上 下
193 / 214
終章

193:新婚旅行【ヴィンセントSIDE】

しおりを挟む





 ハーディマン侯爵家とパットレイ公爵家が
共同で土木工事をしていることは
以前から知っていた。

温泉が出たことも、
そこに保養地を建てることも。

母は王都ではなく、
騎士団をまとめる父の代わりに
領地を治める為に、一年の
ほとんどを領地で過ごしている。

その母がせっかく温泉が出たのだから
そこに別荘を建てたいと言い出したのだ。

父は母には頭が上がらないので
もちろん、すぐに了承した。

最近、社交界では温泉の効能が
話題になっていたこともあるのだろう。

その話にパットレイ公爵夫人も乗ってきて
あっというまに両家の共同保養地が
建てられることとなった。

最初は領地に籠っている母を
労うための別荘だった。

それがいつのまにか
観光地になるような話にまで
話は広がっていて、
正直大丈夫かと不安になる。

ただ、俺の父も公爵殿も
妻の要望はすべて叶えるべく
あらゆる力と金は使う人たちなので
優秀な人材をどんどん保養地と母、
そして公爵夫人の元へ
送り込んでいるらしい。

そんな中、何故か別荘の最初の滞在に
母ではなく、公爵夫人でもなく
俺とイクスの白羽の矢がたった。

きっかけはたぶん、
イクスのあの手紙だろう。

俺とちゃんと肌を合わせることを
公爵殿が許したと言うのだ。

イクスは良く勘違いをしやすいから
何かの間違いかと思ったが、
その後、すぐに公爵夫人から
俺の母に連絡があり、
勘違いでもなく、正式にイクスと結婚……
つまり初夜を行っても構わないと
公爵殿からの許可が下りたと言う。

何でもイクスが俺と初夜を迎えたいと
公爵殿に泣きついた……らしい。

が、ここはかなり嘘が混ざっていると
俺は思っている。

本当だったら嬉しいが。

でも、そう。
本当だったら嬉しい。

俺が一緒に寝る度に
白く美しい肌に触れることを
イクスが喜んでくれているのだと
そう思うことができるから。

イクスの白い肌が、
俺の手によって赤く染まっていく姿は
物凄く美しい。

俺ごときの欲望で
蹂躙すべきではないと、
そう思ってしまうぐらいに、
閨の中のイクスは美しかった。

だから俺はように
イクスの肌に触れるが、
俺の欲棒を曝け出すことはしなかった。

一度、触れあったことはあるが、
あの時のイクスはまだ
精通も来ていなかったし、
身体も幼かったから、
俺はなんとか理性を総動員できたが、
今はイクスにさらに深く
触れてしまうとどうなるかわからない。

【珠】さえ使わなければ
子どもはできないし、
いっそ抱いてしまいたいと
何度も誘惑にかられたが、
体力のないイクスが、
俺が射精を促しただけで
疲れ果てたように
眠りに落ちる様子を見てしまえば、
無理強いできるわけもない。

