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高等部とイケメンハーレム
100:前世と今と
しおりを挟む俺の妹は、バカだが、
頭が悪いわけではない。
ただ自分の欲望に忠実なのだ。
俺はヴィンセントに口止めをしてから
この世界の妹たちの腐った妄想が
今の俺たちの世界の魔力を
支えていることを話した。
妹には俺が死んでから
腐った妄想を魔力に変換している
世界にイクスとして転生したこと。
そしていまだに、
妹の暴走妄想が俺の魔力を上げ
妙なチート能力が付与されていることなど
すべてを伝える。
ヴィンセントは最初は
信じられないと言う顔をしていたが
前世妹は「私のイクス様愛が世界を救うのね」
と大はしゃぎだった。
いや、俺の話を聞いていたか?
「お前の妙な妄想のおかげで
俺は迷惑している。
何が総受で、イケメンハーレムだ?
とにかくそれはヤメロ。
迷惑でしかない」
「で、でも、だって。
私はイクス様がイケメンに愛されて
その愛に溺れる姿が見たいんだもん」
ってお前、俺が兄だということを
忘れているだろう。
「兄の俺がイケメンハーレムで
総受けになっても構わないというのか?」
「だって、中身はお兄ちゃんでも
外はイクス様だものー。
関係ないし、お兄ちゃんは
もともと、ずっと受けっぽかったじゃん!」
なんだそれは。
そんなのは初耳だぞ。
「お兄ちゃんは気づいてなかったかもだけど。
本屋の眼鏡をかけた店員さんも、
いつも寄るコンビニの店長さんも、
いーっつもお兄ちゃんのこと
見てたし、狙ってたじゃん。
お釣りを渡す時は、
わざわざ両手でお兄ちゃんの手を
握って小銭を渡したりして」
え?
あれは丁寧な対応をしてくれただけだろう?
「私なんて、お釣りはいつも
トレーの上に置かれてたんだから」
もう、もう!とバカ可愛い妹がわめく。
「すまない。
あまり状況が掴めないのだが」
俺の下にいるヴィンセントが
躊躇いがちに声を出す。
バカ妹はヴィンセントの前で正座をしているが
俺はヴィンセントの膝に座っている。
何故ならば、椅子が無いからだ。
「その、ここがイクスの
前世の世界で貴女がイクスの妹だと
言うことは理解した。
そしてイクスが前世から
多くの者を魅了してきたということも」
いや、その理解はオカシイ。
オカシイが否定していたら
時間がもったいないから
俺はそれをスルーすることにした。
「それで、その別の世界の貴女が
何故イクスのことを知り、
俺や俺の友人たちの絵姿を持っているのだ?」
ポスターのことだな。
はしょって、はしょって伝えたから
ヴィンセントはスマホゲームの話や
神様の話がよくわからなかったに違いない。
だが、それを説明している時間はない。
「だって私、イクス様の愛の伝道者なのです」
って、バカタレが!
俺がまた持っていた小冊子を
くるんと丸めたのが見えたのだろう。
バカ妹は、興奮して立ち上がりかけた腰を
下ろしてまた正座に戻る。
「いいか。
バカ可愛い妹よ。
おまえもあの青年と結婚するんだろう?
いつまでも、イクスがどうとか
言ってないで、あの青年と
仲良くやれよ」
「なに言ってんの?
リアルと二次元の愛は別よ!」
だめだ。
ため息しか出ない。
しかたがない。
妹の前でこれだけはしたくなかったが
ジュの耳がぴくぴくしているし
時間がない。
「いいか、聞け。
俺はハーレムも総受けも必要ない。
何故なら、ヴィンセントと婚約したからだ」
俺はそう言い、
強引にヴィンセントの頬に
手を添えてそのままキスをした。
「きゃーっ!」と妹が歓喜の
声をあげて立ち上がる。
が。
足がしびれていたのだろう。
がく、と膝をつく。
大丈夫か?と俺も
ヴィンセントの膝から下りたが、
バカ妹はぷるぷると震えて
涙を落としていた。
ほんとに大丈夫か?
