【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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溺愛と結婚と

160:恋心と蜜月

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 ヴィンセントは一旦、
言い淀んだ後、
意を決したように
勢いよく立ち上がり
俺の隣に来て跪いた。

どうしたんだと思ったが、
ヴィンセントの勢いに
何も言えなくなってしまう。

ヴィンセントは俺の手を握った。

「イクス、お願いがある」

「な、なに?」

いったい何を言われるのか。

「俺を名で呼んで欲しい」

うん?
もう呼んでるけど?

「結婚したんだ。
兄……からは卒業したい」

いや、兄じゃないし。
って言いそうになった。

だけど、確かに俺は
ヴィー兄様って呼んでた。

そうだよな。
結婚したのに、兄様はないよな。

でもそうなるとヴィンセントって
呼び捨てになる?

いや、なんかハードルが高い。
とはいえ、バカ妹みたいに
ヴィン様、なんて言えそうにもない。

俺が迷っていると、
きゅっと繋いだ手を握られる。

「……ヴィンス、と」

よく見たら少し俯いた
ヴィンセントの頬は
真赤だった。

「ヴィ……ンス?」

俺が呼ぶと、ヴィンセントは
がバリと顔をあげて
物凄く嬉しそうな顔をした。

うひゃー。
元がカッコイイのに
眩しい笑顔は破壊力がある!

「もうイクスは俺の伴侶だ。
年の差も関係ない。
俺たちは対等な関係だ」

そう言われて、
それもそうかと俺は納得した。

結婚したんだし、
伴侶っていうのはそういうものだろう。

そう思ったけれど。

「でも、対等なのは……」

「嫌か?」

「兄様じゃなくてもいいけど、
沢山甘えるつもりだったし」

そうなのだ。
俺はヴィンセントに沢山
甘える予定だったのだ。

昨日はそれを忘れていたが
ヴィンセントが兄枠でなくなったら
俺は甘えることができなくなる。

それは寂しい。

俺が唇を尖らせると
ヴィンセントは笑った。

嬉しそうな、優しい顔で。

「馬鹿だな、イクス。
伴侶だから甘えていいんだ」

「そうなの?」

「そうだろう。
兄弟で甘えると言っても
限度があるだろう?

兄だって自分の人生があるし
ずっと弟を支えるなんて無理だ。

だが伴侶は違う。

俺はずっとイクスを守るし
支えるし、甘えて貰ったら
物凄く嬉しい」

人生をかけて甘えてくれ。

そんなことまで言われて
俺まで笑ってしまった。

でも、そうか。
言われたらそうだと思う。

だって俺には本当の兄が
いるけれど、兄にずっと
甘えることができるかと
言われたらそんなこと無理だと思う。

兄には兄の人生があり、
いつか兄が結婚したら
俺は気軽に兄に甘えることなど
できるはずもない。

だって兄に甘えるのは
兄と結婚した相手の筈だから。

なら俺は?

俺は幼いころから
ヴィンセントを兄のように
思って甘えていたけれど、
それはずっと続くものではなかった。

今も俺がヴィンセントに
甘えたりできるのは
ヴィンセントが俺と結婚したからだ。

そうか。そうだよな。

「ヴィー兄……じゃない、
ヴィンス!
僕と結婚してくれてありがとう!」

って椅子から倒れるように
抱きついたら、ヴィンセントは
驚いたようだけれど
繋いだ手を離しで抱き止めてくれた。

「イクスがそう言ってくれるのは
嬉しいんだが、なんかその
思考に至るまでの過程が
知りたいような、
知りたくないような……」

ヴィンセントが何やら言うが
俺にはそんなの関係ない。

だって俺は沢山頑張ったから
ヴィンセントにご褒美で
甘えるって決めていたのだ。

俺はずっとヴィンセントのことを
兄だ、兄代わりだ、兄枠だ、って
そんなことばかり思ってたけれど。

そしてそんな兄のヴィンセントを
いつのまにか愛していたのだと
思っていたけど。

ほんとは違ったのかも。

だってさ。
俺が甘えたいって思うのは。

嫌なことも嬉しいことも
疲れたとかそう言った泣き言も。

聞いて欲しいのはヴィンセントで
受け止めて欲しいのも
ヴィンセントなんだ。

ずっと、小さいころから
それは今でも変わらない。

本当の兄ではなく、
頼れる父でもなく。

俺にとってヴィンセントは
だった。


俺は幼くてその特別の
意味がわからなかったけれど。

俺はずっとヴィンセントが、
兄とかではなく
好きだったんだと急に思った。

そう思ったら、
物凄く腑に落ちる。

だってだって。
俺は兄や父よりも、
ヴィンセントのそばに居たかったし、
頭を撫でてもらいたいとか
甘えたいとか思うのも、
ヴィンセントだけだったから。

俺は沸き起こった想いを
なんとかヴィンセントに
伝えたいって思った。

思えば、
精霊の樹の時も、今回も。

ヴィンセントが側にいたから
俺は頑張れたんだ。

「好き、大好き」

想いを伝えたくて。
でもうまく言えなくて
俺の口から出てきたのは
そんなありきたりの言葉だった。

でも、ヴィンセントは
「俺もだ」って甘い声で
受け止めてくれた。

「好きー」

だから俺はやっぱり
この言葉が口から洩れる。

ぎゅーってしがみついて
固い肩にぐりぐり額を
押し付けると、ヴィンセントは
優しい仕草で髪を撫でてくれる。

「なぁ、イクス」

「うん」

「陛下から褒賞で貰った
新婚期間は2週間なんだ」

ヴィンセントが俺の髪を
撫でていた手を止めた。

「だから……俺と
ここで蜜月を過ごしてもいいか?」

蜜月?
それは新婚期間で
俺と2週間、イチャイチャして
過ごすという意味か?

めちゃ恥ずかしいんですが。
でも嫌ではない。

だけどさ。
イチャイチャって
昨日みたいなことも
きっと入ってるよな?

あれも思い返せば
かなり恥ずかしかった。

あんな風に子どもの作り方を
聞いた俺も悪かったが。

もしかして、昨日みたいな、
もしくはもっと凄いこと
するつもりなのか?

俺、恥ずかしぬかもしれんぞ。

「イクス、顔が真っ赤だ」

俺を抱きしめながら
ヴィンセントが言う。

「……だって」

「嫌か?」

嫌か、嫌ではないかの
二者選択だったら……

「嫌じゃない」

「そうか、良かった」

ほっと息を吐くように
ヴィンセントが言う。

「でも、恥ずかしい」

俺が言うと、
ヴィンセントが俺の頬に
キスをした。

「大丈夫だ。
俺と一緒に慣れて行けばいい」

なんか、特訓したら
なんとかなる、みたいな
脳筋みたいな言葉に
聞こえるのは俺だけだろうか。

「じゃあ、戻るか」

急にヴィンセントは立ち上がり
俺を抱き上げる。

「どこに?」

「部屋だ。
ずっと散歩して疲れただろう」

いや、まぁ、そうだけど。
川遊びもしたし
疲れたと言えば疲れたけれど。

いや、ほんと。
俺、このまま連れていかれて大丈夫?

不安になったが、
助けを求める者がいるはずもなく
俺はヴィンセントに抱き上げられたまま
寝室へと連れ戻されてしまった。


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