203 / 214
終章
203:待ちに待った露天風呂
しおりを挟む遅いランチっぽいものを食べた後、
俺たちは屋敷の周囲を散策した。
俺から溢れ出た魔力が
どんな影響を与えたのかを
調べるためだ。
ここはもともと、
山林だったらしく、
人の手もあまり入っていなかった
場所らしい。
ただ山林と言っても
何年か前に山火事が起こり、
そのままになっていた場所らしく、
いまだに動物たちの数も少なく、
道を作るのには最適な場所だったという。
元々、ハーディマン侯爵領と
パットレイ公爵領とを結ぶ道を
作ることは検討されていたが、
初めはこの山林が邪魔をしていて
工事に手を付けられなかったらしい。
その後に山火事が発生し、
大きな木々が燃え、動物たちが逃げ、
人の手を加えることが
できるようになった今、
新たな道を作ろうという案ができたとか。
そう聞かされてきたので、
屋敷周辺の森に足を踏み入れたら
よっぽど草も何も生えていない
ただの土があるだけだと思っていた。
なのに、屋敷の周辺だけは
メルヘンチックに花が咲き乱れ、
俺とヴィンセントを歓迎しているかのようだ。
だが屋敷の塀から少し離れた
場所を見ると、まだ痛々しく残る
焼けた巨大な木の残骸や、
黒く焼けたような土が見える。
物凄いギャップにめまいがしそうだ。
しかも
「イクスの魔力は、
こんなところまで影響があるんだな」
なんて真面目に分析されては、
恥ずかしいやら、
いたたまれないやらで
俺は拗ねたくなってくる。
もういい。
温泉だ、温泉!
俺はヴィンセントに早く
温泉に入りたいと
駄々をこねるように言い、
部屋に戻る。
そして露天風呂だーと思って
テラスに出たのだが。
今度は階段下に見える
垣根に花が咲き乱れているのが見えて
思わずテラスのガラス戸を閉めてしまった。
「イクス?」
俺が意気揚々とガラス戸を開けたのに
速攻で閉めたからだろう。
首を傾げるヴィンセントに
俺は「なんでもない」
と必死で言う。
よく考えれば、
今ここで誤魔化したとしても
すぐにバレるのだが、
俺はそんなことも気が付かずに、
「先に室内の温泉に入る」と
宣言してバスルームへと走った。
だが脱衣所で服を脱いで
温泉だーっと思った矢先、
ヴィンセントが開けたのだろう。
テラスのガラス戸が開く音がして
俺は慌てて部屋に飛び込んだ。
「見ちゃだめーっ」
素っ裸で飛び出したせいか、
ヴィンセントが目を丸くする。
「……イクス、
裸で走り回らないように、と
俺は伝えていたはずだぞ」
「……走り回ってないし。
不可抗力だし」
思わず小声で呟く。
「まぁ、それぐらい
イクスが俺のことを好きだと
言うことだから、
俺は嬉しいがな」
横目でテラス下を見るヴィンセントに
俺は何も言えなくなる。
くぅ、見られた!
あの咲き誇る垣根を、
絶対に見られた。
あの垣根、花なんか咲くのか?
みたいな木でできてたのに、
満開に咲くなんて!
俺が恥ずかしさに悶えていると、
ヴィンセントは俺に
薄手の生バスローブみたいなものを
羽織らせて、俺の手を引く。
「せっかくだから、
下りてみよう」
「……うん」
階段を下りると、
良い香りのする花が
生垣に咲き乱れている。
最初来た時は無かったのに、
何故おまえらは急に咲く?
俺が恥ずかしいだろう。
理不尽な怒りを垣根に向けて
俺は恥ずかしすぎる道を通る。
だが俺のテンションは
露天風呂に着くと一気に
跳ね上がってしまった。
だってワクワクが過ぎる。
ひゃっほー。
露天風呂だー!
「ヴィンス、ヴィンス、
早く早く。先に入ってるぞ」
小躍りして喜ぶ俺に
ヴィンセントは苦笑するが
服を脱ぐ気配がない。
ほんと、ヴィンセントは
風呂の話になるとのんびり屋だ。
いつも一緒に入ろうと言っても
俺が先に入ってて
あとから服を着たままやってきたりする。
俺の髪を洗ってくれるのは嬉しいのだが
何故一緒に入らないのか謎だった。
でも今日は違う。
一緒に露天風呂を堪能して、
それから夜は月見酒ならぬ月見水だ!
露天風呂は、前世で言う
露天風呂というよりは、
プールみたいだった。
地面に大きなバスタブを埋めて
作ったみたいだ。
バスタブの周囲も歩きやすいように
水はけのよい素材で舗装されていて
脇にはウッドデッキのチェアーや
小さなテーブルもある。
周囲も木材で仕切られているが、
天井は空いていて、
今はまだ明るい空が見えるけれど
夜になったら満天の星が見えそうだった。
大きなバスタブの真ん中には
柱が合って、その上には
日よけのためだろう。
傘のような屋根があり、
近づいてみると柱には
段差が合って座れるようになっていた。
出入り口を見るが、
ヴィンセントはまだ入ってこない。
俺は、にんまり、と笑った。
これはプライベート空間なのでは?
ひゃっほーい!
俺は思い切って、バシャバシャと
水しぶきを上げながら
バスタブの端から端まで
泳いでやった。
25mプールとは言わないが
結構デカイので、泳ぎ甲斐がある。
バタ足は疲れるから
次は犬泳ぎでもするか。
と思ってたら、
大きな音がしてヴィンセントが
露天風呂に駆け込んできた。
「どうした!?」
って、何がどうした?
俺が首を傾げると、
ヴィンセントは気が抜けたような
顔をする。
「あ、僕が泳いだから……?」
もしかして溺れたと思った?
いやいや、風呂で溺れるって
どんなんだよ。
と思ったが。
ヴィンセントがあまりにも
心配そうな顔をして
俺を見ていたので、
「ごめんなさい」と俺は
素直にあやまった。
やっぱりバタ足のクロールは
ダメだったな。
次は犬泳ぎにするか。
と思っている俺の心を
読んだかのように
「風呂で泳ぐには禁止」と
ヴィンセントが言う。
「はーい」と俺は返事をしたが。
犬泳ぎは泳ぎじゃないもんね。
なんて内心、呟いていた。
151
お気に入りに追加
1,147
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる