【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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終章

191:新婚旅行?

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 学校の長期休暇が始まり
すぐに俺はハーディマン侯爵家の
別荘に行くことになった。

侍女は付けずに、
1人で来るように前もって言われている。

俺はハーディマン侯爵家の馬車が
屋敷まで迎えに来てくれたので
リタがまとめた荷物を乗せて
1人、馬車に乗った。

御者の話では、
ヴィンセントは仕事があるが
終わったらすぐに交流するという。

俺の荷物は少し着替えが
入っているだけの
簡素なものだったが、
別荘にはすでに俺が使う荷物を
ハーディマン侯爵家が
用意してくれているらしく
最初から手ぶらで来てもらって
構わないと言われていた。

至れり尽くせりだ。
……返ってそれが怖いのだが。

別荘の場所は王都からも近く
パットレイ家とハーディマン家の
ちょうと境ぐらいの場所にあるらしい。

屋敷は一応はハーディマン家の
領地内ではあるが、
最近建てたばかりらしく、
俺が知らなくても当たり前だった。

招待状の返事を義母に出した後、
改めて義母から手紙をもらって
知ったのだが。

俺の家の領地とハーディマン家の
領地を繋ぐ道は広く立派だが
最近では商業の発展も著しく
新たな通路が必要だと言うことで
二家で共同土木作業をしていたらしい。

そしたらちょうど二家の領地境ぐらいで
温泉が湧いて出たという。

王都からはそんなに離れてないが、
ちょうどその温泉が出た場所は
人里離れたさびれた場所だった。

そこでハーディマン家は
そこを保養地として別荘を
建てることにしたという。

今はハーディマン侯爵家の
別荘しか建っていないが、
道が整備され、パットレイ公爵領と
うまく繋ぐことが出来れば
その隣に俺の家の保養地が
領地の境界線をまたいで
隣にできる予定なんだとか。

つまり領地だけでなく
保養所もお隣さんになるのだ。

一応母に聞いてみたら、
二家の保養地がうまく機能することが
証明されたら、そこにホテルのような
ものを立てて保養地と言うか
観光地のようにする計画もあるらしい。

温泉は美容に良いと言われているから
母も義母もかなり乗る気のようだ。

温泉……温泉か。
ちょっと楽しみだ。

この国には湯船に浸かる文化もあるし
風呂事情は不自由していない。

それでも温泉と聞くと
ちょっとわくわくしてしまう。

この国にも温泉があるのは
本で読んで知っていた。

だが、この国では温泉と言っても
動物たちが傷を癒すために
自然に湧き出た温泉に浸かるような
温泉か、貧しい地方の土地で
風呂に湯を溜めることが
物理的、金銭的に難しい
村人たちが共同で入るような
温泉がほとんどだ。

ただ、そんな状態の中、
温泉に入ったら傷の治りが
早くなるとか、
肌がきれいになるとか、
そういう口コミっぽいものが
長い時間を掛けて広がって
ようやく最近、それらを
国が研究することにした。

陛下が本当に傷を治すのであれば
積極的に病院に取り入れたいと
言い出したのが理由だ。

そういったことを聞きかじった
義母たち高位貴族の夫人たちは今、
温泉に興味深々だという。

そう言った経緯が無ければ
お湯が出た場所など、
道路にはならないし、
大迷惑ということで終わったのだろうが
俺にとってはかなり嬉しいことだ。

俺、色々頑張ったしな。
もしかしたら向こうでは
大変な目に合うかもしれないけれど
夜は温泉に浸かってのんびりできるかもしれない。

じつは前世の漫画で読んだ
月見酒とか、憧れてたんだ。

この世界では旅館とかないから
無理だと思ってたけど、
じぶん家の別荘なら
そういうのもできるんじゃないか?

……ハーディマン家の別荘だけど。

俺、立ち位置は嫁だし、
俺ん家の別荘って認識でいいよな?

なんか鼻歌が勝手にでちゃうぜ。

俺、じつはさ。
自分の魔力で氷を作ることに
この前、成功したんだ。

夜寝る前にどうしても
冷たい水が飲みたくて。

でもリタがお腹を壊すからと
冷たい水は用意してくれなくて。

水差しの水はぬるいし、
喉は乾いているし。

でも冷たい氷が入っている水が
飲みたいんだ!

って強く思ったら、
水差しの中に氷が生まれたんだ。

焦ったけど、飲みたい誘惑に
勝てずに俺は水差しの水を
ぐびぐび飲んだ。

俺の魔力から生まれた氷って
食べても大丈夫?

って変に不安な気持ちにもなったが
実際は飲んでも何も起こらなかった。

そこで思い切って
俺は自分の魔力で生み出した水も
コップに入れて飲んでみた。

……普通の水だった。

なーんだってなってけど。

つまりは月見酒は無理でも
コップさえ温泉に持って入れば
冷たい氷が入った水を飲みながら
温泉に浸かれるってことなのだ。

凄くね?

あ、でも温泉を引いてるって言っても、
普通のバスタブかもしれないよな。

露天風呂とは限らない。

俺は自分の屋敷の猫足のバスタブが
お気に入りではあるが、
猫足のバスタブに温泉の湯が入っていても
あまり楽しくはないかもしれない。

むむ、と考え込んでいると
急に馬車が止まった。

もう着いたのかと思うと
馬車の扉が開いて
ヴィンセントが乗ってくる。

「ヴィンス」

物凄く汗をかいているようだが
大丈夫だろうか。

ヴィンセントは汗を拭きつつ
俺の向かい側に座る。

「すまない、一人にして」

「ううん。えっと、仕事は大丈夫?」

「あぁ。問題ない」

とヴィンセントは言うけれど。
ちらりと馬車の窓から外を見ると
ヴィンセントは馬で来たのだろうか。

馬とあと一人、
何やら手を挙げて馬車に向かって
怒鳴ってるような人がいる。

あれ?
あれってミゲルの婚約者のエリオットでは?

まさかヴィンセント、
仕事を押し付けて逃げて来たとか
そんなことないよね?

ヴィンセントは汗を拭き、
どうした?とにこやかに笑うけれど。

「な、んでもない」

深く聞くのは止めよう。

俺は何も見なかったぞ。

もしヴィンセントが俺に同行するために
エリオットに無茶ぶりをしたとしたら?

学校が長期休暇になったのに
ミゲルがエリオットと遊ぶ時間が
物凄く減るとか……

いやいや、ないない。
そんなわけない。

……と、思いたい。

俺はもしお土産を買うことができるなら
ミゲルには必ず何か買って帰ろう。

そう心に誓い、今はすべてを忘れて
ヴィンセントとの時間を楽しむことにした。

……ミゲル、スマン。




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