【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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溺愛と結婚と

153:王都を救え!【ヴィンセントSIDE】

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 イクスが眠ったのを確かめて
俺は部屋を出た。

オーリー魔法師団長の元に行くからだ。

イクスの力に関しては
【精霊の樹木】の件があったので
もう驚かないと思っていたが、
あの時のイクスの魔力など
たいしたことは無かったと
言わざるを得ない状況だった。

正直、ジュがいなければ
俺の魔力だけでは
イクスを助けられなかったかもしれない。

そう思うと悔しいが
俺の魔力ではあれが精いっぱいだった。

ジュはイクスから離れようと
しなかったので、
一緒にベットに押し込んできたが
さもイクスのそばにいるのが
当然だと言う顔をするのが
やはり気に食わない。

奴は猫顔のクセにすぐに
俺をバカにしたような、
得意そうな顔をするのだ。

俺が魔法師団長室へと行くと、
すぐに部屋の扉が開く。

俺が来ることはわかっていたようだ。

オーリー魔法師団長は
イクスの様子を俺に聞いてから
俺の体調も気にしてくれた。

「俺は大丈夫です。
イクスはぶっ通しでしたが、
俺は途中、魔力が切れる前に
休憩しましたし。

師団長こそ、大丈夫でしょうか」

「あれぐらい、問題ない。
一応、魔獣相手に徹夜で
戦ったこともあるからな」

攻撃してくる相手がいなかった分
楽だったと笑うオーリー師団長に
俺は苦笑するしかない。

「さきほどの地震だが、
おそらく、イクスの言っていた
古代の魔術が解けたのだと思う」

「え!?」

まさか、間一髪だったってことか。

「部下から報告があってな。
最後の魔力を振り絞って
王都全体に魔力を行き渡らせたが、
最初にあった魔術らしき膜が
全て消えていた。

ただ、地下空洞はすべて
埋まっていたよ。
さすがだな」

そうか、良かった。
イクスも喜ぶだろう。

「彼は凄いな」

「そうですね」

俺の伴侶だからな。
たとえ魔法師団長でも
手出しは無用だぞ!

と、威嚇を込めて返事をすると
オーリー魔法師団長は笑った。

「まさか、取ったりはしない。
パットレイ公爵家とやり合う程
バカじゃないからな」

「それなら良いですが」

この人は魔法の実力も凄いが、
魔法に関する研究熱心さも
凄いと有名だからな。

ちゃんと釘を刺しておかないと
イクスに手を出しかねない。

「だが、彼をスカウトするのは
問題ないだろう?」

ほらな。

「問題しかありません。
イクスは学校を卒業したら
俺と領地に戻りますから」

「だが彼は魔術を研究したいのだろう?」

「それは領地でもできますから」

俺がにべもなく言う。

すると大きな笑い声が
部屋に響いた。

「噂にたがわぬ過保護と
独占欲だな」

大きく笑いながら言われたが
その声には呆れた響きが
混ざっている。

「まだ彼は16歳だろう?
結婚したとはいえ、
君の判断で未来の可能性を
潰すのはどうかと思うぞ」

それを言われると胸が痛くなる。

イクスは可能性に満ちた存在だからだ。

「領地に居ようが、彼の存在が
公になれば彼の才は狙われる。

世間から彼を遠ざけ、
閉じ込めて生きるのは
本意ではないのだろう?

そうであれば、彼の才を隠し
守れるものが多くいる場所に
いることが得策だとは思わないか?」

幸い、ここにいる秘密を知る者たちは
金も力も権力もある、と
オーリー魔法師団長は言葉を続けた。

「そしてその者たちは、
君と、あの子を守ることに
尽力を惜しまないだろう」

そう言って口元を緩めた顔は、
いつも人を茶化したり、
わざとからかうようなことを言って
相手を怒らせている普段の
オーリー魔法師団長の顔では無くて。

優しい、信頼感のある笑みだった。

この人にもこんな顔ができるのかと、
俺は内心驚く。

もっとも、彼のこういった顔を
引き出したのは俺ではなく
イクスだろうが。

短い付き合いの中でも
俺は二人が魔法や魔術の話で
盛り上がっている姿を見ていたし、
オーリー魔法師団長にしても
イクスぐらい魔法の話ができる相手は
初めてだったに違いない。

