116 / 214
高等部とイケメンハーレム
116:新婚?
しおりを挟むふっと意識が浮上した。
はっと目を開けると
心配そうなヴィンセントの顔が見える。
「イクス?」
声を掛けられ、
俺は、ヴィー兄様、と
呟いた。
俺の声を聞き、
ヴィンセントは安堵したような
顔をして、俺の頭を撫でる。
どうやら俺は気を失うように
眠っていたらしい。
ヴィンセントに手を借りて
ベットの上で体を起こすと
窓から差し込む光は
随分と傾いていた。
ヴィンセントはずっと俺に
ついていてくれたのだろうか。
……騎士団をクビにならないか
本気で心配になる。
まぁ、俺の父や陛下が
許可を出しているのだから
大丈夫だとは思いたいが。
ヴィンセントは俺に
水を飲ませてくれて、
額に手を当てたり、
頬に触れたりして
「熱は下がったか?
しんどくはないか?」と
心配そうに早口で聞く。
「大丈夫。
ごめんね、心配かけて」
「いや。
イクスの体調が悪いのに
離宮まで連れまわした
クルト殿下とレオナルド殿下が悪い。
ちゃんと抗議しておくから……」
「いいよ、大丈夫」
俺は慌てる。
大事にして欲しくないし、
俺が倒れたのは体調不良ではあるが
無理をしたから、とか
そういうのではない。
前世妹の腐った妄想のせいなのだ。
「それより、ヴィー兄様、
仕事は大丈夫?」
俺が心配して聞いたが、
ヴィンセントは軽い口調で言う。
「問題ない」
「そう?」
ならいいけど。
「俺の仕事のことよりも
イクス、医者の見立てでは
かなり体が疲労していると言っていた。
大丈夫か?
何かあるのか?」
なにか、のところで
ヴィンセントはゆっくりと、
声を落として言う。
俺の『力』のことで
神様が無理難題でも言っているとでも
思っているのだろうか。
「うん。まぁ……」
俺は言葉を濁し、
もうちょっとしてから言うね、と
小声ていう。
もう少し自分の『力』のことを
認識してから伝えたい。
自分でもわけがわからないものを
説明できる自信もないし。
「わかった」
ヴィンセントに頭を撫でられていると、
にゃ。とジュが何もない場所から
俺の腹に落ちて来た。
「ジュ、ちゃんと飛んで来たら?
羽があるんだから」
何故、落ちる?
俺の『力』を吸い取ってもらったから
そのせいで上手く飛べないのか?
俺が両手でジュを抱き上げようとすると
何故かヴィンセントが
俺の手を掴んだ。
ジュは俺の腹の上で
抱っこしてもらおうと
待機していたというのに。
「ヴィー兄様?」
「さっきはなんで
この猫にキスしたんだ?」
ヴィンセントは不機嫌そうに
低い声を出す。
「き、キス? してないよ」
いきなり何を言うんだ。
「いや、してた。
こいつに可愛い唇を舐められて、
あれは絶対に舌まで……」
「ちょ、ちょっ!」
俺は焦ってヴィンセントの口を
塞ぐように両手をつき出した。
「あれはキスじゃなくて」
「じゃなくて?」
「ね、ねこ吸い?」
ヴィンセントの鋭い視線が
ジュに向けられる。
ジュは敵意を感じ取ったかのように
俺の腹の上でシャーっと
牙をむいた。
「ちょ、ジュ。
ダメだよ、ヴィー兄様に」
俺はジュを抱き上げる。
「ジュは俺の可愛いジュだから、
可愛くて猫吸いしてもしかたないんだ」
猫じゃないけど。
でも俺の『力』が暴走しそうで
ジュに吸い取ってもらったなんて言うと、
ヴィンセントは心配するかもしれない。
だから俺は飼い猫を可愛がる
バカ飼い主のふりをして
そう言ったのだが、何故か
ヴィンセントの眉間にしわが寄る。
「……そうか。
では俺はイクスが可愛くて、
イクスは俺の可愛いイクスだから
イクス吸いをしても仕方がないんだな」
「ん?」
意味が分からない。
何故そんな真顔で
わけのわからないことを言う?
もしかして俺を心配しすぎて
脳みそが壊れてきたのか!?
俺が心配していると
ヴィンセントの大きな手のひらが
俺の両頬を包んだ。
え?
