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高等部とイケメンハーレム
116:新婚?
しおりを挟むふっと意識が浮上した。
はっと目を開けると
心配そうなヴィンセントの顔が見える。
「イクス?」
声を掛けられ、
俺は、ヴィー兄様、と
呟いた。
俺の声を聞き、
ヴィンセントは安堵したような
顔をして、俺の頭を撫でる。
どうやら俺は気を失うように
眠っていたらしい。
ヴィンセントに手を借りて
ベットの上で体を起こすと
窓から差し込む光は
随分と傾いていた。
ヴィンセントはずっと俺に
ついていてくれたのだろうか。
……騎士団をクビにならないか
本気で心配になる。
まぁ、俺の父や陛下が
許可を出しているのだから
大丈夫だとは思いたいが。
ヴィンセントは俺に
水を飲ませてくれて、
額に手を当てたり、
頬に触れたりして
「熱は下がったか?
しんどくはないか?」と
心配そうに早口で聞く。
「大丈夫。
ごめんね、心配かけて」
「いや。
イクスの体調が悪いのに
離宮まで連れまわした
クルト殿下とレオナルド殿下が悪い。
ちゃんと抗議しておくから……」
「いいよ、大丈夫」
俺は慌てる。
大事にして欲しくないし、
俺が倒れたのは体調不良ではあるが
無理をしたから、とか
そういうのではない。
前世妹の腐った妄想のせいなのだ。
「それより、ヴィー兄様、
仕事は大丈夫?」
俺が心配して聞いたが、
ヴィンセントは軽い口調で言う。
「問題ない」
「そう?」
ならいいけど。
「俺の仕事のことよりも
イクス、医者の見立てでは
かなり体が疲労していると言っていた。
大丈夫か?
何かあるのか?」
なにか、のところで
ヴィンセントはゆっくりと、
声を落として言う。
俺の『力』のことで
神様が無理難題でも言っているとでも
思っているのだろうか。
「うん。まぁ……」
俺は言葉を濁し、
もうちょっとしてから言うね、と
小声ていう。
もう少し自分の『力』のことを
認識してから伝えたい。
自分でもわけがわからないものを
説明できる自信もないし。
「わかった」
ヴィンセントに頭を撫でられていると、
にゃ。とジュが何もない場所から
俺の腹に落ちて来た。
「ジュ、ちゃんと飛んで来たら?
羽があるんだから」
何故、落ちる?
俺の『力』を吸い取ってもらったから
そのせいで上手く飛べないのか?
俺が両手でジュを抱き上げようとすると
何故かヴィンセントが
俺の手を掴んだ。
ジュは俺の腹の上で
抱っこしてもらおうと
待機していたというのに。
「ヴィー兄様?」
「さっきはなんで
この猫にキスしたんだ?」
ヴィンセントは不機嫌そうに
低い声を出す。
「き、キス? してないよ」
いきなり何を言うんだ。
「いや、してた。
こいつに可愛い唇を舐められて、
あれは絶対に舌まで……」
「ちょ、ちょっ!」
俺は焦ってヴィンセントの口を
塞ぐように両手をつき出した。
「あれはキスじゃなくて」
「じゃなくて?」
「ね、ねこ吸い?」
ヴィンセントの鋭い視線が
ジュに向けられる。
ジュは敵意を感じ取ったかのように
俺の腹の上でシャーっと
牙をむいた。
「ちょ、ジュ。
ダメだよ、ヴィー兄様に」
俺はジュを抱き上げる。
「ジュは俺の可愛いジュだから、
可愛くて猫吸いしてもしかたないんだ」
猫じゃないけど。
でも俺の『力』が暴走しそうで
ジュに吸い取ってもらったなんて言うと、
ヴィンセントは心配するかもしれない。
だから俺は飼い猫を可愛がる
バカ飼い主のふりをして
そう言ったのだが、何故か
ヴィンセントの眉間にしわが寄る。
「……そうか。
では俺はイクスが可愛くて、
イクスは俺の可愛いイクスだから
イクス吸いをしても仕方がないんだな」
「ん?」
意味が分からない。
何故そんな真顔で
わけのわからないことを言う?
もしかして俺を心配しすぎて
脳みそが壊れてきたのか!?
俺が心配していると
ヴィンセントの大きな手のひらが
俺の両頬を包んだ。
え?
