【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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終章

179:愛する日々

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 前世妹のそばに来て
俺はずっと甥っ子の面倒を見た。

俺が手助けをするようになってから
前世妹の顔色はみるみる良くなり、
元気になったと思う。

「まさかイクス兄ちゃん
助けに来てくれるなんて
思いもよらなかった」

前世妹は甥っ子を抱っこして笑う。

リビングのソファーに座り
俺と前世妹はのんびり
御茶を飲んでいた。

甥っ子は眠りに入っていて、
もう少し深く寝たら
ベットに寝かせる予定だ。

この世界に来てもう一週間になる。

俺も甥っ子の面倒を
見るのに慣れて来たし、
前世妹も余裕がでてきたのだろう。

俺たちは互いの近況報告も
時間が空いたらするようになった。

最初のうちは俺の話を
聞いているのか聞いてないのか
よくわからないテンションで
聞いていた前世妹だったが、
元気になってきたら、
急にヴィンセントとのなれそめや
二人でどんな話をするのかとか
かなりプライベートなことまで
楽しそうに聞いて来るようになった。

あまりにも嬉しそうに
聞いて来るので素直に
応えていたら、今度は
大きなノートを持って来て
俺の話をメモ書きしながら
聞くようになり、そのうち
俺の姿をスマホで撮るようになった。

俺は別世界の人間だぞ、と言ったが
コスプレしている外国人みたいなものだから
大丈夫だとかバカ妹は笑う。

そしてバカ妹はどんどん
あつかましく元気になっていき
俺と甥っ子のツーショットを撮っては
「天使、可愛い、尊い」と呟き、
俺の寝間着姿を撮っては
「尊すぎる」と小躍りする。

そしてさすがに閉口したのが
ヴィンセントのポスターを
持って来てこれにキスしろ!と
俺に迫った。

いやいや、待て。

と思ったのだが、
バカ可愛い妹が必死で拝むので
俺は仕方なくポスターの
ヴィンセントにキスをした。

恥ずかしくてちょっと
顔が熱くなる。

「キャー!」とバカ妹が
嬉しそうに叫び、
つられたように甥っ子も
キャーっと叫んだ。

その時はそれで終わったが、
「イクス兄ちゃん、次はこれ」
とカミルのポスターを出してきたり
クルトの等身大クッションに
抱きつくように強要された時は
正直、戸惑っていいのか
バカ妹の発想をバカにして笑えばいいのか
冗談にして流すべきか悩んだ。

そうやって2週間が過ぎたころ、
バカ妹は「イクス様を描く」と言い
急に部屋に籠ってしまった。

俺は甥っ子の面倒を見つつ、
これでバカ妹が妄想を始めたら
俺は元の世界に戻るんだろうな、と
漠然と考える。

本来はもう交わることが無かった世界だ。

でも、これがきっと最後になる。

今度はちゃんと、妹に別れを告げよう。
妹にも、兄離れをして、
しっかり生きていくように
言わなければ。

このマンションを引き払ってもいいし
もう俺から解放されていいのだと伝えよう。

だって俺は見つけてしまったのだ。
部屋の隅に、俺の私物が
箱に入れられたまま保管されているのを。

もう捨てるべきだと思う。
甥っ子も生まれたんだ。
新しい家族と前を向いて進んで欲しい。

そして、俺も。

甥っ子の世話をして
俺は自分が子供を生んだら、って
想像したんだ。

俺とヴィンセントとの子どもだ。

きっと可愛いし、嬉しいし、
楽しくなると思う。

今までは子どもを作るってことに
抵抗があると言うか、
謎の部分もあるので
尻込みしてたけれど。

でも。
子どもがいたら素敵だと思う。

いいや違う。

そんな可愛いふわふわした
感じではなくて。

ヴィンセントとの子どもを
俺が生んで、俺も新しい、
俺だけの家族が欲しい。

新しい、俺の家族だ。

「もちろん、お前も
俺の家族だけどな」

ベビーベットで眠る甥っ子に
声をかけると、バカ妹の
部屋の扉が急に開いた。

「イクス兄、新作できたっ」

だんだん、尊いイクス様の
扱いが雑になってんぞ、妹よ。

前世妹は笑顔で俺に
スケッチブックを見せてくる。

「は?」

そこに描かれていたのは
俺がさっき考えていた
俺とヴィンセントと新婚生活だった。

二人の真ん中に赤ン坊がいて
幸せそうに笑っている絵だ。

「ね、いいでしょ。
今度は新婚ストーリーを
描こうかな」

くふふ、と笑うバカ妹は
やっぱりバカ可愛い顔をしていた。

「イクス兄は、赤ちゃん、生まないの?」

そしてバカ可愛い顔のまま
俺に聞いて来る。

「生まないの?って、
生もうと思ってもできるものでも
ないだろう」

「そうなの?
でも男同士でもあかちゃんが
できる世界だったでしょ?」

そうだけどな。

俺がソファーに座ると
バカ妹も隣に座る。

「男同士だと、子どもを
生む確率が低下するらしいぞ。
それから、生むための道具?

『珠』?とか言ったな。
とにかくそう言うのが必要らしい」」

「そうなんだ。
その設定は知らなかったから
公式じゃないのかも」

いや、俺の世界の方が
現実で正しいんだから
公式だろう。

「でもでも。
イクス兄はさ、
凄い魔力があるんだよね?

そんな『珠』なんかなくても
妊娠できちゃうんじゃない?」

「……ヤメロ、
お前が言うと洒落にならない」

本気であの世界の設定が
おまえの妄想で変化するんだからな。

「そうだ!
あの設定集。
私が良いように書き直してあげる」

「ヤメロ、頼むから、本気で」

俺はバカ妹に懇願する。

「えー、なんで?
ヴィン様と赤ちゃん、
欲しくないの?」

「……そ、れは」

欲しくない、とは言えない。

「ね? ね?
だって、イクス兄はヴィン様のことが
好きなんでしょ?」

俺はバカ妹から顔を背けた。

「もうもう、恥ずかしがって。
はぁ。やっぱりイクス様は尊い。

中身がお兄ちゃんで
どうみてもイクス兄ちゃんなのに
やっぱり尊い……」

「いいから拝むな」

俺は顔を寄せて拝むバカ妹の
額を、ぐいっと手のひらで押す。

「あはは。なんか楽しい。
イクス兄ちゃん。
ずっと、ずっとここにいてね」

と笑ったバカ妹の。
バカ可愛い妹の声が宙に浮いた。

バカ可愛い妹もわかってるんだ。
そんな現実など来ないって。

だからどこか空々しくて。
現実味が無くて。

どんなに言葉にしても
ふわふわ浮いた言葉になる。

それがわかってるから、俺も。

「そうだな」なんて呟いた。


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