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高等部とイケメンハーレム
93:新しい護衛
しおりを挟む俺のデビュタントの日の後から
高等部の入学式までは
あっという間だった。
ヴィンセントと想いを伝えあって、
正式に婚約をして。
王宮の夜会で、陛下の前で
婚約のお披露目もした。
たぶんだけれど、
ヴィンセントを狙っていたであろう
貴族の女子たちから
するどい視線を向けられたけれど、
さすがに公爵家の俺に
文句を言う者はいなかった。
権力ってすごいと思う。
それから夜会にも何度か出た。
両親もヴィンセントも
俺の体調を気にして
そんなに社交界に出る必要はないと
言ってくれたけれど、
できることはしたいとは思う。
あと、兄の婚約者にも会った。
隣国の王女様だったけれど、
優しくて、ふわふわした感じの
まさにお姫様だった。
深い緑の、絹みたいな
細く美しい髪をしていて
瞳は僕たちの瞳の碧よりも
もっと濃い青い色をしていた。
肌も白くて美しく、
隣国はこの国より
寒い国だと聞いて、
真っ白い肌に濃い色の
髪や瞳に、なるほど、と
思ってしまった。
前世の記憶からか、
寒い国の人の肌は白いって
イメージが強いからな。
年齢は俺よりも1つ
年下と言うことだったが、
顔立ちは可愛いと言うより
美人で、俺よりも年上に見える。
ただ、顔立ちも綺麗で
所作も美しかったけれど、
言葉とかが、どこかお姫様らしく
ふわふわしていて、
微笑ましいと言うか可愛らしい。
世間慣れしていないと言えばいいのだろうか。
きっと兄は、そういった
ギャップのある可愛いもの好きなのだと思う。
だって、俺を見て
「美人なのに可愛いって
イクスみたいだろう?」って笑ったから。
いや、婚約者の前でその発言は
ないだろう、というか、
男の俺とそっくりだなんて
王女様に失礼過ぎる!
と思ったが、王女様は
コロコロ笑って言ったのだ。
「まぁ、嬉しいわ。
私を可愛いと言ってくださるのは
レックス様だけですもの。
イクス様も、私と同じであまり
可愛いと評されることは無いと思いますけど。
同じ残念美人として
仲良くしてくださると嬉しいわ」
どう見ても王女様は残念美人ではない。
俺は中身が俺なので、
残念美人なのは認めるが、
王女様は違うだろう、と兄を見ると
兄も、そうだろう、と頷いた。
「彼女はイクスと同じで
自分が可愛いってことをなかなか
認めてくれないんだよ。
自分の魅力がわからないのは
とても残念な美人だけど。
彼女の魅力を理解するのは
私だけで十分だからね」
なんと。
残念美人は、誉め言葉だった!
俺は何と言っていいかわからず
曖昧に笑って見せたが、
そんな俺のことなど気にせずに
兄は王女様といちゃいちゃする。
なるほど。
これが社交界でバカップルと
言われているゆえんか。
と、新たな人間関係も
築くことができたが
それ以外は俺は何も変わっていない。
ヴィンセントと婚約したと言っても、
本来はずっと昔に、家同士では
話し合いも終わっていたことだし、
公式に披露していなかっただけで
ヴィンセントはずっと俺の
婚約者だった……らしいのだ。
そして俺とヴィンセントの距離感も
何も変わることなど無い。
だって、そもそもの関係が
何も変わっていないのだから
変わりようがないのだ。
ただ、たまにヴィンセントが
甘い空気で俺の髪に触れたり、
俺がいつもみたいに甘えて
抱きつきに行ったら、
「無防備なのはそろそろやめろよ」
なんて耳元で囁かれたり
するようになった。
それは気恥ずかしくなるけど
でも、ヴィンセントが俺のことを
好きってことだから、
嫌ではない。
そうやって順調に俺は
デビュタントと婚約披露を終え、
ようやく高等部に入学した。
とうとう、あのパズルゲームの世界が始まる。
ただし、もうストーリーは
破綻している。
主人公の俺はヴィンセントと
婚約をしているし、誰かと恋に
落ちることはない。
もちろん、
イケメンハーレムも却下だし
前世妹が燃えていた
【総受け】だけは絶対にご遠慮したい。
もう俺が知っているゲームのシナリオが
発動されることはおそらくないだろう。
クルトやイクスとの恋愛もないし、
ヴィンセントの近くにいる
エリオットやリカルドとも
恋愛シナリオは絶対に発動しないだろう。
やれやれだ。
高等部は入学式っぽいものもあったが、
正直、同じメンバーばかりだったので
感動も何もない。
今日は初登校だが
おそらくクラスもメンバーも
全員同じだろう。
なんたってクラスは学力順だ。
そうそう顔ぶれが変わるとは思えない。
学校が始まると
ヴィンセントと一緒に居る時間も
減ってしまう。
学校が長期休みの間は
ヴィンセントが休みの日は
ずっと一緒にいることができたが
学校が始まったらそう言うわけにはいかない。
騎士であるヴィンセントの休みの日が
学校が休みの日と同じなわけがないし。
そう思うと少し寂しいが、
だが中身は大人な俺は
駄々をこねるような真似はしない。
というか、むしろ、今までが
異常なほどにヴィンセントに
べったりだったのだ。
これを機に、ヴィンセントから
離れて適度な距離になろう。
そして兄弟っぽい関係から
卒業して、ラブラブな恋人……
みたいな関係に成長するのだ。
と、自分でも気合を入れて
制服を着て、鏡を見たら
真赤な顔の自分がいて
恥ずかしくなる。
何がラブラブの恋人だ?
俺、浮かれすぎてないか?
落ち着け、俺。
「イクス様、馬車の準備が整いました」
俺が制服を着ていると
リタが部屋の扉をノックする。
「ありがとう、すぐに行くよ」
今まで着替えはリタの手を
借りていたけれど、
もう俺は高等部に入ったから
1人で着替えられると
リタの手からも卒業した。
リタは寂しそうだったが、
俺も成長するのだ。
馬車には護衛と一緒に乗る。
ヴィンセントとの婚約を発表したので
嫌がらせがあるかもしれないと
父が心配をしたからだ。
今までは馬車の外の護衛だけだったが
これからはヴィンセントがいない日は、
馬車内にも護衛を置くと言う。
大げさだとは思うが、
これも必要なことなのだろう。
護衛はハーディマン侯爵家から
来てくれた青年で、
ヴィンセントも信頼を置いていると言う。
将来俺はハーディマン侯爵家に
嫁ぐことになるから
慣れておくためにも
今からハーディマン侯爵家の護衛を
そばに置いて欲しいと
ヴィンセントからも言われていた。
「イクス様。
今日からよろしくお願い致しますします」
馬車の前に行くと、
剣を持った青年が俺に騎士の礼をした。
「ありがとう。
名前は……アキレス、だったよね?」
「はい、名を覚えて下さり光栄です」
うん、名前を聞いて
足が早そうだな、って思ったんだ。
いや、アキレスは神様の子どもで
無敵だったんだっけ。
前世の神話の話なので
曖昧だが、とにかく覚えやすい名前だ。
アキレスは濃い青の髪をしていて
短髪だったが前髪だけは長いのだろう。
前髪は後ろへと流していて
端正な顔立ちだと思う。
……まさか新たな攻略対象じゃないよな?
嫌な考えが浮かんだが、
まさかね、とその考えを振り払う。
そんな相手をヴィンセントが
俺の護衛として紹介するわけがない。
気のせい、気のせい。
俺はそう自分に言い聞かせて
アキレスと一緒に
馬車に乗り込んだ。
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