ゆっくりとヴィンセントの
整った顔が近づいて来る。
焦る俺を離さないと言うように
ヴィンセントは俺の頬を
包んだまま、ゆっくりと唇を重ねた。
にゃー!
ジュが俺の腕の中で
威嚇の鳴き声を出した。
だが俺は何もできなくて。
俺の腕の力が緩み、
ジュが俺の腕から飛び出したが
ヴィンセントの唇は重なったまま……。
一瞬、離れたかと思うと
また重なる。
今度はもっと深く。
唇を舐められて、
驚いて口を開けたら
そこに舌を入れられた。
ビックリして、ヴィンセントの
胸をパンパンと叩いたら
ヴィンセントはようやく
俺を開放する。
「悪い、ちょっと……
我慢できなかった」
なにが?
俺は生理的な涙で
目をうるませてしまう。
何か言おうかと思ったが、
俺はそのままヴィンセントに
抱き込まれた。
「俺だって許されてないのに
あの猫にイクスの舌が
吸われてたから」
いやいや。
あれは医療行為みたいなもんだし。
それにジュは俺のペット枠だ。
何を言ってんだ、って思ったけれど。
床に下りたジュが
ヴィンセントの足元に
何故かネコパンチを繰り返している。
だがそんなジュにも
気が付かない様子で俺を抱き込んでくる
ヴィンセントに何故か俺は
満たされるような気分になる。
満たされる……そう、
俺は嬉しいんだ。
こうやって愛情を示されることに。
だって俺もヴィンセントのことが好きだから。
でも俺は気軽に「好き」は
言わないようにしようと心に誓っていた。
だって毎日毎回言い過ぎていたら
その言葉には重みは無くなるし、
信憑性が薄れるからだ。
だから別の言葉を言おう。
ヴィンセントのことが俺も好きって、
別の言葉で……
俺はヴィンセントの背に腕を回す。
「ヴィー兄様好き」
いや、違う。
何故、俺の口は勝手にそんなことを言う?
違うだろう。
そうじゃない。
「僕ね、ヴィー兄様と
新婚生活が出来て嬉しい」
俺がそう言うと、俺の背に
回した手で器用に髪を撫でていた
ヴィンセントの動きが止まる。
「新婚……?」
「だって、僕とヴィー兄様は
結婚したから、新婚でしょ?」
俺の言葉を聞いて
ヴィンセントは何故か俺から
素早く体を離した。
なぜ目を見開いて驚いているんだ。
「違うの?」
「い、いや、違わない。
違わないんだが……なぜイクスは
新婚という言葉を知っているんだ?」
いや、新婚って言葉ぐらい知ってるだろう。
普通。
俺をどれだけ幼児だと思ってんだよ。
「ヴィー兄様、僕はこれでも
高等部に進学したんだけど?」
「そ、そうだが。
新婚……新婚……」
ヴィンセントが何やらブツブツ言う。
「イクスは新婚がどういう意味か
知ってるのか?
いや、新婚が何をするのか理解しているか?」
は?
新婚って、俺が思ってる新婚とは違うのか?
なんだよ、新婚がすることって。
意味わかんないな。
「わかんない。
何か僕はヴィー兄様に
しないとだめなことってあるの?」
「ない!
無いから、大丈夫だ」
急にヴィンセントが
力いっぱい言う。
なんなんだ、いったい。
「イクスはまだ子どもでいい。
ゆっくりおとなになってくれ」
「う……ん?」
どういうことだ?
よくわからんが返事をすると
ヴィンセントは俺をまた
ベットに寝かせる。
「もうすこし寝てろ。
俺はイクスが目を覚ましたことを伝えてくる」
「うん、ありがとう」
ヴィンセントが部屋を出た瞬間、
ジュがベットに寝た俺の胸の上に
飛び乗ってくる。
「ジュ、なんだったんだろうね」
俺はジュを撫でる。
「でも、まさかジュに嫉妬するなんて。
……あれはそういう意味だよね?」
ジュは、うにゃ、と鳴く。
肯定か否定か微妙な鳴き声だ。
「そうだ。ジュ。
ありがとう。
なんか言いそびれてたけど
ジュのおかげで『力』が暴走せずに
済んだと思う」
俺がそう言うとジュは
今度は嬉しそうに
「にゃぁ」と鳴いた。
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