だが、だけど。
もしイクスが俺を望んでくれるのなら。

いいだろうか。
イクスを抱いても。

俺はイクスの学校の
長期休暇に合わせて休暇を取り、
母よりも熱心に別荘の状態を
確かめ、準備をした。

だが、いざ出立の日が
近づいて来ると緊張してくる。

あまり深く眠れず、
けれど仕事は待ってはくれない。

そんな時だった。
イクスと出発する日、
いきなり、隣国の王女が
こちらの国にやってきたいと
打診があった。

あれだ。
パットレイ公爵家に嫁に来る
あの駄犬……的な王子の妹だ。

兄王子の様にいきなりやってきたわけではないので
まだ許せるが、王族がいきなり「行きます」で
隣国に移動するなどありえない。

警備の問題もあるし、
滞在する場所の準備や
確認も必要になってくる。

その情報が入り
王宮は文官も騎士たちも
一気に士気が下がった。

通常業務以外の仕事が増えるのを
基本的に嫌がる者が多いからだ。

が。
俺には関係ない。
俺は今日から休暇だしな。

と思ったのに。
エリオットが俺を呼びに来た。

一応俺の先輩なので邪険にはできず
朝一の会議には出た。

それからその場で決まったことを
俺の部下や同僚に知らせて
俺は馬に乗る。

あとはよろしく。

と手を振ったのに、なぜか
エリオットが邪魔をしてきた。

俺が乗った馬に、
魔法を使ったのだろう。

飛び乗って来たのだ。

エリオットと二人乗りなど
冗談ではない。

だが止まってもめたら
イクスと合流するのが
また遅くなる。

俺は前もって御者と決めていた
合流地点まで行くと、
エリオットに馬の手綱を預けた。

もともと賢い馬だったから
俺が放置しても
侯爵家に勝手に帰る筈だが
エリオットに任せる方が
安心といえば安心だ。

「おい、なんだ、この手綱は」

「帰るのに馬は必要でしょう」

俺が言うとエリオットは顔をしかめる。

「この忙しい時に、
ひとり休暇を取るつもりか?」

「もともと今日からの休暇は
決まっていたものですし、
1人ではありません」

俺のイクスと一緒に、だ。

口には出さないが
俺の言いたいことはわかったのだろう。

「おまえ、俺が可愛い俺のミゲルと
一緒に過ごす時間を削って
働いていると言うのに……」

「だって俺、そもそも
最初からそういう立ち位置ですし」

俺がイクスと結婚してから
俺は騎士団に所属していて
騎士として仕事もしているが、
正直、イクスの相手をすることが
仕事というか、最優先事項になっている。

陛下が神の力と寵愛を持つイクスを
この国に留めるために
俺に最大限イクスに尽くせと命じたからだ。

俺にとっては願ったりかなったりの命令だし
イクスの力を薄々感じている高位貴族や
宮廷の高官たちは俺やイクスに関して
意見や文句を言う者はいない。

イクスの不評を買い、
神に罰せられる可能性があるからだ。

イクスは神はそんなことしないと
ケラケラ笑ったが、イクスのことや
神のことを知らない者たちにとっては
イクスの力は脅威でしかない。

だから俺がイクスのために
仕事を休んでも、陛下よりも
イクスを優先しても誰も咎めない。

陛下もそれを望んでいる。

それでもそんな俺に意見を言うのは
エリオットぐらいだろうか。

もっとも言われたところで
俺が行動を変えることはないが。

ウダウダ言うエリオットを
見ていると馬車の音が聞こえてくる。

来た!

俺は「じゃあ」とエリオットに言い
そばに停まった馬車に乗り込む。

「おい!」と叫ぶ声が聞こえたが
俺は無視して馬車の扉を閉めた。

すぐに出発の合図を送ると馬車は走り出す。

エリオットが怒っていたのは確かだが、
まぁ、大丈夫だろう。

ミゲルと出会う前は
男女ともに人気があり、
浮名を流しているようなエリオットだったが
ミゲルと婚約してからは一途のようだし、
仕事に私情を挟むようなことはしない。

……今まではしなかった。

さっきミゲルの名を出していたが、
大丈夫、だろう、おそらくだが。

気分を切り替えて俺はイクスを見る。

すると可愛らしいブラウスを着たイクスが
にこやかに座っている。

俺は思わず胸を押さえた。

このイクスと今日は……
とうとう、しょ、初夜、だ。

緊張のあまり、胸が苦しくなってくる。

「ヴィンス、大丈夫?
やっぱり仕事に戻る?」

俺の様子を見たイクスが
心配層の顔を覗き込んで来る。

「いや、すまない。
大丈夫だ」

俺はなんとかいうと、
イクスに隣に座っていいか?
と聞いた。

いつもは聞かずに隣に座るが、
今日は聞いてしまった。

イクスも緊張しているかもしれないし
俺に触れられるのは嫌かもしれないと
思ったからだ。

だがイクスはいつもの笑顔で
うん、と答える。

俺はほっとしてイクスの隣に座り
可愛い身体を膝に乗せた。

緊張した顔を見られたくなかったのだ。

背中からイクスを抱きしめる。

そっとイクスの手が重なった。
イクスに気を使わせているようだ。

「……すまない。
緊張してるんだ」

俺は白状する。
誰かと肌を重ねるのは
さすがに俺も初めてだったし、
その相手がイクスなのだ。

ずっと夢に見ていたイクスとの
初夜を今日迎える……。

「大丈夫だよ、
いざとなったら僕が全部
受け止めてあげるから」

突然、イクスがそんなことを言う。

「どんな無茶ぶりだって
僕は笑ってこなす自信はあるから」

それは俺が乱暴に組み敷いたとしても?
イクスを俺の思うがままに
蹂躙したとしても……それでも
いいと言うことか?

俺はごくり、と唾を飲んだ。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...