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溺愛と結婚と
146:秘密基地と閨教育・1
しおりを挟む俺はヴィンセントを連れて
クローゼットの中に入った。
クローゼットの扉の向こうは
すでに秘密基地だ。
ヴィンセントは声もなく
ただ驚いていたが、
俺は簡単に最初はジュに
この場所に連れて来られたことと、
おそらく、この部屋にある物は
何を使っても大丈夫だと思う旨を伝えた。
ヴィンセントは俺の説明に頷き、
部屋を見回す。
「見たこともない器具が多いな」
「うん。何に使うのか
わからないものも多いけど。
説明書を探すか、
使い方が書いてある本を
本棚から探したら
使い方がわかると思う」
俺がそう言うと、
ヴィンセントは壁一面の
本棚にぎっしり詰まった古書を見て
嫌そうな顔をした。
ヴィンセントは体を動かす方が
好きだもんな。
「この部屋、窓もないのに
明るいんだな」
ヴィンセントがふと何かに
気が付いたかのように天井を
見上げて呟くように言う。
俺はつられて、天井を見上げた。
言われて気が付いたが、
天井が淡く光っている。
これなら夜でも文字を
読むのに不自由しそうにない。
俺は前世の記憶から
蛍光灯を知っていたから
部屋が明るくても当たり前だった。
だから明かりをつけると言う
感覚もなかったし、
今住んでいる屋敷では
常に侍女たちが俺が移動する場所の
環境を整えていてくれるので
部屋が暗いとか明るいとか
思ったこともない。
だがそう言われれば、
確かに窓もない部屋で
何もしていないのに
始終部屋が明るいのは
確かに不思議だ。
ヴィンセントって細かいことにも
気が付くんだな。
魔法も使ってないのに、
天井が光っているのは
神様か何かなのだろうか。
俺が「不思議だね」と
返事をするとヴィンセントは
何故明るいのかという
原因を追究する気はなかったようだ。
驚いた顔をしつつも
天井から視線を下ろし、
好奇心いっぱいの顔で本棚を見たり、
研究用の長テーブルの上の
薬品っぽいものが入った瓶、
フラスコのようなものなど
さわったりしはじめた。
凄いよな。
俺だったら初めて見るもので
こんな状況に陥ったら
怖くてまず周囲にある物に
無遠慮に触れようとは思わない。
だって一応俺は
この部屋のものは何を使っても
大丈夫だと思う、とは言ったけれど。
あくまでも思うだけで、
それが確かなのかはわからないのだ。
俺は神様から貰ったスキルや
前世妹の『力』のこともあるから
警戒心なくこの部屋に
最初から馴染んでしまったが、
ヴィンセントはそうではない。
なのにヴィンセントは
あちこち触って、
手に取ったり、
持ち上げたりしては、
それをその周辺のテーブルや
デスクの上に置いて行く。
ヴィンセントはしっかりしているし
俺の荷物を片付けてくれたり
していたから真面目で
几帳面な人種だと思っていたが
興味が湧いたときは別らしい。
こんなに好奇心旺盛だったとは
長年一緒に居るけど
思いもしなかった。
俺、ヴィンセントのことを
頼れる大人だと思ってたけど
実は違う一面もあるのかもしれない。
部屋中を散策しているヴィンセントを
俺は見ていたが、ここで
ボーっとしていても仕方がない。
俺はヴィンセントを放置して
写真立てを作った物質が
入った水槽の前に立つ。
この水槽の近くには
様々な砂のようなものが
瓶や水槽に詰められて置いてある。
これらを使って
あの古書に書かれていた物質を
作れないかやってみよう。
でも、瓶の中身がどんなものなのか
名前すらわからないので
これ等の特徴を
古書本の中から探し出すのは
難しいと思う。
どうする?