オーリー魔法師団長は俺たちの
父と同じ年齢の筈だが、
イクスと二人で話をしている姿を見ると
まるで親友の様に夢中で話をしている。

オーリー魔法師団長はもしかしたら
イクスを本当に好きな魔法の話題ができる
親しい友人……対等な者として
見ているのかもしれない。

「まぁ、そう言ったことは
後々考えれば良いことか」

オーリー魔法師団長は急に
話を変えた。

「俺は今回の成果を陛下に伝えてくる。
今回のことは内容が内容だけに
秘密裏に動くことになったが
おそらく陛下から内密に
褒章が贈られるだろう。

何か希望はあるか?」

そう聞かれたが俺は首を振る。

俺はイクスを手助けしたかっただけだし、
褒美があると言うのなら
それはイクスのものだ。

「ちゃんと彼にも褒章はでると思うぞ」

俺が首を振った意味を正しく認識して
オーリー魔法師団長は言うが、
やはり俺は必要ないと、
今度は言葉にして伝えた。

「すでに欲しいものは
手に入れていますので」

俺の言葉を聞いて、また
オーリー魔法師団長は笑った。

「いいねぇ、若い、若い」

バカにされているのだろうか。

「じゃあ、俺が適当に陛下に
進言しておくとするか」

そう言ってオーリー魔法師団長は
俺に帰るように、手で
追い払うような仕草をする。

「王宮にはいつまでいる?」

これは俺ではなく、
イクスのことを聞いているのだな。

「今、疲れて眠っているので、
目が覚めたら」

「そうか。
だが、どれだけ寝るかわからんぞ」

確かに。
イクスは魔力が尽きかけていた。

もともと体力も無かったイクスのことだ。

もしかしたら数日は寝込むかもしれない。

「褒美、欲しくは無いか?」

にやり、とオーリー魔法師団長が笑う。

物凄く悪人顔で。

「いつでも部屋を出れる準備をして
待ってろ」

どう言う意味だ?
あの王宮の部屋を追い出されるのか?

……今回の件の功労者のイクスが
疲れて眠っているのに?

わけがわからない。

わからないが、俺が魔法師団長の
言葉を聞き返すことも
否定することも許されない。

俺は素直に騎士の礼をして
部屋を後にした。

早足でイクスがいる部屋に戻る。

イクスはまだ眠っていたが、
俺は身の回りの物だけ、
パットレイ公爵家がイクスのために
準備したものだけ、鞄に詰めた。

最初からこの部屋には
何の用意もなく来たので、
部屋を出る準備はすぐに終わる。

俺は自分の荷物と
イクスの荷物を片付けて、
それからクローゼットを見た。

あの秘密基地に繋がったクローゼットだ。

俺はクローゼットの取っ手を掴み、
あの秘密基地を思い浮かべる。

イクスはそうしたら
秘密基地に行けるのだと言っていた。

だから俺も……

「まぁ、そうだよな」

クローゼットを開けたが、
そこはだたのクローゼットだ。

バカなことをしていると
俺が思った時、部屋の扉を
軽く叩く音がする。

俺が返事をすると
扉が開き、王宮の侍従が
うやうやしく頭を下げた。

「準備が整いました。
陛下のご指示で館に
ご案内させていただきます」

俺は一瞬、動けなかった。
疲れていたのもあって
脳が理解を拒否したのだ。

陛下の指示?
館?

「荷物はこちらでしょうか。
どうぞ、パットレイご子息と
ご一緒にこちらへ」

拒否は赦さないと言わんばかりの侍従に
俺は慌ててイクスのそばにいく。

イクスはまだ眠っている。

俺は起こさないようにシーツごと
そっとイクスを抱き上げた。

いつのまにかジュはいなくなっている。

そのことに俺は、ほっとした。

ジュはまだ秘匿されている存在だからだ。

侍従は俺のカバンを持ち、
部屋の外へと俺たちを促す。

俺たちが王宮に滞在しているのは
公にはなっていない。

だからだろう。

俺たちは王宮の裏から
家門も何もない馬車に乗せられた。

ただ、馬車はかなり居心地がよく、
王家の人間がお忍びに
使う時の馬車だろうと推察される。

イクスは俺の膝の上で
安心しきった顔でぐっすり眠っていた。

この顔を見るだけで
俺は元気が湧いてくる。

かなりの距離を走ったと思う。

馬車が止まり、
侍従が馬車の扉を開けた先は。

大きな屋敷があった。

俺がイクスを抱き上げて
馬車を降りると、
執事や侍女たちが十数人
俺たちを出迎える。

「陛下から大切なお客様を
もてなすように言われております。
どうぞ、滞在中はごゆるりとお過ごしください」

執事がそう言い、頭を下げた。

ただし、この屋敷の所有者の名も、
そして使用人たちの名も
言うことはできないので、
それだけはご容赦ください、と
執事に言われる。

もしかしたらここは
陛下の隠れ家なのかもしれない。

何にせよ俺には拒否権はないし、
従うしかないだろう。

イクスの存在を隠して
安静に休ませるにはこの場所は
最適かもしれないしな。

俺はそう自分を納得させ、
イクスを抱き上げたまま
屋敷に足を踏み入れた。





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