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終章
204:待ちに待った?露天風呂【ヴィンセントSIDE】
しおりを挟むイクスが可愛い。
俺を想って魔力を無自覚に
放出して、あちこち花を咲かせている。
可愛いし、嬉しいし。
どうしてやろうかと思う。
だが、そんなイクスと
温泉に入ることになり、
俺は慌てた。
正直、俺はイクスと一緒に
風呂に入ることは避けていた。
なぜなら、俺のグロテスクで
凶暴な欲棒がイクスの肌を
見ただけで反応するからだ。
さりげなく服を着たまま
イクスの髪を洗ってやったりして
ごまかしてはいるが、
今日はそうはいかないだろう。
とにかくタオルで隠しつつ、
イクスの視線が外れるのを
体を洗って待つことにしよう。
そしてイクスの意識が
俺以外の場所に向いたときに
湯に入るのだ。
と、作戦を立てたのだが、
それは実行することはなかった。
なぜなら温泉でバシャバシャと
大きな水音が聞こえたからだ。
まさか温泉で溺れたのか!?
そんなに深い場所はなかったはずだが、
と焦って戸を開くと、
イクスはきょとん、とした顔をしている。
……なぜ風呂で泳ぐ?
俺は思わず脱力した。
「風呂で泳ぐには禁止だ」と
俺が言うと、イクスは可愛く
「はーい」と言うがこれは
絶対に言うことを聞かない返事だ。
案の定、俺が体を洗うふりをして
横目で見ると、
イクスは可愛い顔と、白くて丸い
小さな尻だけ水面に出して
手足を動かし泳いでいた。
犬かきか?
いや、可愛いが。
可愛いが、なぜ泳ぐ?
しかも尻を俺に見せつけるように
ふりふりしながら泳ぐのは
やめてくれ。
誘っているわけではない。
無自覚なのもわかる。
今の俺はイクスにとって
幼馴染のお兄ちゃん、なんだろう。
普段はそれでもいい。
いいのだが、今日の俺はイクスの伴侶だ。
初夜を迎える伴侶として
意識をして欲しいんだ。
俺はイクスに見られないように
そっと湯に浸かる。
はー、と息が思わず出た。
あたたかな湯に体の疲れが
どこかに消えてしまったようだ。
思わずぼーっとしてしまう。
と、イクスが犬のように
水を両手足で掻きながら
俺のところにやってきた。
「ヴィンス、ヴィンス、
夜もここに来よう!」
イクスは俺の隣に座った。
「夜か?」
「うん、きっとね
満点の星で綺麗だと思う」
イクスにつられて俺も空を見上げた。
まだ日は夕刻にも差し掛かっていないが、
それでも空は澄んでいて美しかった。
確かに夜も綺麗だろう。
この屋敷は庭も、温泉も
途中の生け垣に道も、
もちろん、バルコニーにも
人の気配を感知して
明かりが灯る魔道具を設置している。
防犯にも効果的だし、
夜に温泉に入る可能性も考えてのことだ。
イクスの願いをかなえるのは
たやすいと思える。
「確かに綺麗だろうな」
「でしょ、それにね。
夜は温泉に入って水を飲もうよ」
水?
そういやずっとそんなことを言ってたな。
「それは何か意味があるのか?」
そう聞くと、イクスは前世の世界の話をした。
なんでもあの世界では、温泉、というか
風呂というのは、娯楽の1つだったらしい。
この世界では考えらられないが
見知らぬ他人と大きな風呂や
温泉に入ることもあれば、
その温泉につかりながら、
酒を飲むこともあったらしい。
なるほど、と思う。
ここも多くの貴族たちの
保養地として開拓していく
予定にはしているが、
すべての部屋に温泉を引くことにしていて
外に作った温泉を共同で使うという
意識は全くなかった。
だからこそ、
今入っているこの温泉は、
あの特別室からでなければ、
出入りができないように作ったのだ。
だが、イクスの話を聞いて
多くの人が外に作った温泉に
入れる方法があるかもしれないと
俺は思った。
たとえば、濡れても体が透けないような
生地で作った服を着用して
温泉に入るとか、時間を決めて
外に作った風呂を貸し切りにするとか。
館もこことは別で
いくつか建てる予定だが、
それぞれの庭に外で入れる
温泉を作ってもいい。
今までは1つの館に1組の客人と
考えていたが、イクスの言うように
誰もが入れるようにすれば
1つの館に2組、3組の客人を
案内できるので、もっと温泉を活用できる。
そうすればこの地も、
領地も潤うのではないか?
