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溺愛と結婚と

159:蜜月とはこれ如何に

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 俺は朝、目を覚まして
びっくりした。

ヴィンセントが俺の隣で
何故かじっと俺の顔を
見つめていたのだ。

「おはよう」って甘い声で
声をかけられて
条件反射的に俺も
おはよう、と声を出したが
内心はめちゃくちゃ
びっくりしていた。

俺の様子を見て
ヴィンセントが驚いたか?
と長い指で俺の目尻に触れる。

俺は驚いただけで
勝手に涙が浮かぶ体質だからな。

ちょっと目が潤んでいたのかもしれない。

俺は昨日と違っていたけれど
やっぱりスケスケのナイトドレスっぽい
寝間着を着せられていた。

何故だ。

「ヴィー兄様、僕の寝間着、
なんでこんなの?」

俺がベットから起き上がると
ヴィンセントはイクスは可愛いからな、
と謎な返事が返って来た。

昨日は寝間着で過ごしてしまったが
今日は着替えるつもりだ。

が。
俺にまともな服はあるのだろうか。

不安を感じつつ、
ヴィンセントに手を取られ
俺はベットから下りた。

昨日も使った隣の部屋に行くと
ヴィンセントが俺にシンプルな
シャツとズボンを渡してくれた。

身体を締め付けず、
ボタンの数も少ない
着やすいものだ。

よかった。
まともな服はあったんだ。

「服は王宮から
持って来たものと、
あとは……陛下が
用意させたものだと思う」

ヴィンセントの言葉に俺は
言葉に詰まる。

なるほど。
文句は言えないってことだな。

まぁ、いい。
素っ裸で寝るよりは
布地があるだけましだろう。

前世では真夏の暑い日は
扇風機を回して
ほぼ裸で寝てた時もある。

ちょっと女子っぽい服なのが
気になっただけで文句はないぞ。

ヴィンセントが俺の体調を聞くので
元気だと言うと、それならと
ヴィンセントは俺を食堂に誘った。

この屋敷の人たちは
俺とできるだけ
接触を控えるように言われているのだろう。

廊下で侍女を見かけたが
侍女たちは俺を見ると
頭を下げて俺が通り過ぎるのを
ひたすら待っていたし、
俺がヴィンセントと食堂に行くと
執事らしき人が給仕代わりに
ついてくれたけれど、
それ以外の使用人は
誰ひとりでてこなかった。

でも働いている人数はいると思う。

だって前触れもなく
食堂に行ったのに、
あっと言う間に朝食が出て来たし、
食事内容は俺が好きな
卵とベーコンのサンドイッチだった。

デザートも俺が良く食べている
甘いプリンだ。

俺が食べるかどうかわからないのに
すぐに準備できるのは
それだけの料理人がいるってことだ。

もしかしたら料理が
時短できるように
魔法が使える料理人がいるのかもしれない。

ここは陛下の隠れ家みたいだって
ヴィンセントは言ってたし、
使用人たちにはあまり
馴れ馴れしく話しかけたり
しない方が良いのかもしれない。

使用人の人たちみんな
ワケアリの人たちかもしれないし。

俺は執事との会話もすべて
ヴィンセントに任せて
食べることに集中することにした。

食事の後はヴィンセントに
誘われて、中庭に出て見ることにする。

庭は大きな庭園だった。

あちこちに種類が違う花が
咲き乱れていて、
薔薇のアーチや噴水、
東屋の近くには川が流れている。

俺はゆっくりと庭を散策した。

川の水の触れたら冷たかったし、
ヴィンセントに「中には入るなよ」
なんて言われながらも、
足を水に付けたりした。

俺が川で遊んだからか、
いつのまにか、侍女が来て
ヴィンセントにタオルを
渡してくれている。

しかもそのことに
俺はまったく気が付かなかった。

忍者か?!

俺はヴィンセントに抱えられ
近くの東屋に連れていかれて
椅子に座らされた。

そこでヴィンセントに
足を丁寧に拭いてもらったのだが
東屋にはすでにお茶の準備がしてあり
またもや、忍者か!って
内心、ツッコンだ。

ここの侍女たち、優秀過ぎる。

ヴィンセントは丁寧に
俺の足を拭いて
靴まで履かせてくれた。

大きな指がくすぐったい。

日が昇り、気温も少し
高くなってきたけれど、
俺の身体が熱く感じてるのは
気温の変化だけではないと思う。

東屋に準備されていたお茶は
この世界ではまだあまり
流通していない氷が入った
冷たいお茶だった。

きっと氷魔法が使える料理人がいるのだ。

俺がありがたく冷たいお茶を
ぐびぐび飲んでいると、
俺の前に座っていたヴィンセントが
じっと俺を見つめる。

「ヴィー兄様?」

どうした?

「イクス、俺はさっき
お前の足を拭いただろう?」

「うん」

それがどうかしたか?
ちょっと恥ずかしかったけれど。

でも足を拭いてもらったり
世話をしてもらうのは
子どものころから良くやってもらっていた。

自分でやってもよかったけれど
いつもやってもらってたことだし、
急に拒否るのもなんとなく
体裁が悪い気もするし。

俺一人、ヴィンセントの指とか
意識してるみたいで恥ずかしいじゃんか。

俺がそんなことを考えていると、
ヴィンセントは思いもよらなかった
ことを俺に言う。

「ああやって素足を出すのは
俺の前だけにして欲しい」

「ん??」

言われている意味が分からず、
目がくるくるした。

俺の様子にヴィンセントは
苦笑する。

「成人した貴族は他人の前では
肌を見せることはあまりない。
……靴を脱ぐこともだ」

え?
そうなの?

「肌を見せると言うことは、
だと言うことだ。
特に素足を見せる、
靴を脱ぐのは……その、
相手を誘う行為になる」

誘うって、つまりは
アダルト方面の意味で!?

でも俺、ヴィンセントには
めちゃくちゃ肌を見せてますけど?

「今までイクスは子どもだったから」

ヴィンセントは笑って俺の髪を撫でる。

「でも、もう俺と結婚したんだから
いくら可愛くても、今迄みたいに
気安く脱ぐような真似は止めて欲しい」

優しい声だったけど、
真剣な顔で言われて俺は頷くしかない。

そうか。
貴族ってやっぱり面倒なんだな。

というか、俺がそういう
貴族の常識を知らなすぎなのか。

俺はそういうのとは無縁に生きて来た。
父たちが守ってくれていたのだ。

でも俺は結婚して、
ハーディマン侯爵家の一員に
なったから、これからは
気を付けないとダメだな。

「わかった」

「俺の前では構わないぞ」

ヴィンセントはそう言って笑う。

「うん、ヴィー兄様は特別だから」

俺も笑ったが、ヴィンセントは
また真面目な顔をする。

「ヴィー兄様?」

どうした?

「……それなんだが」

どれなんだが?

言いにくそうなヴィンセントに
俺は首を傾げた。
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