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溺愛と結婚と
151:王都を救え!
しおりを挟むヴィンセントがおかしくなって
シーツの上から抱きしめられた日は、
俺は侍女が夕食だと呼びに来るまで
ずっとヴィンセントに抱きしめられたままだった。
というか、大きな腕は力強くて
抜け出せそうになかったし、
疲れていたから、そのまま
俺は眠ってしまったのだ。
ヴィンセントに起こされた時は
眠気もあって、寝る前までの
ヴィンセントの違和感など
すっかり忘れていたのだが、
夕飯を食べた後、再び
ヴィンセントがおかしくなった。
ぎこちない様子で
「一緒に寝るか?」とか
そんなことを聞いて来たのだ。
一緒に寝てもいいし、
風呂だって一緒に入っても
構わないけれど、
いきなりどうしたんだ?って思って
俺が首を傾げると、ヴィンセントは
すぐに、なんでもない、と苦笑する。
そこで俺は、そういや
一緒に触れあおうとか、
そんな話をしたんだった、と
急に思い出したが、
思い出したら思い出したで恥ずかしいし、
じゃあ一緒に寝よう、なんて言えそうにない。
ずっと一緒に居たから、
一緒に寝るのも当たり前だった。
そんなヴィンセントといきなり
恋愛の距離になるのは、
なかなかに難しい。
恥ずかしいのももちろんだが、
今までの習慣で、無意識に
返事をしたり、行動してしまったりするのだ。
ただ、その日は俺は秘密基地から
持って来ていた本を読みたかったので、
その旨をヴィンセントに告げて、
落ち着いたら一緒に寝ようと約束をする。
ヴィンセントは複雑そうな顔をしたが
ちゃんと頷いてくれた。
そして、その日からもう一週間になるが
相変わらず俺は王宮にいる。
ヴィンセントはさすがに何日も
休めないようで騎士団にいるが
基本的に俺は部屋から1歩も出ない生活をしている。
俺が王宮にいることは
限られた者しか知らされていないらしい。
まぁ、ことが事だしな。
俺の部屋に来るのは、
ヴィンセント以外だと
魔法師団長のオーリーぐらいだ。
オーリーは優秀だった。
王都の地下全体に、
均一の魔力を流して
地下にどれぐらいの、
どんな形の空洞が空いているのかを
調べ出したのだ。
魔力を均一に流し続けるなど
普通はできない芸当らしいが
さすが魔法師団長だけある。
魔力も、センスもぴか一のようだ。
オーリーにレントゲン写真のような
王都の地下の地図を見せられた時は
さすがに俺も興奮した。
こういったことが普通に
誰でもできるようになれば
もっと医療が発展すると思う。
俺と言えば、例の砂を
水槽ごと秘密基地から持って来て
そのコピーを繰り返している。
古書を読みながら、
練習していると、それなりに
コピーの精度も上がって来た。
ついでに、コピー元と
似ているけれど、別の機能を
付けたものも作れるようになってきた。
たとえば、このコピーができる力は
3Dプリンターの様に、
最初は形を似せるだけだった。
コップをコピーして作ったら
確かに形はコップだけれど、
熱いお茶を淹れたら、
くにゃり、と曲がって
砂に戻ってしまったのだ。
それが練習していくと
熱いお湯を入れても大丈夫な
実物と同じようなコップを
作れるようになった。
そしてその次は、コップに
保温機能を付けたり、
冷却機能を付けたり。
コップの取っ手の形を変えたり。
俺が想像したままのものを
創ることができるようになったのだ。
俺のこの『力』にオーリーは
大興奮だった。
ぜひ俺の魔力を研究させてくれ!
と両手を掴まれてお願いされたが
お断りをさせていただいている。
だって、これは研究して
他の人が使えるようになるような
魔力ではないから。
神様から貰ったイレギュラーだしな。
その代わり、俺はコピーした
例の砂を惜しみなく
オーリーに渡した。
オーリーはその砂を使って
重力にどれぐらい耐えるのか、
雨水などで溶け出さないかなど、
細かい耐久テストを繰り返してくれている。
俺が完璧に砂をコピーできるようになったら
どんどんコピーをして
王都の地下を埋める予定だ。
ただ、どうやって埋めるのか、
と言う問題もある。
俺の魔法でなんとか
なるような気もするのだが、
砂は練れば粘土のようにはなるが
粘土状の時は、まだ耐久性は弱い。
王都の地面を支えることが
できないぐらいの
強度しかないのだ。
乾けば固く強くなるのだが、
果たして王都の地下で
砂が乾くことができるのか……。
日の光もない場所なので
何とも言えないのが現状だ。
ならば、最初から乾かして固くなった
砂を使えばいいのだが、
王都の地下にある空洞は、
だだっ広い長方形ではない。
自然が生み出したものなので、
大きさも均一ではないし、
デコボコした場所だってあるだろう。
綺麗な長方形でないのに、
俺が作った固い砂の塊を
すき間なく埋めるのは
どう考えても無理だと思う。
ならばどうするか。
俺が考えたのは、
オーリーが出してくれた
王都地下の地図を見て、
空洞にぴったりの砂を創る、
と言うことだった。
そしてジクソーパズルのように
空洞に転移魔法で固めた砂を埋めていくのだ。
俺がその話をしたとき、
オーリーは唖然とした。
地下の空洞は把握したが
どこまで正確かわからないし、
そもそも物質だけを
移動させることができるのか、と。
正直俺はやったことが無いから
わからない。
でも、できると思うんだ。
やればできる。
前世のスポコンマンガに
出てくる主人公みたいな
セリフを言うと、オーリーは
口を開けたまま呆然としていた。
でも、大丈夫だ。
俺ができると言ったらできるんだ。
……たぶん。
魔法は自分を信じる力と
想像力がすべてだと古書に
書いてあったから、
俺はそれを信じているのだ。
でも、不安にならないわけはないから
不安になったらヴィンセントに抱きつく。
ヴィンセントは俺にとっての
精神安定剤みたいなものだ。
ヴィンセントはちゃんと俺を
受け止めてくれるし、
頭を撫でてくれるし。
それから……優しく髪に
キスするようになった。
しかも、頻繁に。
甘い空気は恥ずかしすぎるが
ヴィンセントに甘えさせてもらったら
魔力が倍増するような気がする。
……前世妹の呪いのせいだろうか。
バカ妹のイクス愛は
神様まで動かすほど
深く濃く、腐ったものだったしな。
そのバカ妹の推しカップルが
イクスとヴィンセントなのだから
俺がヴィンセントに癒されて
元気になったり、
魔力が倍増するのは
おかしくはない気がする。
何にせよ、俺は学校にも行かず、
昼間は王都の地下空洞を埋めるための
砂を必死で作り、夜はヴィンセントに
ひたすら甘える、と言う日々を過ごしている。
俺はヤヤコシイことはオーリーに
お任せしているので
陛下たちとの会議には参加していないが
騎士団主催で避難訓練が行われたり、
王都民たちも、災害に関する備えや
危機管理のような心理が
出来始めたらしい。
そんな時だ。
俺がコピーした砂を検証していた
オーリーからGOサインが出た。
とうとう、王都の地下を埋める作業が始まるのだ。
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