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溺愛と結婚と
145:至福の後は……【ヴィンセントSIDE】
しおりを挟む俺はイクスを抱き上げて
ベットに運んだ。
いや、そうではない。
そういう意味ではなく、
イクスが眠そうだったからだ。
食事をして満腹になったからだろう。
膝に乗せていたイクスを抱き上げ
俺はイクスを昼寝でもさせようと
ベットに運んだのだ。
だがイクスの身体をベットに下ろしても
イクスは俺から離れなかった。
嬉しかったこともあり、
なし崩しに一緒にベットに入ってしまう。
本当に恋人同士のようで
俺はイクスを抱きしめ、頬に、
額に髪に、唇を落とす。
イクスがくすぐったいと笑って
俺の顔に手を伸ばすから
その指先にも口づけた。
イクスは嫌がるどころか
さらに俺に身体を
密着させてくる。
俺を兄として慕っているのか
恋人として甘えているのか
判断はできなかったが。
イクスを抱き込み、
腕枕をしてやると
イクスは嬉しそうに俺にしがみついた。
そして小さくあくびをする。
「ヴィー兄様、眠たいから
ちょっとだけ……」というイクスの
唇にもう一度口づける。
うとうとするイクスの唇を
俺はそっと舐めた。
イクスは何も言わずに、
目を閉じたままだ。
眠ってしまったのかもしれない。
もちろん、寝ているイクスに
何かをしようなどと、
そんなやましいことは考えてはいない。
だが。
夢ぐらいは見させてほしい。
例えば今夜、今と同じように
イクスと甘い時間を過ごし
眠りに落ちるとか。
もしくはもっと甘い時間を……
イクスの白い肌を
もっと味わうような……。
俺は慌てて妄想を掻き消す。
こういうことは
俺が勝手に進めて良いことではない。
イクスの同意が無ければ
この美しい肌に触れることはできないし
その前に閨教育だ。
パットレイ公爵家が放置していた
イクスの閨教育を
どうするかを考えなければならない。
いっそ、今夜話をしてみるか?
イクスがどの程度知っているのか
きちんと確認を……
いや、違う。
別に実地で教えるなどは考えてはいない。
ただ知識を伝えるだけだ。
いやだが。
だがしかし。
イクスにそんな知識を教えて良いのか?
イクスの可愛い唇から、
精液、とか言う言葉が発せられたら……。
ヤバイ。
それはそれで、ヤバイ。
変な性癖に目覚めそうだ。
俺が一人で悶えていると、
イクスが身じろぎした。
俺が動いたから
目が覚めてしまったのかもしれない。
謝罪の気持ちでイクスを見ると
長いまつげが揺れて、
イクスの美しい碧い瞳が
俺を捉えた。
「ヴィー兄様?」
俺がいるのを確かめるように
下っ足らずで俺を呼ぶ。
俺がここにいると、
背中に腕をまわしてやると
イクスは幸せそうな顔をした。
見ているだけで俺まで癒されてしまう可愛い顔だ。
イクスは俺の胸に顔を押し付けたかと思うと
クスクス笑って、ヴィー兄様は
安心する、という。
俺も嬉しくなり、
そっと髪を撫でていたが、
急にイクスが黙り込んだ。
何かを考えているようだ。
見守るつもりでいたが、
急にイクスは奇妙なことを言う。
「空間を繋ぐ……?」
「どうした?」
俺が聞くとイクスは俺から体を離す。
「うん、あのね。
空間を……繋いだら……?」
何を言っている?
どういう意味だ?
俺の問いには答えず
イクスはブツブツ何かを言っている。
急にイクスがベットから起き上がった。
そしてまたブツブツ言いながら
部屋の中を歩き出す。
俺はベットに座り、
イクスを見た。
こうなると俺は見守るしかできない。
と、突然、イクスがソファーに座り
あの古書を読み始める
と、聞き捨てならない言葉が聞こえて来た。
「試すしかない。
早く、早く行かなくっちゃ」
「どこへ?」
どこへ行くと言うのか。
咄嗟に聞くとイクスは
大声で言う。
「秘密基地!」
秘密基地?
なんだ、それは。
俺が知らない間に、
そんなもの、どこに作ったんだ?
イクスのことで
俺が知らないことがあるなど
認めたくなくて、
俺はイクスを見た。
過保護で、
子離れができていない
父親のようだとは思ったが、
イクスに関しては今更だ。
「イクス、俺を置いて、
どこに行く気だったのかな」
出来るだけ優しく聞いたのに、
イクスの顔が引きつった。
「ど、どこにも行かないし」
明らかに嘘だな。
「秘密基地ってどこにあるのか
聞いてもいいか?
ハーディマン侯爵領にも
パットレイ公爵領にも、
そんなの、作ったこと無かったよな?」
そしてイクスは外出と言えば
学校と屋敷を往復しているだけだ。
秘密基地など作る時間も
場所もなかったはずなのに。
俺が責めたように聞こえたのだろう。
イクスは片手を上げて
懺悔するように言う。
「秘密基地は……
どこにあるか、わかんない。
たぶん、この国……とか
世界からは切り離された場所、かも」
よくわからない。
とイクスは言う。
「ただ、カミサマが用意した部屋だと思う」
神様か。
ネコもどきの精霊に今度は神様か。
なぜ俺のイクスをこき使う?
とうか、何故俺とイクスの
甘い時間をすぐに邪魔しようとする?
まぁ、どんなに非難しても
神にとっては俺の感情など
気に掛けるものではないのだろうが。
俺は仕方なく立ち上がり
イクスのそばに行く。
「それで?
どうやってその場所に行くんだ?
馬車では行けないだろう」
「馬車……は無理かな。
でも、すぐに行けるんだ」
どう言う意味だ?
「ほんとだって。
行くって思ったら、
すぐに行けるんだよ」
イクスは慌てた様子で
ソファーから立ち上がり、
何故かクローゼットの前に立つ。
「たとえばね。
ほら、このクローゼットのドアを
開けたらね」
そのクローゼットは、
さっき俺がイクスの着替えを
収納したものだ。
何がしたいのかわからない。
が。
イクスが勢いよく
クローゼットの扉を開いた。
その中の光景に
俺は言葉を失った。
「ね、ほら」
と胸を張ってイクスは言うが
俺は言葉が出ない。
確かにそこは少し前まで
クローゼットだったのに。
目の前にはまるで
何かの研究室のような
部屋が広がっているのだ。
もちろん、イクスの着替えなど
どこにも見当たらない。
意味が分からない。
ただイクスがとんでもないことを
しでかしたことだけは理解した。
これは、かなり凄いことだ。
というか、世界の常識を
魔法の常識を変えることだと思う。
イクスは、ほらね、なんて
笑顔で俺を見ているが。
俺は今後のことを考え
頭が痛くなりそうだと
首を振ることしかできなかった。
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