適当に混ぜて爆発したら
あぶないしな。
そんなことを思いつつ
近くの水槽の中に俺は手を突っ込んだ。
触ってみて、
手触りを確かめようと思ったのだ。
だが。
俺が黒い砂に触れた途端、
指先が軽く光って、
頭の中に砂の特性が
流れ込んできた。
そうか。
俺、こういう鑑定魔法っぽいのも
使えるようになってたのか。
すげぇな。
というか、カミサマ。
こういう事態になるのがわかってたから
俺に凄い能力と魔力を
与えたってオチになるのではないだろうか。
なんかものすごく良いように
使われている気がする。
まぁ、それぐらいでないと
世界の維持なんてできないのかもしれないし、
そういうことができるからこそ、
俺の前世妹がいる全く別世界から
魔力の源になる【力】として
腐女子の妄想を吸い上げるなんて
発想が生まれるのだろうけど。
とにかく、この砂が王都の地下を
埋めるのに適したものだと言うことはわかった。
だが、だからなんだ?だ。
たとえこの砂が
王都の地下を埋めるのに
適していたとしても、
王都の地下にある空洞が
どれぐらいの規模なのか
わからないのだ。
この砂を創るための
材料がどれぐらい必要なのか
わからないし、そもそも
作り方がわからない。
この砂を俺が作れる確証もないんだぞ。
何もないところから、
別の何かの物質を生み出すような
スキルとか魔力があれば
良かったのだろうが、
無の状態から何かを生み出すなんて
それこそ神様の領分だ。
だってさ。
シンデレラの魔法使いでさえ、
かぼちゃがないと馬車を
作れなかったんだぜ?
そう考えて、
かぼちゃでなければ
馬車になれなかったのか?
とふと思った。
かぼちゃである必要はなく、
なすびでも、ジャガイモでも
馬車になったのであれば。
この砂も、原材料は関係なく
何でもこの砂になったらいいんじゃないか?
それこそ、王都中の廃棄物が
この砂になるとか……。
今の俺には、そんな魔法を
使うことはできないが、
魔法を組み合わせる魔術なら
できるのではないか?
そうだ。
魔術はそもそも精密で、
細密で、強大な魔力と、すべての
属性をパズルのように組み合わせた
【完成形】がある。
その【完成形】を使うことが出来れば
あらゆることが可能になる、と
言われているものだ。
俺が読み続けている古書の中にも
この【完成形】のことは
何度も出てくるが、
それを一人で成し遂げることが
できたという記述はない。
都市を浮かせたとのも
おそらくこの【完成形】の魔術を
使ったのだと思われるが、
それは何人もの、あらゆる属性と
大きな魔力を持ち、なおかつ
相性の良い魔術師たちが
協力して生み出したものだと言う。
だが今、魔術を使える者はいない。
この世界の魔力は、
神様が代替わりした時から
衰退し、魔力を持つ人間が
減ってしまっているからだ。
少なくとも俺の前世妹たちの
腐妄想を糧にしなければならないぐらい
この世界の魔力は底をついている。
だが俺は別だ。
この世界の理と反して、
俺は前世妹と繋がっていて
直接魔力を補充しているし、
おそらくだが、この世界の
魔法という枠や概念から
外れた存在だと思う。
俺なら。
この世界の理から外れた俺なら、
魔術を使って、
この状況をなんとかできるはずだ。
俺は顔を上げて
部屋の周囲を囲むようににある
大きな本棚を見た。
これだけ大量の古書が……
魔術書があるのだ。
どれか一冊ぐらい
今の状況を打破できる
ものがあるんじゃないか?
もちろん、1冊1冊読んでいく時間はない。
だが俺には触れるだけで
内容を理解する能力がある。
これを使わない手は無い。
よし。
「ヴィー兄様」
俺は部屋を物色している
ヴィンセントを呼んだ。
「どうした?」
ヴィンセントがすぐに俺のそばに来た。
「うん、あのね。
この本棚の本を確認したいんだ」
ヴィンセントは本棚に視線を向ける。
「どの本だ?」
「全部だよ」
と俺が言うと、
ヴィンセントは目を見開いて固まった。
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