺を座らせてタオルと
冷たい水を渡される。
肩からバスロープが掛けられ
俺は素直にお礼を言って水を飲んだ。
……冷たい。
なんか、生き返るー。
って水をゴクゴク飲んだら、
さらに水を追加された。
「湯に入りすぎだ。
のぼせたらどうするんだ」
心配そうに言われ、
そうか。
この胸のドキドキも
顔のほてりも、
頭がぼーっとしてるのも
湯あたりしてるからか、って
急に我に返った。
なーんだ。
ちょっと焦ったじゃんか。
初夜かと思ったぜ。
「ふー、美味しかった」
水を飲み干すと、
ヴィンセントが俺の頭を撫でる。
「大丈夫か? 顔が真っ赤だぞ」
「うん、平気」
心配かけちゃったかも。
俺が大丈夫と笑うと、
ヴィンセントも良かったと
表情を緩ませる。
「そろそろ上がろう」
「うん」
そうだな。
星空も見れたし、
今日はもう寝るか。
「明日も、夜に温泉に入れる?」
「あぁ、好きな時に入ればいい」
やったー!
俺は嬉しくなって
ヴィンセントの手を掴む。
「ヴィンスも一緒に入ろう」
「そうだな」
俺の言葉にヴィンセントは頷き、
俺を抱き上げた。
お姫様抱っこと言うよりは
立て抱きの抱っこだ。
俺はチビだから、
まだこんなことをされてしまう。
でも、湯に入りすぎて
疲れたのは本当だし、
このまま部屋まで連れて行ってくれるなら
正直、助かるし有難い。
俺はヴィンセントに抱っこされたまま
垣根を通り、部屋の階段を上った。
ラクチン、ラクチン、と思って
部屋に入ると、ヴィンセントは
ベットルームではなく、
ソファーに俺を下ろす。
「ちょっと待ってろ」
そう言ったかと思うと、
濡れた冷たいタオルを
2枚持って来て、一枚は俺の顔を。
そしてもう一枚で
俺の足を拭き出した。
いや、ひざまずいて
足を拭いてもらうって、
俺はどんな暴君だよ。
そう思ったが、
ヴィンセントが丁寧に。
それこそ、俺の足の指を
1本づつ拭いてくれるので、
俺は何も言えずにいた。
なんか、無性に恥ずかしい。
足を拭いてもらうのは
初めてでは無かったが、
こんなに丁寧に拭かれたことなど
今まであっただろうか。
俺が内心、悶えていると、
両方の足を拭き終わったのだろう。
タオルを床に置いたかと思と、
ヴィンセントは俺のかかとを
包む込むように持ち、
足のつま先にキスをした。
ビックリしすぎて声も出ない。
ヴィンセントの唇が、
足の爪に触れて、
俺の足の親指をぺろりと舐める。
硬直している俺に気が付いたのか
ヴィンセントは顔を上げて
俺を見た。
「今日は沢山、イクスに触れたい。
いいだろう?」
返事は、はい、だ。
イエスだ。
決まっている。
決まってるのだが、
なんか声が出ない。
初夜だ!って焦って、
やっぱり違ったって思って。
そしたら急に足を舐められて。
なんか、もう、いっぱいいっぱいだ。
キャパオーバーだ。
「イクス?」
返事を求めるように名を呼ばれ
俺は、なんとか首を縦に動かす。
ヴィンセントは嬉しそうに笑い
俺の足をゆっくりと床に下ろした。
そして俺に覆いかぶさるように、
唇を重ねてくる。
俺はそれを受け止めて。
互いにバスロープしか
着てないことを思い出した。
下着すら履いてない!
「大丈夫だから」
ヴィンセントが俺の髪を撫でる。
「イクスが嫌なことはしないから。
本当に嫌だと思ったら言えばいい」
「お、思わない」
ヴィンセントの言葉に俺はつい反論する。
「うん?」
「ヴィンスにされて嫌なことなんて
絶対にない」
俺の言葉にヴィンセントは
一瞬、目を丸くする。
「そうか」
そう言ってまた唇が重なった。
ただ、今度は重なるだけではなくて
唇を軽くかまれる。
驚いて口を少し開けたら
そこに熱い舌が入ってきて、
俺はとまどったけれど……
自分から舌を絡めた。
俺がこういう時に自分から動くのは、
たぶん、初めてだと思う。
だってどうすればいいか
わからないし、恥ずかしすぎて
いつもパニックになるからだ。
でも、今日は俺も
ヴィンセントに触れたい。
俺だってヴィンセントを
求めてるんだって伝えたいんだ。
俺とヴィンセントの口付が
深くなればなるほど、
俺の身体は傾いてき。
とうとうヴィンセントに
ソファーに押し倒されるように
寝転がってしまった。
そこまできてようやく
ヴィンセントが俺を口づけから解放した。
「すまない。
イクスの反応が嬉しすぎた」
長い指が俺の唇をなぞる。
「初めての日に、ここではダメだな」
ヴィンセントはそう言い、
また俺を抱き上げる。
ゆっくりと向かう場所は
ベットルームだ。
俺はもう、心臓がバクバクで。
でも逃げたいとは思わなくて。
俺はヴィンセントの首に
腕を回すと、大好きって呟いて
大きな胸に顔をうずめた。
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