【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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溺愛と結婚と

136:秘密

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 隣の部屋は、こじんまりとした部屋だった。

きっと、あの会議室の控室なんだと思う。

側近の人たちが会議に使う
資料を作ったり、配ったりする準備を
するような部屋だ。

この部屋には陛下と父とヴィンセント。
あとこの国の騎士団長と
魔法師団長、そして宰相だけがいる。

侍従も側近も、誰もいない。

陛下は俺たちを椅子に座るように言うと
自分も俺たちと何ら変わらない椅子に座った。

「ここにいる者たちは
全員信頼を置けるものたちばかりだ。
楽にしてくれてかまわない」

その言葉に俺はほっとする。

「それにここにいる者は
全員、陛下と同じ学校に通い、
競い合った仲だからな」

なんてオーリーが笑う。

え?
そうなの?

ということは、オーリーも
俺の父と同い年?
もしかして30歳過ぎてんの!?

驚いたけれど、
そんなこと言えるわけもない。

俺は、そうなんですね、と
小さくつぶやくだけで、
それ以上は何も言えなかった。

「それでイクス。
この者たちにならば
話をしても大丈夫だ。
私にした話をもう一度して欲しい」

陛下が言い、全員の視線が
俺に向けられる。

俺は持っていたカバンから
古書と地図を出した。

『に”ゃっ!』

と、突然、ジュが
俺の上着の中から飛び出した。

羽を広げて、何故か
オーリーの前まで行くと
威嚇するように、シャーっと牙を出す。

「ジュ。どうしたの?」

まさか敵!?
オーリーはこの国の
魔法師団長だぞ。

ジュはオーリーの目の前で
身体の割には大きな羽を
ばさばさ羽ばたかせて
空中でオーリーを
にらみつけている。

オーリーはジュを見つめて、
「おぉ、おまえ!」
と声を出した。

知り合い?