「そっか。そっか。
お兄ちゃん、ちゃんと恋愛して
好きな人に愛されてるんだ」
妹は顔を上げ、わーん、と
大きな声で泣いた。
「おい、なんだよ」
「だって、だって。
お兄ちゃんは、いつも私のこと
ばっかりだったから。
私のためにって働いて。
私のことばかり心配して。
自分だって好きな人を見つけて
その人と結婚だってできたのに。
私がいたから、お兄ちゃんは
恋人も作らずに、
私のために……」
泣きながら妹は言うが、
恋人は作らなかったのではなく、
できなかったんだ。
だが俺の名誉のために
それを言うのは止めておくか。
泣きながら言う妹の話を要約すると、
妹のイクスを推す想い本物だが、
総受けハーレムに傾倒したのは
どうやら俺のせいらしい。
元々妹はイクスが大好きだった。
毎朝毎晩、出かける前と寝る前に
イクスが表紙の
ファンブックを拝んでいたぐらいだ。
イクス愛をさく裂させ
同じ趣味の友人たちと
ファンブックという名の
薄い本を作り、即売会や
ネットで販売したりしていたことも
俺は知っていたが、
思い返せば、その時の妹は
それでもイクスのイケメンハーレム
とはさほど言ってなかったと思う。
そんな妹が変わったのは
俺が死んだ時からだ。
たった二人の家族だった
兄がいなくなったのだ。
寂しさからますます
推し活に力が入ったらしい。
イクスと兄を重ねて
見ていることは妹も理解していて
自分が描くイクスが幸せだと
死後の世界の俺もきっと
幸せだろうと思うようになったのだ。
そして推し活に励んでいた最中に
俺はあの青年にイクスの姿で
会ってしまった。
そこで妹は思ったらしい。
俺がイクスであるのなら
自分に恋人ができて
嬉しかったように、
イクスにも愛する者がいて
愛される幸せを感じて欲しいと。
十分なおせっかいだとは思うが
それで終われば美談で済んだ。
だが妹はその願いを
自分の妄想としてかなり暴走させた。
どうせ愛されるのなら
イケメンに愛された方が
ぜったいにイクス様は嬉しい筈。
イクス様は誰からも愛される
尊い存在だから、
ハーレムで総受になっても
誰もが喜ぶし、イクス様も
きっと沢山の人たちに愛されて
幸せになる筈。
だから私はイクス様総受けの
布教活動をするわ!
と、イクスの総受本を作ったり
手当たり次第に、色んな攻略対象との
恋愛を描いた薄い本を出したり。
とにかく精力的に活動して
信者を増やしていたらしい。
……なんてことしてくれるんだっ。
そして、俺が気になった
レオナルドとアキレスだが
二人とも、つい最近出たPCゲームに
出て来た新しい攻略対象らしい。
今まではスマホのパズルゲームでしか
なかったのだが、
豊富なシナリオで人気が出たおかげて
アニメ化が決まり、
そのうえで追加パッケージを加えた
PC版のゲームが発売されたらしい。
そしてPC版は、課金をしなくても
パズルを解かなくても、
マルチエンディングでプレイヤーが
好きな攻略対象たちとイクスとの
恋愛話が読めるRPG型のゲームになったそうだ。
しかも、アニメ版の主人公はイクスで
公式の恋愛相手はカミルらしい。
はぁ?って思うが、幼馴染の王子様ってので
人気がでたんだとか。
「あ、でもね。
私の推しはイクス様でも
私の中イチオシカップルの相手は
ヴィンセント様だよ!」
満面の笑みでバカ妹が正座をしたまま言うので、
俺は何と言っていい分からず、
持っていた小冊子をまた
ぐるぐると力いっぱい丸めてしまった。
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