だが、地位が違う者が
一緒になるというのは
難しいのではないだろうか。
俺がそういうとイクスは笑顔で言う。
「ほら、服を脱いだら
相手の地位とか権力とか
何もわからないだろ?
だからさ、学校と同じで、
この場だけは地位や身分は
関係なし、なんだ。
その方が気軽に話ができるし、
権力とかと全く関係ない
友達ができるってうれしくない?」
いわゆる社交場というやつか。
確かに一理あるとは思うが、
不埒なことを考える者がいたらどうする?
いや、イクスの前世では
そういった者はいなかったのか
少し心配になってきた。
だが、イクスのおかげで
この領地が潤う案が生まれた気がする。
イクスは笑顔のまま言葉をつづけた。
「僕は前世では、
温泉に行ったことなかったけど
ずっとやってみたかったことがあるんだ。
温泉に入って、お泊りして
夜に露天風呂に入りながら
お酒飲んだり。
楽しそうでしょ」
「そう、だな」
にこにこと話をするイクスは
文句なしに可愛かった。
「では、夕食はここに用意させよう。
きちんとしたディナーは無理だが、
プレート式にして準備させれば
ここで食べた後、
温泉に浸かることもできるし
逆に、ほてった体を
外で休ませてもいい」
俺はすぐそばにある
小さなウッドデッキを指さした。
「ほんと!?やった!」
イクスは大喜びで俺にしがみついてくる。
とっさに受け止めたが、
俺は慌ててイクスの体を持ち上げる。
膝に乗せると、
反応し始めた欲棒に
気づかれる可能性があるからだ。
「ヴィンス?」
いつもなら膝に乗せるところを
腕の力だけで抱き上げられたのだ。
イクスは不思議そうな顔をする。
「いったん、外に出て
体を冷やした方がいい。
ずいぶんと火照ってきてるぞ」
言い訳のように
俺はイクスの体を
温泉のふちに座らせた。
「えー、まだ大丈夫なのに」
「だが、夜も入るのだろう?」
「そうだけど」
口をとがらせるイクスの
髪をなでようと、
俺は下半身をお湯につけたまま
イクスに手を伸ばす。
が。
途中で動きを止めてしまった。
「どうしたの?」
「い、や」
俺はイクスに伸ばした腕を
まじまじと見た。
俺の体はお世辞にも
綺麗な体とは言えない。
騎士としての訓練も
かなり厳しいものだったし、
訓練でも実践でも、
打ち身、切り傷などは
日常茶飯事だ。
だからこそ、俺の腕には
数多くの傷が残っていたのだが。
その傷がきれいに消えていたのだ。
俺に視線に気が付き、
イクスの目も丸くなる。
俺が立ち上がると、
腰から下は湯に浸かったままで
わからなかったものの、
腹や胸あたりにあった
消えるわけがないような
大きな傷もきれいになくなっている。
待てよ。
最初に湯に浸かったとき、
体の疲れが取れて、
楽になった気がしたのだが、
あれは気のせいではなかったのでは?
「え? え? ぼ、くのせい?」
戸惑うイクスに俺は苦笑しかできない。
「イクスのせいではなく
おかげ、というべきか」
温泉に浸かったことで
イクスの気が緩み魔力が
漏れたのかもしれない。
これはイクスの魔力の研究よりも
イクスが自分の魔力を
さらに制御できるように
訓練する方が先なのでは?
……頭が痛い案件だぞ。
公爵殿に言うのが先か、
魔法師団長への報告が先か。
陛下への報告はどうしたら……
「ヴィンス?」
名を呼ばれて、イクスを見る。
「傷跡、なくなってよかったね」
くったくのない笑顔に、
俺は毒気を抜かれてしまう。
思考にふけってしまい、
肝心なことを忘れるところだった。
イクスの魔力がどうとか
そんなのは関係ない。
俺は何があってもイクスの
そばにいて守るだけだし、
何よりも今日は
イクスとの初夜を
完遂しなければならないのだ。
稀有な魔力ごときに
惑わされている場合ではない。
俺はイクスの魔力より
初夜の方が大事だ。
もう、余計なことは考えない。
考えないぞ!
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