ゆっくりとヴィンセントの
整った顔が近づいて来る。
焦る俺を離さないと言うように
ヴィンセントは俺の頬を
包んだまま、ゆっくりと唇を重ねた。
にゃー!
ジュが俺の腕の中で
威嚇の鳴き声を出した。
だが俺は何もできなくて。
俺の腕の力が緩み、
ジュが俺の腕から飛び出したが
ヴィンセントの唇は重なったまま……。
一瞬、離れたかと思うと
また重なる。
今度はもっと深く。
唇を舐められて、
驚いて口を開けたら
そこに舌を入れられた。
ビックリして、ヴィンセントの
胸をパンパンと叩いたら
ヴィンセントはようやく
俺を開放する。
「悪い、ちょっと……
我慢できなかった」
なにが?
俺は生理的な涙で
目をうるませてしまう。
何か言おうかと思ったが、
俺はそのままヴィンセントに
抱き込まれた。
「俺だって許されてないのに
あの猫にイクスの舌が
吸われてたから」
いやいや。
あれは医療行為みたいなもんだし。
それにジュは俺のペット枠だ。
何を言ってんだ、って思ったけれど。
床に下りたジュが
ヴィンセントの足元に
何故かネコパンチを繰り返している。
だがそんなジュにも
気が付かない様子で俺を抱き込んでくる
ヴィンセントに何故か俺は
満たされるような気分になる。
満たされる……そう、
俺は嬉しいんだ。
こうやって愛情を示されることに。
だって俺もヴィンセントのことが好きだから。
でも俺は気軽に「好き」は
言わないようにしようと心に誓っていた。
だって毎日毎回言い過ぎていたら
その言葉には重みは無くなるし、
信憑性が薄れるからだ。
だから別の言葉を言おう。
ヴィンセントのことが俺も好きって、
別の言葉で……
俺はヴィンセントの背に腕を回す。
「ヴィー兄様好き」
いや、違う。
何故、俺の口は勝手にそんなことを言う?
違うだろう。
そうじゃない。
「僕ね、ヴィー兄様と
新婚生活が出来て嬉しい」
俺がそう言うと、俺の背に
回した手で器用に髪を撫でていた
ヴィンセントの動きが止まる。
「新婚……?」
「だって、僕とヴィー兄様は
結婚したから、新婚でしょ?」
俺の言葉を聞いて
ヴィンセントは何故か俺から
素早く体を離した。
なぜ目を見開いて驚いているんだ。
「違うの?」
「い、いや、違わない。
違わないんだが……なぜイクスは
新婚という言葉を知っているんだ?」
いや、新婚って言葉ぐらい知ってるだろう。
普通。
俺をどれだけ幼児だと思ってんだよ。
「ヴィー兄様、僕はこれでも
高等部に進学したんだけど?」
「そ、そうだが。
新婚……新婚……」
ヴィンセントが何やらブツブツ言う。
「イクスは新婚がどういう意味か
知ってるのか?
いや、新婚が何をするのか理解しているか?」
は?
新婚って、俺が思ってる新婚とは違うのか?
なんだよ、新婚がすることって。
意味わかんないな。
「わかんない。
何か僕はヴィー兄様に
しないとだめなことってあるの?」
「ない!
無いから、大丈夫だ」
急にヴィンセントが
力いっぱい言う。
なんなんだ、いったい。
「イクスはまだ子どもでいい。
ゆっくりおとなになってくれ」
「う……ん?」
どういうことだ?
よくわからんが返事をすると
ヴィンセントは俺をまた
ベットに寝かせる。
「もうすこし寝てろ。
俺はイクスが目を覚ましたことを伝えてくる」
「うん、ありがとう」
ヴィンセントが部屋を出た瞬間、
ジュがベットに寝た俺の胸の上に
飛び乗ってくる。
「ジュ、なんだったんだろうね」
俺はジュを撫でる。
「でも、まさかジュに嫉妬するなんて。
……あれはそういう意味だよね?」
ジュは、うにゃ、と鳴く。
肯定か否定か微妙な鳴き声だ。
「そうだ。ジュ。
ありがとう。
なんか言いそびれてたけど
ジュのおかげで『力』が暴走せずに
済んだと思う」
俺がそう言うとジュは
今度は嬉しそうに
「にゃぁ」と鳴いた。
280
お気に入りに追加
1,147
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる