【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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溺愛と結婚と

129:閑話 ある精霊?の話

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 吾輩はジュである。
名前はジュだ。

ご主人に初めて出会った時、
頭の中に『ジュ』という
言葉が浮かんだのだ。

だから吾輩はジュなのだ。

きっと精霊……?だと思う。

よくわからない。

だがご主人はいる。
イクスという名の人間だ。

いや、あるじ?なのは
この世界の神様?かもしれない。

よくわからない。

だがご主人のことは大好きだ。

吾輩が生まれてすぐの時は
神様?のところにいて
『精霊の樹』を頼むよ、と言われた。

よくわからなかったが
吾輩はうなずいてしまったのだろう。

それからご主人に会うまで
吾輩は『精霊の樹』の中で
まどろみながら、世界を見ていた。

この世界の『力』が
うまく巡っていないことも、
バランスが崩れていることも
なんとなくわかった。

そして吾輩がいるこの
『精霊の樹』がこの世界を
救うための「何か」に
なるということも理解できた。

けれど。
吾輩には何もできなかった。

何をすればいいのかわからなかった。

ただ『待っている』。
そう思った。

そして吾輩の前に現れたのが
ご主人だ。

吾輩の大好きなご主人。

ずっと一緒に居たいし、
ぺろぺろしたいし、
しっぽを、くるん、と
優しく撫でてくれる手に巻きつけたい。

それから抱っこされて
優しく毛並みに沿って
撫でられるのも大好きだ。

ご主人、好き~ってなっちゃう。

でもそんなご主人と
吾輩の邪魔をするものがいる。

神様?とヴィンなんとかという人間だ。

神様?はうるさい。

やたらと吾輩をこき使う。

やたらと、やれ地盤変動が
どうとか、洪水がどうとか
世界のバランスがどうとか。

吾輩にはよくわからないことで
呼び出して、働かせる。

言われたことを言われた通りに
すればいいだけだが、
とにかく呼び出される回数が多い。

吾輩以外に精霊?を増やせばいいのに。

と思ったが、どうやら今は
世界が安定していないから
増やせないと言われてしまった。

ずっと昔は神様の使徒とかいう者や
精霊とか聖獣とか、とにかくたくさんいて
この世界を守っていたらしいけれど
元々のこの世界を創った神様と
今の神様?が代替わりをしたときに
そういった助けてくれていたものは
すべていなくなってしまったらしい。

だから今、この世界を
いちから作り直さないとダメで、
神様?は忙しいんだとか。

だからって、吾輩にばかり
頼らないで欲しいと思う。

ヴィンなんとかは、いつも
ご主人と吾輩の邪魔をする。

ご主人の膝の上で昼寝をしていても
ヴィン何とかが来たら
吾輩は膝から下ろされてしまう。

吾輩がご主人から溢れた
甘い魔力をぺろぺろと舐めていたら
ヴィンなんとかに首を掴まれ
床に落とされたこともあった。

まぁ、吾輩は羽があるので
痛くもかゆくもないが。

あのヴィンなんとかは
わかってない。

ご主人の身体は常に
多くのパワーが降り注いでいる。

しかもすべてご主人への
『好きー』が詰まった
物凄く強いパワーだ。

だから吾輩が時折、
そのパワーを緩めたり、
舐めとったりしているのだ。

そうでないと人間と言う
弱い身体のご主人は
そのパワーの強さに壊れてしまう。

吾輩ぐらい、ご主人のことを考え
『ご主人好きー』なものはいない。

それだけは大きな声で言える。

なにせ、吾輩が生まれたのは
その『ご主人好きー』のパワーからだ。

ご主人のことを好きだ、
幸せになって!と想う力から
吾輩は生まれた。

生まれた場所が神様?のそばだったから
吾輩は何故か神様?に利用され
働かされてはいるが、
もともと、ご主人のことが好きだと言う
想いから生まれたのだから
吾輩がご主人を好きなのも当たり前だ。

なのにあのヴィンなんとかは
吾輩に張り合うように
ご主人の隣に座ろうとする。

いい迷惑だ。

それからご主人を膝にも乗せる。

そんなことされると
吾輩がご主人の膝に乗れなくなるから
これも迷惑だ。

思いっきり引っ掻いてやろうかと
思う時もある。

吾輩は猫ではなく、
精霊?だから、人間にはない
【力】があるのだ。

だが、それはしない。

爪も出さない。

肉球で激しくヴィンなんとかの
足や腕を叩くぐらいだ。

なぜなら、ご主人が嬉しそうだから。

ヴィン何とかと話すときの
ご主人は楽しそうだ。

吾輩が肉球でバシバシ叩いたら
困った顔をして吾輩を抱き上げる。

きっとご主人はこのヴィン何とかが
好きなのだと思う。

吾輩が傷を付けたら、
きっとご主人は悲しむだろう。

それは、吾輩の望むことではない。

だから吾輩は、ご主人に気づかれないように
小さく、少しだけヴィン何とかに
意地悪をする。

何もしないのは吾輩が嫌だからだ。

吾輩にとってご主人は一番だが
ご主人にとっての一番は
吾輩ではないかもしれない。

それは仕方が無いことだが、
だからと言って、何もしないで
それを認めるのも嫌なのだ。

だからヴィン何とかが
ご主人の部屋に入ってきたら
吾輩は気が付かないふりをして
わざとヴィン何とかの足を踏みに行く。

しっぽで、ぺしぺし
ふくらはぎあたりを力を入れて
叩いてやる。

だがヴィン何とかは
何も言わない。

ちらりと吾輩を見て、
何もなかったかのように
ご主人のそばにいくのだ。

……気に入らない。

だから今度は吾輩は
羽で飛び上がり、
ご主人の膝の上に下りる。

そうすると必ずご主人は
吾輩を抱き上げてくれる。

吾輩の身体が【力】を使い過ぎて
小さくなった時は
必ず肩に乗せてくれる。

すると頬をすりすりっとできるし、
甘いパワーを舐め放題だ。

だがヴィンなんとかはすぐに
吾輩の邪魔をする。

ご主人に食べ物を勧めたり、
肩を抱き寄せたりする。

するとご主人は吾輩よりも
ヴィン何とかに意識を
移してしまうのだ。

……これまた、気に入らない。

ヴィン何とかは、
吾輩が威嚇をして牙をむいても
しらんぷりだ。

吾輩が本気になったら
こんな人間など、
一瞬で消し飛ぶと言うのに。

今、ご主人はベットの上で眠っている。

吾輩はシーツの上から
ご主人のお腹に乗り、
ご主人から溢れている
『魔力』を吸収していた。

ご主人は、異界から届く
『好き―』のパワーが強すぎて
時折、こうして体調を崩してしまう。

パワーが強すぎて
ご主人の身体がついていけないのだ。

それに降り注ぐ強いパワーは
そのままでは使えないから
ご主人は体の中で
それを魔力に変換しているらしい。

普通の人間にはできないことだから
それだけでも体力を使うと
神様?は言っていた。

本当なら、強いパワーは
すべて神様?が吸収して
それを魔力に変えて
この世界に放出され、
人間たちにも分配される。

でもご主人は特別だから
直接異界からの
強いパワーを受取っているらしい。

さすが吾輩のご主人だ!
特別なのだ。

それに異界から送られてくる
この世界の魔力元になってるパワーは
すべてご主人への『好きー』と
言う想いから生まれているんだから
ご主人が凄く特別なのは
当たり前のことだ。

神様?がいうには、
あと数十年経てばこの世界の
魔力は自然に増えていくだろうし、
わざわざ異界から力を
貰わなくてもなんとかなるという。

でもそれまでは吾輩が
ご主人を守らねば、
ご主人は倒れてばかりになってしまう。

そう思っていると
扉が開く音がして、
ヴィン何とかが部屋に入って来た。

心地よい空間だったのに。

吾輩が、シャーっと牙をむくと
ヴィン何とかは吾輩を見た。

そして呆れたような顔をして
ご主人のそばにある椅子に座った。

「そんなに威嚇するなよ。
考えたのだが、
俺とお前は共存できると思う」

何を言うのかと思えば
共存だと?

「俺もイクスが好き。
お前もイクスが好き。

そしてイクスを守りたいと思っている。
そうだろ?」

吾輩は、にゃ、と返事をした。
ご主人を守りたいのは本当だからだ。

「イクスは可愛いものが好きだ。
そしてお前はその、可愛い枠だ。
俺が言いたいことがわかるか?

俺はどんなに頑張っても
可愛い、にはなれない」

何を言っているのだ?
このヴィン何とかが可愛いなど
ご主人が思うわけがない。

「だが逆に、俺はイクスの
肩を抱くこともできるし、
抱っこだってしてやれる。

俺は……不本意だが
イクスの兄、みたいなもんだ。

可愛い枠ではなく、
兄枠なんだ。

イクスにとって俺とお前は
並べて競うようなものではなく
まったく違う立ち位置になる。

難しいか?
猫には無理か?」

猫ではない。
吾輩は、にゃーっ、と牙を見せてやる。

だが、ヴィン何とかの
言わんとしていることは
なんとなくわかった。

ご主人には『好き―』が沢山あって
吾輩に向ける『好きー』と
ヴィン何とかに向ける『好き-』
とでは、方向が違うと言う意味なのだろう。

吾輩はヴィン何とかを見た。

吾輩を排除しないというのなら
共存してもいい、と思う。

ヴィン何とかは吾輩を見下ろした。

「理解したのか?
俺と一緒に、イクスを守れるか?」

ヴィン何とかが真剣な顔で言う。

仕方が無い。
吾輩はその案に乗ることにした。

この人間を排除したら
ご主人が悲しむだろうしな。

吾輩は、にゃ、と返事をした。

そしてしっぽで、ヴィン何とかの
手を叩いてやる。

するとヴィン何とかは
目を見開いて、笑った。

「そうか。
じゃあ、よろしくな」

そう言って大きな手で
吾輩は頭を撫でられた。

さっきまで敵認識だったものに
頭を撫でられるなど屈辱でしかない。

だが。
大きな手は意外にも心地よく、
吾輩は揺れるしっぽを隠すように
ツン、と顔を横に向けた。








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