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高等部とイケメンハーレム
109:離宮へ
しおりを挟むクルトに了承の意を伝えると
クルトは俺の手を握って
何度も、ありがとう、という。
そして俺の手を握っていることに
気が付いた様子で、
パッと手を離すと、
「ごめん」と小さな声で言う。
急に意識されたみたいで
俺も反応に困る。
「できたら今すぐ、と言いたいのだが。
授業をサボることになってもいいか?」
俺は頷いた。
昼休みだの放課後だの
人が多くいる時に移動するのは
目立ちすぎる。
それに今から行けば
昼休みには戻って来れるかもしれないし。
「あ。アキレスには……」
「王家の者が説明に行くから
大丈夫だ。
すぐに出れるか?」
俺はハンカチ一枚すら持ってないのだが、
まぁ、いいか。
俺が頷くとクルトはすぐに立ち上がる。
どうやら王家の紋が
入っていない質素な馬車を
すでに準備していたらしく
俺たちはこっそりと裏門から
学校を後にした。
授業をサボったことも
アキレスを置いて行ったことも
全部、なんとかするから大丈夫だ、
というクルトの言葉を
俺は信じることにする。
そうじゃないと
黙って学校を抜け出したなど
ヴィンセントにバレたら
叱られる。
なにせ、めちゃくちゃ
過保護で心配性だからな。
今では実の兄よりも
ヴィンセントの方が心配性なぐらいだ。
馬車は離宮へと直接向かったようで
俺たちは離宮の裏口から
馬車ごと中に入った。
実は俺、離宮は初めてだ。
どんなところかと思っていたが
王宮よりはこじんまりと
しているものの
それでもかなりデカイ。
さすが「宮」と付くぐらいある。
王宮は荘厳なイメージがあるが
離宮はそれよりも
モダンな感じがした。
離宮内に足を踏み入れても、
壁紙や調度品などは
王宮の物よりも動きがあるデザインが多い。
前世で言えば、アールヌーボーとか
そういう感じだろうか。
俺とクルトが離宮に着くと
すぐにいつもレオナルドの
そばについている侍従が俺たちを
迎え出てくれて、レオナルドの
様子を伝えてくれる。
が、どうもよくわからない。
とにかくレオナルドは
部屋に閉じこもって出てこないこと。
時折、泣いているのか
わめいているのか、とにかく
大きな声を出していること。
食事をあまり、
取っていないことだけはわかった。
それ以外の情報は、
侍従の心配だとか、
この国の王家に迷惑をかけてるとか
そういう心情の話だったと思う。
あまりにも長々と語られたので
途中で聞くのを放棄したくなった。
俺、要領を得ない会話って苦手なんだよな。
レオナルドの部屋の前に着くと
部屋の前には隣国の護衛が立っていて
俺とクルトに頭を下げる。
少し離れたところで
侍女たちが不安そうにしているので
レオナルドはあんな感じでも
自国の者には慕われているらしい。
みんなレオナルドに
振り回されているだろうに、
許しちゃうんだろうな。
まぁ、わからんでもない。
何をやっても、
あっけらかんとして笑う
レオナルドを見ていると
怒る気も無くなるのだろう。
俺はそれでも叱ってやるけどな。
護衛がドアのそばから移動すると
クルトがドアを叩く。
「レオナルド殿下!
イクスを連れて来たぞ」
その声に、室内で
ガタガタと大きな音がした。
だが、扉は開きそうにない。
さて、どうしたものか。
「あの、この扉、
鍵は閉まってるんですか?」
俺が振り返って侍従に聞くと、
侍従は頷く。
なるほど。
そうなると強行突破しかないけど、
離宮の扉を壊したら
怒られるだろうな。
「クルト、合鍵はないの?」
「残念ながら」
クルトが肩をすくめる。
「じゃあ、壊す?」
「おい」
クルトがすぐに、
咎めるように言う。
咄嗟に口から出たのだろう。
クルトが慌てた顔をした。
俺はそんなクルトを見て、
お互いに、ぷっと吹き出した。
幼い頃、体力がない割には
やんちゃをしていた俺のそばで
よくクルトはこうして
俺を諫めたり、一緒に
やんちゃして怒られたりしていた。
それを思い出したのだ。
クルトも同じだと思う。
懐かしい思い出に
つい笑ってしまったのだが、
おかげでクルトとの間にあった
小さな壁というか、
遠慮みたいなのが消えた気がする。
「じゃあ、どうする?
