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終章
174:好きなことばかり
しおりを挟む王都の地盤沈下事件から、
あっと言う間に2年が経った。
俺は今年高等部を卒業する。
あの時はいろんなことが
立て続けに起こったので
俺はややパニック状態だったのだが。
冷静になって考えたら
焦ることは何一つなかった。
だって魔術研究所を設立すると言っても
すぐにできるわけではない。
人員も集めないとダメだし、
建物だってそうだ。
俺が魔法で手助けをして
研究所の建物を
創るつもりはないので
物理的にすぐに建物が
建つわけはない。
それにいざ創るとなると
どんな構造の建物にして、
どんな設備を入れるのかも
問題になってくる。
古書を集めるのなら
専用の図書室が欲しいし、
本が傷まない工夫も必要だ。
そう言った要望を俺が言い
それを元に図面を書いて、
一からデカイ建物を作るのだ。
職人さんたちや、俺と
オーリーの要望を擦り合わせ、
GOが出たとしても
小さい修正が入ることもある。
またその合間に研究所の
事務員さんの募集もした。
俺は希望ばかり伝えて
自分で何かをすることは
あまりなかったけれど、
研究員の面接だけは
同席させてもらうことにしている。
と言っても、研究員の募集は
しているものの、いまだに
1人の応募もない。
古書や古語を読む意義が
理解されてないんだろう。
前世で考古学者たちを
「やる意味わからない」と
言ってた人がいたのと同じだと思う。
ただ、今学校では
高専の学科は生まれてないけど
今後、魔術を専門に学べる場を
作るために、普段の授業で
魔術の話を積極的に
触れるようになった。
過去の歴史を学ぶのと同時に
魔術で何ができたのか、
魔術があったとき、過去は
どんな世界だったのか、
生徒たちが興味を持つような
内容を授業に組み込むようになったのだ。
今のこの世界の人間は
魔力が足りないので魔術は使えない。
でも今後、世界はもっと安定したら
魔力が多い子どもが生まれるかもしれないし
俺が考えているのは、
数人の魔法を合体させて
魔術を1つ発動させるとか。
協力しあうことで
魔術を組み立てることは
できないかを研究したいのだ。
まだ夢物語だが
そんな俺の話をオーリーは
面白いと言った顔をして
聞いてくれるし、
ヴィンセントは心配そうな、
でも甘い顔で、無茶はするなよ、
と笑ってくれる。
そんなわけで色々と始動したが
表面上の俺の生活は
さほど変わってない。
公爵家から学校に通い、
ミゲルやヴァルターと一緒に
勉強したり、おしゃべりしたり
楽しく過ごしている。
ただ週末はハーディマン侯爵家の
タウンハウスに泊まることが
多くなった。
ヴィンセントとイチャイチャしながら
寝るのが楽しみだったりする。
まだ子作りに関しては
覚悟が決まってないから
保留だけれど、ヴィンセントに
甘く触れられるのは
胸の奥がジンと痺れるような
幸せを感じてしまう。
俺は卒業したら
新しく生まれる魔術学科専攻の
生徒第一号になる予定だ。
と言っても生徒は俺一人。
教師もいないし、
教科書も何も無いから
俺がそれを作っていくことになる。
魔術研究所がきちんと
創立されて稼働するまでは
俺は学生として学校に通い、
魔術研究所の稼働が始まったら
俺は研究員として研究所に
移動することになっていた。
喜ばしいことと言えば、
研究所の話ついでだが、
最初に俺が古書に触れた
きっかけを作ったリカルドが
客員として俺と同じタイミングで
研究員として迎えられることになりそうだ。
ミゲルから俺の話を聞き、
興味を持ってくれたらしい。
だが今の仕事もあるし、
そもそもクライス家の長男なので
研究員として生きていけるわけでもない。
そこでまずは客員として
研究所に所属してもらうことになったのだ。
こう言った前例を作っていけば
もっと他の人たちにも
関心を持ってもらえると思うし、
研究員になりたいと思うメンバーも
集まると思う。
あとは、兄の結婚式が
俺の卒業と同時に行われる。
レオナルドの妹が公爵家にやってくるのだ。
じつはレオナルドとは文通はしているが
あの騒動の後、一度も会っていない、
留学途中だったし、
またすぐに戻ってくるかと
思っていたのだが、
「他国に迷惑をかけるな」と
ほぼ軟禁状態に部屋に閉じ込められ、
しぶしぶ自国の学校に通うことになったのだとか。
そう言った内容の手紙をもらい
俺も返事をして……となんとなく
文通が続いている。
次に会うのは兄の結婚式だろうか。
レオナルドは顔を合わせて
話をしていると人の話を
聞かないところがあり、
いつも暴走していたが、
手紙だとそういうところを
まったく感じなかった。
手紙がそもそも一方通行な
連絡手段ということもあるが、
レオナルドももしかしたら
『他人の話は聞く』という
重要なことを学び、
成長をしたのかもしれない
ただ魔術に関しては興味津々で
卒業したらこちらの国に来て
学びたいと言っているので
今後、どうなるのかはわからない。
できれば少し離れた所に
いてくれた方が俺としては
心穏やかに過ごせるとは思っているが
他国の王族だし、政治的な意味で
俺の研究所で引き取らねばならないと
言うのであれば、覚悟は決めねばならないだろう。
なんてことをヴィンセントに
言うと、ヴィンセントはすぐに
俺を抱き寄せたりキスしたりする。
ヤキモチを焼いているのだと
気が付いてからは、
つい俺はヴィンセントの前で
レオナルドの手紙の話をしてしまうのだが。
もちろん、ヴィンセントには
そんなことなどお見通しだ。
甘くキスされては
「俺に嫉妬して欲しかったか?」
なんて聞かれる。
だから、うん、って素直に言うと、
優しく抱きしめられて
また唇が重なるんだ。
俺はそんな時間も大好きで。
いつか結婚したら
本当にヴィンセントと
子づくりする日が来たら。
俺はヴィンセントと子どもを
作ってもいいかもしれない。
そんなことを考え始めていた。
だって。
家族が増えるって嬉しいことだから。
今度、ヴィンセントに
話をしてみようかな。
だって子どもを作る『珠』は
陛下から沢山貰って
ハーディマン侯爵家に
保管されてるって言ってたし。
沢山貰ったんだったら
沢山使ってもいいってことだよな。
なんて俺は思って。
それってヴィンセントと
たくさん、ああいうことを
するってことか?!
って急に思い立ち
俺は体を熱くしてしまう。
「大丈夫?
顔が真っ赤だけど」
ミゲルの声に顔をあげたら
すぐそばに心配そうな顔がある。
「う、うん、大丈夫」
そうだった。
今は自習時間だった。
ヴァルターは「やったー」と
喜んで鍛錬上に向かって
走って教室を出て行ったはずだ。
「あの、その……」
「あ、わかった。
ヴィンセントさんのこと
考えてたでしょ」
なぜ分かった!?
「だってイクス、
恋する瞳をしてるもんね」
とミゲルにまでからかわれて
俺はさらに顔を熱くする。
そういうミゲルだって
婚約者のエリオットの話になると
瞳がハートに変わるくせに。
俺がそう言うとミゲルは
恥ずかしがる様子をしつつも
「だってカッコイイんだよー」と
エリオットの話が始まった。
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