「ジュ、魔法師団長さんのこと
知ってるの?」

俺が聞くとジュは
毛を逆立てたまま
俺の肩に飛び乗った。

俺がオーリーに視線を向けると
オーリーは、ニヤッと笑い、
「いやぁ、嫌われたものだ」という。

「じつは隣国の国境付近の山で
大規模な土砂崩れが起きてな。

ちょうと隣国の間諜を
追いかけていた時だったから
おそらくそいつがその土砂崩れに
関わっているとは思うのだが。

突然のことで魔法も間に合わなくてな。
俺たちがその土砂に
埋もれそうになった時、
その奇妙な生き物が助けてくれたのだ」

もう少し話を聞くと、
ジュはたまたまその付近にいたのか
土砂崩れを察知したのかは
わからないが、とにかく
土砂崩れに巻き込まれた魔法師たちを
助けたらしい。

ジュが羽をバタバタさせると
土砂がどんどん飛ばされて行き、
オーリーたちは生き埋めにならずにすんだとか。

そこで終わっていたら、
不思議な生き物に感謝して終わったのだが
オーリーはなんと、ジュを無理やり
捕まえたらしい。

胴体をわしづかみにして
羽を広げていじくりまわしたというのだから
たいしたものだ。

オーリーは捕まえて
じっくり研究しようと思ったらしいが
さすがにジュも我慢できなかったのだろう。

激しく羽をばたつかせて抵抗し、
あっという間に姿を消したんだとか。

そりゃそうだ。
可哀そうに。

俺は肩に乗ったジュを抱き上げ
よしよしと頭と羽を撫でてやる。

「怖かったな、ジュ。
ダメだぞ、いくら人間を
助けるためだからって
何も知らない人間の前に出たら。

あの人が悪い大人だったら
捕まえられて
売り飛ばされてたかもしれないぞ」

俺はジュを抱っこしたまま
ジュの額に俺の額をコツンと押し付ける。

「ジュはこんなに可愛いんだから」

ジュは俺の鼻の頭を
ぺろり、と舐めた。

わかってる、って言ってるみたいに見える。

俺はジュが可愛くなって
おでこでジュの額や鼻をすりすりした。

「イクス」

そんな俺を隣に座っていた
ヴィンセントが腕を引っ張り止める。

「今は話を先に進めよう」

そうだった。
ジュがいきなり威嚇するから
ついそちらに意識がそれた。

俺はジュをもう一度上着の中に入れて
オーリーを見る。

「ジュは(たぶん)精霊なんです。
だから捕まえたり、
研究はできません」

俺がきっぱり言うと
オーリーは驚いた顔をした。

「そうか」

だが納得したのか頷いて
すまなかった、と俺に、
というか、俺の上着に視線を向けて
謝罪する。

まぁ、奇妙なものを見つけたら
調べたい意欲がわくのは理解できるから
これ以上責めるのはやめておくか。

俺は気を取り直し、
陛下を見る。

陛下が頷くのを見て
俺は改めてテーブル上で
古書と地図を開く。

俺がなんで精霊のジュと
出会ったのかはここでは言わなかった。

それよりも話すべきことが
山ほどあったからだ。

俺は陛下に話をした内容を
もう一度話した。

誰もが真剣に話を聞いてくれる。

そして俺は先ほどは
言わなかった言葉を付け足した。

「ジュは……神様と。
この世界の神様と繋がっていて、
この世界を守ってるんです。

そのジュが僕にこの本と
地図を見せたと言うことは
そうしなければならない
理由があったからだと思います。

つまりこの件の信憑性は
かなり高い……と
僕は判断します」

そう締めくくると、
大人たち全員の顔が歪んだ。

ヴィンセントだけは俺の手を
ぎゅっと握ってきたが。

「今のイクスには
解決策が無いと言っていたが、
我々に今できることは
何かあるかね?」

陛下が問う。

俺は考えた。
ここは慎重に返事をしなければ
下手したら俺の『力』が、
錬金術が使えることがバレる。

それにもし俺が古書を読み解き、
魔術を発動できたとしても
それでは根本的な解決にはならない。

問題を先送りしているだけだ。

「僕は、まず王都の地下に
どれぐらいの規模の空洞があるのか
調べるのが一番先だと思います」

「調べる?
どうやってだ?」

とオーリーが言うと

「すでに王都には下水道があり
空洞と言うのであれば
かなりの空洞がありますが」

と、宰相のクライス伯爵が言う。

下水道か。
それは大事だ。

下水道ごとこの首都が
地下に沈没したら
めちゃくちゃ嫌だな。

なんて一瞬思ってしまう。

「たぶん、ですけど。
この古書に書かれている
地下の空洞というのは、
下水道よりもっと下だと僕は思うんです」

そうでなければ、
300年も生活していて
誰も気が付かないわけがないと思う。

いや、気が付かないぐらい
魔術がすばらしい出来栄えなのかもしれないが。

でもさ。
薄い氷の上に下水道があり、
その上に町が建っていて、
王宮がある、なんて想像すらしたくない。

怖すぎるだろう。

「僕は空洞はあると思います。
その規模を知りたい。

この本は300年前の記述だから
地形だって変わっているかもしれないし、
当時は空洞だったとしても
何らかの地殻変動でそれが
埋まったとか、そういうことも
あるかもしれないですし。

正確な空洞の規模さえわかれば
町の人たちの避難地域もわりだせますし
対策を取ることができると思います」

俺がそういうと
父は「うちの子がりっぱになって」と
呟いて涙を浮かべ、
陛下はうむうむと嬉しそうな顔をしている。

ヴィンセントも俺を誇らしそうに
見ているし、あとの大人3人も
驚いた顔をしつつも頷いた。

「なるほど。
公爵家の至高の君は
聡明だと噂されていたが
本当らしいな」

オーリーの言葉に俺は
聡明?とその言葉に首を傾げたが、
もしかしたらレオナルドを
叱りつけていた時に、
そんな噂が流れたのかもしれないと
あえて深く考えずに曖昧に笑った。

さて。
どうやって空洞の場所や規模を
調べるか。

俺は前世の知識を思い出しつつ、
思考をめぐらせた。

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