隣の窓から移動する?」
俺がわざと無理そうなことを言うと
クルトが、イクスには無理だって、
と揶揄うように笑う。
久しぶりの感覚に嬉しくなったが
それをじっくり味わっている場合でもない。
「それじゃぁ、仕方ないか」
俺はドアを見た。
レオナルドは俺に
意地悪されたって主張しているらしいが、
本心では無いと思う。
きっとそう言えば俺が
ここに来ると思って
そんなことを言ったはずだ。
だからきっと、
このドアの近くで俺たちの
話し声を聞いているに違いない。
「あーあ、残念。
せっかく来たのになー。
でもせっかく離宮にきたし、
レオに会えなくてもいいや。
クルトと一緒に
美味しいお茶と菓子を
食べさせてもらおうかな。
だって僕、離宮は初めてだもん。
色々探検してみたいよね」
わざと大声で言うと
またガタガタと中で音がする。
「せっかく授業をサボって
レオに会いに来たのになぁ。
友だちだと思ってたのは
僕だけだったのか。
悲しいけど、僕と王子様とでは
身分が違うもんね。
それにずっとレオのことを
叱ってた僕のことを
もう嫌いだって思うのも
仕方ないよ。
これからは僕も身分をわきまえて
レオナルド殿下って呼ぶね」
俺がチラチラとクルトを見ていると
クルトも話に乗って来た。
「そうか、残念だ。
レオナルド殿下もイクスに
言いたいことがあるのではないかと
思って連れて来たのだが。
イクスのことを嫌っているのでは
仕方が無いな。
単なる友人同士の喧嘩だと
思っていたけど、違ったんだな」
クルトもわざとドアの中に
聞こえるように言う。
「じゃあ、イクス。
俺がエスコートしてやるよ。
ランチを用意させてもいい。
久しぶりに二人っきりで食べるか?」
クルトがそう言った時、
バン!と勢いよくドアが開いた。
「ダメだ!
二人っきりは、絶対!」
中から、服もヨレヨレ、
髪もボサボサのレオナルドが
転がるように出てくる。
俺は思わず呆れた。
「レオ、いくら外に出る気が
無かったと言っても、
一日中、寝間着で過ごすのは
良くないと思うよ」
俺の指摘にレオナルドは
顔を真っ赤にする。
「ほら。部屋に入って」
俺はレオナルドの背中を押し、
無理矢理部屋に入り込む。
室内はカーテンが閉まっていて
薄暗い。
「こんな部屋に居たら
気分も滅入るでしょ」
俺は一緒に入って来た侍従に
カーテンを開けるように言い
お茶の準備を頼む。
「それと、着替えよう。
レオ、着替えはどこ?」
「ここに」とさっと侍従が
レオナルドの服を出す。
「さぁ、脱いで」
「え? 脱ぐ? え? 今?」
「当たり前でしょ、着替えるんだから」
「いや、でも」
「いいから、早く!」
と俺がレオナルドのシャツを引っ張ると、
クルトがその手を掴んだ。
「イクス。
ちょっとかわいそうだから
やめてやれ」
可哀そう?
王族だから人前で着替えたらダメとか?
「レオナルド殿下の着替えを
バスルームで」
クルトは俺の手を取ったまま、
侍従にそう言う。
すると先ほど俺に服を
差し出していた侍従は
すぐに頭を下げて、おそらく
この部屋に隣接しているだろう
バスルームに姿を消した。
その後に続くように
別の侍従がレオナルドの背を
支えるようにバスルームへと
誘導していく。
「待っている間に
俺たちはお茶でも飲むか」
クルトはそう言い、
部屋にあったソファーに座る。
俺もつられて隣に座って、
侍従が淹れてくれたお茶を飲むことにする。
レオナルドが戻ったら、
俺にいじめられた件ってのを
じっくり聞かなきゃだな。
「イクス」
「うん?」
「おまえ、子どもの頃、
一緒に悪戯してたときと
同じ顔してるぞ」
え?
本気で?
「相手は隣国の王族なんだから
手加減しろよ」
ってクルト。
俺を何だと思ってるわけ?
俺が唇を尖らせると、
クルトは明るい顔で声を出して笑った。
うん。
昔と同じ笑顔だ。
やっと見れた……良かった。
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