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溺愛と結婚と
166:日常へ
しおりを挟む俺とヴィンセントの休暇は
あっと言う間に終わってしまった。
いや2週間あった筈なのに、
気が付けばもう終わりを迎えている。
初めてヴィンセントに促され
精通を迎えてしまった俺は
あの日から毎日……というか
毎時間というか。
とにかくずっとヴィンセントに
悪戯されたり、甘やかされたり
とにかく体に触れられ続け
ずっとイチャイチャしていた。
毎日のように射精を促され、
ヴィンセントと肌を重ねて
深い口づけをすることにも
恥ずかしさではなく
嬉しさと充足感を感じるようになった。
俺はヴィンセントに
自分の身体を作り変えられて
しまったのではないかと
思ってしまう。
こんなに毎日ずっと
ヴィンセントと一緒に居たのに
俺は公爵家に帰って
寂しくならないだろうか。
「俺がいないと寂しいか?」
屋敷の使用人たちに
丁寧にお礼を言って馬車に乗ると
ヴィンセントが俺に聞いて来た。
これから王宮に戻り、
俺は公爵家へ。
ヴィンセントは仕事に戻る。
俺は心配ないと言いかけて。
いつもなら「大丈夫」と言っていたが
今の俺とヴィンセントの関係は
もう昔と同じではない。
俺は以前よりも、
もっと心の深い部分でも
ヴィンセントに甘えていいはずだ。
だって、毎日ずっと、
「素直に俺を求めてくれ」って
ヴィンセントは俺に言ってくれてたから。
だから俺は素直に、うん、と頷いた。
「ヴィンスと離れたら、寂しい」
俺がそう言うと、
ヴィンセントは俺が素直に
認めると思ってなかったのだろう。
目を見開いたかと思うと
みるみる顔を真っ赤にした。
毎日、もっとすごいことを
していたのに、何故これぐらいで
そんなに顔を赤くするのか。
ヴィンセントは片手で顔を
隠すようにして、
呟くように「俺もだ」と言う。
それから俺の肩を引寄せ
「これからはいつでも
ハーディマン侯爵家に来たらいい。
王都のタウンハウスに
イクスの部屋も用意しているし
もちろん、領地の屋敷にも
俺たち二人の部屋を準備している。
両親も使用人たちも
イクスが来るのを
楽しみにしているようだぞ」
優しい声に俺は素直にお礼を言う。
「うん、ありがとう」
今までは俺の家の方が
格上だったこともあるのだろう。
いつもヴィンセントが
俺に会いに来てくれていたが
今後は俺がハーディマン侯爵家に、
ヴィンセントに会いに行っても
いいってことだ。
なんたって俺はもう、
ハーディマン侯爵家の……
よ、嫁、だからな。
まだ俺とヴィンセントは
ちゃんと体を重ねたわけではない。
ヴィンセントは俺の身体を
慣らすと言って、俺の体内に
指を入れたりしてきたが
それ以上のことはしなかった。
俺の身体の負担を考えて
くれているのだと思う。
でも俺は肌を重ねたのは
ヴィンセントが初めてだったし
こんな関係になったのだ。
結婚したということを
俺は改めて強く認識したし、
学生だからと言って
以前、父が言ってたような
『結婚しても今までと同じで
何も変わらない生活』では
ダメだと思うようになった。
とはいっても、俺も
すぐにハーディマン侯爵家の
嫁ってのは無理だし、
学校を卒業したらどうするのかも
まだ決まっていない。
ヴィンセントは俺の好きに
していいと言ってくれているが
ハーディマン侯爵家の領地に
行くのか、それとも王都で
仕事をしていくのかも
考える必要があるだろう。
それに俺がやりたいのは
魔術の研究だ。
それに関しては、
例の秘密基地にいつでも
行くことができるので
どんな場所に住んでも問題ないが
忙しい仕事に就くと
ゆっくり古書を読む時間すら
ないと思う。
そう意味で、俺は今後の人生を
どうするのかを真剣に考え
決めなければならない。
ヴィンセントとの結婚や
『力』に関しても、
俺はずっと状況に流されてた
ところがあるから。
今度は受け入れるだけではなく
自分で欲しい未来を掴むべく
動くのだ。
俺がぐっと拳を握ると
何を思ったのか隣に座っている
ヴィンセントが俺の肩を引寄せ
頬に軽いキスをした。
「イクスはやりたいことを
やりたいようにすればいい。
面倒なことは俺が何とかする」
な、と耳元で言われ、
俺は顔を熱くした。
なんてオトコマエな台詞……。
恰好良すぎだ!
俺がなんとか礼を言って
ヴィンセントの顔を見ると
甘く優しい顔で微笑まれる。
うう。
ヤバい。
めちゃくちゃカッコイイし
嬉しいし、惚れ直しそう。
「あぁ、どんどん
惚れ直してくれ」
え?
俺、口に出てた?
慌てて口を押えたら
声を出して笑われた。
「可愛いな、イクスは」
頭を撫でられる。
「可愛くないし。
ヴィンスが恰好良いから
ダメなんだ」
わざと拗ねたように言うと
ヴィンセントはまた笑う。
「当たり前だ。
俺はイクスの前では
恰好良く見えるように
頑張ってるからな」
「え?」
それってどういう意味?
って聞く前に、今度は唇に
キスをされた。
軽く触れて。
俺がまた顔を熱くしたとき
馬車が止まる。
王宮に着いたようで
馬車の扉がノックされ
御者の声が聞こえた。
ヴィンセントがそれに応えて
先に馬車から下りる。
俺がヴィンセントの手を借りで
馬車から下りると
「イクス!」と大きく名を呼ばれた。
「父様」
まさかのお出迎えだった。
父と、兄が馬車止めのところで
俺が来るのを待っていた。
えーっと、どうしたらいいんだ?
父に抱きつきに行って、
会いたかったです、とか
涙の再会をするべきか?
俺が戸惑っていると
ヴィンセントが俺の横に立ち
父や兄に頭を下げた。
「お出迎えありがとうございます」
「いや。今日王宮に戻ると聞いてな」
父が返事をすると、兄が一歩前に出て
俺の手を掴んだ。
「体調は?
一度倒れたと聞いたぞ」
「大丈夫。
ヴィンスがね、
ずっとついててくれたから」
「「ヴィンス……?」」
父と兄が声を揃えてヴィンセントを見た。
「はは、ヴィンセント君。
君は今日から出仕だろう。
その前に私にじっくり話を
聞かせてくれるかい?」
父がヴィンセントに詰め寄るように言う。
「え? 父様? どうし……」
「イクスは僕と一緒に屋敷に帰ろう」
兄が俺の言葉を遮る。
「迎えに来たんだよ。
母上も心配している」
そうだった。
俺は母には何も言わずに
2週間も家を空けていたのだ。
きっと心配をかけている筈だ。
「イクス、また連絡するから」
ヴィンセントが俺の背中を押した。
「うん、ありがとう。
でも……」
大丈夫か?
なんか、父の目がつり上がってるように
俺には見えるのだが。
「大丈夫だ」
ヴィンセントは笑って
俺の背をまた押して
兄の前に連れて行く。
「わかった。
じゃあ、またね」
俺はヴィンセントに手を上げると
ヴィンセントも頷いてくれる。
そんな俺とヴィンセントの間に
何故か父が割り込んだ。
……物理的に。
「イクス、今日は早く帰るから
夕食は家族みんなで食べよう」
「はい。父様」
俺は返事をしたが、
なんかその家族にヴィンセントは
入ってない感じだった。
俺とヴィンセントは結婚したんだし
父もヴィンセントと家族になったんだが。
今にも喧嘩しそうな空気の父と
それを受け入れているヴィンセントが
心配にはなったけれど。
俺は兄が「早く」というので
結局は何も言えずに
近くに止めてあった公爵家の
馬車に乗り込むことになった。
父とヴィンセントって
仲が悪かったっけ?
俺がそう言うと
俺の前に座っていた兄は
ただ困ったような顔をして
何も言わなかった。
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