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溺愛と結婚と
141:解決策
しおりを挟むそれから俺はヴィンセントと
いちゃいちゃした。
それはもう、ものすごく
いちゃいちゃしてしまった。
前世妹が大喜びしそうなぐらいだ。
だってキスした後は
俺はヴィンセントと一緒に
食事を再開したけれど。
ずっと俺はヴィンセントの
膝の上に乗っていたし、
食べ終わったら、なんと!
ダブルベットの上で
一緒に昼寝までしたのだ。
ヴィンセントに腕枕をしてもらって
俺はべったりヴィンセントに
しがみついていた。
ヴィンセントにしがみつくと
安心するのだ。
これが兄弟の距離と
言われたらそうかもしれないし
恋人の距離と言われたら
そうなのかも、と思う。
俺はもうそういうのを
考えるのをやめることにした。
だってヴィンセントが
兄でも伴侶でもどちらでもいいって
言ってくれたから。
恋人の距離とか伴侶とか。
兄とか幼馴染とか
そういうのではなくて。
俺は俺の考えるヴィンセントとの
距離でいればいいんだって
思えたのだ。
だからめちゃくちゃ
ひっついて甘えてみたら、
ヴィンセントからは髪や
頬や指先に何度もキスを
落とされて、俺は恥ずかしかったが
それ以上に幸せな気分になった。
なんだか物凄く
満たされたような気分に
なったからだろう。
俺はふと、あの秘密基地に
ヴィンセントを連れて行こうかと思った。
迷惑がかかるし
負担になるかもしれないから
秘密を打ち明けるべきでは
無いとか思っていたけれど。
でもヴィンセントには
すべてを話しておきたい。
いいかな。
これも甘えなのだろうか。
でも俺が秘密基地に
空間を繋いで行けることを
伝えておかなければ、
いつか俺が部屋にいないと
心配させてしまう日が
来るかもしれないし。
俺はそこまで考えて、
ん?と自分の考えを復唱した。
「空間を繋ぐ……?」
「どうした?」
ベットの上でヴィンセントの
腹の上に寝そべっていたから、
ヴィンセントが心配そうに
俺の髪を撫でた。
「うん、あのね。
空間を……繋いだら……?」
たとえば、空洞の場所や規模が
わかったとしたら。
空洞の形が正確にわかったとしたら、
空間を繋いで、何かを……
土とか岩とか石とか。
とにかくそんなのを
俺が空間を繋いでその場所を
埋めることはできないだろうか。
もちろん、あらかじめ、
埋めるもの……土や石を準備
しておかなければならないし
岩であれば、形を削って整えて
パズルみたいにその空洞にはめ込まなければならないが。
あれ?
なんか、上手くいくかも?
でも埋めるものがいるよな。
土だのなんだのって、
どこにでもあるけれど、
空洞の規模によっては
それこそ、小さな山を一つ
切り崩すとか、そんなことに
なるかもしれない。
そうなると、今度は
生態系が崩れるとか、
良くないことが起こりそうだ。
俺はヴィンセントに
返事もできずに、
ベットから起き上がる。
「埋めるもの……それこそ
創るのはどうだろう。
たとえば、あの黒い粘土っぽいのを。
材料は……探さないとダメだが。
いや、材料すらも創れるなら……」
俺はブツブツ言いながら部屋を歩き回る。
「待って、さっきの本!」
俺はテーブルに置きっぱなしだった
古書を手に取り、
ソファーに座る。
古書をペラペラぺめくっていると
魔方陣の絵が見えた。
この古書は歴史を表してもいるが、
この古書を作った人の
感想やメモなども書かれたまま
残っていた。
俺はそのメモのことを思い出したのだ。
指先を通して理解した古書の内容は
この本の本文に書かれていることだけだった。
つまり誰かの落書きやメモは
見落とされていたのだ。
俺は本にメモが書かれていることを
古書を読み返した時に気が付いた。
「あった、やっぱり……」
小さなメモ書きには、もし湖を
魔術で封じるのではなく、
埋めるとしたら、という過程で
この作者なりの埋めるモノの
候補をいくつか挙げてあった。
そしてその中に、
錬金術で生み出す柔らかいけれど
時間が経てば強度を増す物質の
作り方が書いてあったのだ。
この情報こそ、救世主では!?
「試すしかない。
早く、早く行かなくっちゃ」
「どこへ?」
「秘密基地!」
と叫んで、俺は、
あ、と気が付いた。
ヴィンセントが物凄い笑顔で
俺を見ている。
……ヤバイ、怖い。
「イクス、俺を置いて、
どこに行く気だったのかな」
「ど、どこにも行かないし」
「秘密基地ってどこにあるのか
聞いてもいいか?
ハーディマン侯爵領にも
パットレイ公爵領にも、
そんなの、作ったこと無かったよな?」
そうですね。
どちらの領にも関係ない場所にありますから。
そう言いたいが
言えるはずもなく。
無言でヴィンセントに見つめられ
俺は白旗を上げた。
「秘密基地は……
どこにあるか、わかんない。
たぶん、この国……とか
世界からは切り離された場所、かも」
よくわからない。
今から考えたらあの部屋から
窓の外とか見たら良かったけど、
そんなことまで思いつかなかった。
「ただ、カミサマが用意した部屋だと思う」
俺の拙い報告に
ヴィンセントはなるほど、と
呟くように言う。
「それで?
どうやってその場所に行くんだ?
馬車では行けないだろう」
「馬車……は無理かな。
でも、すぐに行けるんだ」
ヴィンセントが眉をひそめた。
「ほんとだって。
行くって思ったら、
すぐに行けるんだよ」
俺はこれ以上叱られたくなくて
慌てて言い募る。
「たとえばね。
ほら、このクローゼットのドアを
開けたらね」
俺は近くのクローゼットの
扉の取っ手を掴んだ。
開けたら秘密基地!
って心の中で叫んで
えい!って扉を開ける。
「ね、ほら」
目の前に広がる景色は、
クローゼットの中ではなく
あの秘密基地だった。
ヴィンセントは無言で
クローゼットを見つめ、
何故か俺を見て首を振った。
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