【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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高等部とイケメンハーレム

86:子どもと忍耐・2【ヴィンセントSIDE】

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 殿下たちと別れて
俺はイクスを連れて馬車に向かった。

これ以上、イクスを好奇の目に
晒されたくはなかったし、
イクスの顔色はかなり悪い。

イクスの腰を掴んで
早足で歩いたが、
正直、イクスは歩いていると言うより
俺に体重を預けた状態で、

足はかろうじて床に着いていたが
俺に抱っこされて
移動したようなものだ。

なんたって、足がやや浮いていたからな。

というか、正直、
抱き上げて移動したかった。

人混みの中、
さすがに目立つと思って
やめておいたが、
馬車まで来ると、俺までも
ほっとしてしまう。

馬車はすぐに出発できるように
準備されていたので、
俺たちはすぐに馬車に乗り込む。

顔色が悪かったイクスだが、
馬車の椅子に座ると
身体の力を抜き、大きな息を吐いた。

緊張していたのだろう。
少し頬に赤味が戻って来た。

その様子に俺は安心する。

このまま公爵家に送り届けたら
俺はもう一度夜会に戻ろうか。

じつは公爵殿には会えていない。

顔見知りの侍従に伝言を頼んだので
伝わっていないとは思わないが、
イクスは心配ないと
伝えた方が良いだろう。

もちろん、伝言を侍従に頼んでも
構わないのだが、
実際に俺が言った方が
公爵殿も安心するだろうし……

などと考えていたら
急にイクスが俺を呼んだ。

「ヴィー兄様」

俺の手を掴んでいたイクスが
ぎゅうっと俺の手を握る。

「なんだ?」

顔色は良くはなってきたが、
不安そうな瞳に、
俺はイクスの顔を覗き込む。

やはり夜会に戻るのは無理か。

イクスの様子を見守って
それ以降のことはそれから考えるか。

時間によっては夜会に戻ってもいいし、
家に帰っても良いだろう。

そう思っていたのに。

「今日は、一緒に寝よ?
公爵家に泊まってって」

その言葉に、一瞬、動揺した。

このままイクスのそばに
朝までいても良いのか?

いや、違う。
そうではない。

俺はこの言葉の意味を
正確に理解している。

こう言った言葉を俺は
幾度となく言われていた。

そう、そうれこそ、
イクスが夜は怖いと言って
俺から離れなかった幼少期から。

幼いイクスとレックスと
良く遊んでいた頃から
イクスは俺に懐いていた。

レックスはイクスを可愛がっていたが
やはり本当の家族と俺とでは
関わり方に差がでたのだろう。

レックスが勉強や剣の稽古で
忙しい時は、いつもイクスは
俺に泣きつきに来た。

レックスは意地悪をしているのでは
無いと伝えるものの、
イクスにとっては、本当の兄よりも
いつでも相手をしてくれる俺の方が
遊び相手としては良かったのだと思う。

ハーディマン侯爵家としては
格上のパットレイ公爵の意向を汲み、
できるだけ公爵殿の溺愛する息子を
傷つけないように、
邪険にしないように
動いていただけだったが、
それが功を奏したのだろう。

イクスは誰よりも俺に懐き、
頼るようになった。

それこそ、公爵殿が呆れるぐらいに。

だからこそ、俺とイクスの婚約が
王家の件があったとしても
すぐに決まったのだろう。

公爵殿に認められていることは嬉しい。

イクスが俺を頼るのも、嬉しい。

だが、純粋に甘えてくるイクスを
見ていると、少し苦い気持ちにもなる。

俺はいつまでイクスの【兄】で
いなければならないのか。

沸き起こる苦い思いを俺は押さえ込み、
俺はイクスの髪を撫でた。

「俺に何か言いたいことでもあるのか?」

イクスが甘える時は
何かあるときだ。

だから殿下たちのことで
何か俺に相談したいことでも
あるのかと思ったが、
イクスは首を振る。

だが。

「ヴィー兄様に甘えたい気分」

そういって笑うイクスが、
物凄く儚げで、俺は思わず
イクスの肩を抱き寄せた。

「今のレックスは兄としては
役立たずだろうからな。
俺が代わりにそばに居てやる」

わざとからかう様に言うと、
イクスも少し笑った。

今のレックスは、
王女との恋に盲目で、
いや、まっすぐで。

イクスにまで
手がまわらないことは
容易に想像ができる。

俺がいない時はきっと
レックスに甘えていたのだろうが、
そのレックスが役立たずの今、
イクスにとっての俺は、
かなり大事な存在になっているとは思う。

そんなことで喜ぶ自分もどうかと思うが、
イクスに必要とされているのが
嬉しいのだから仕方が無い。

そんなことを考えていたら
イクスが突然、俺の膝に
顔をうずめた。

「イクス?」

驚いた。

しかもイクスは俺の膝に
顔をうずめたまま
深呼吸をしたのだ。

汗臭いかもしれないし、
なにより……

イクスの吐息が、
温かい息が、布越しに
俺の膝に伝わってくる。

ヤバイ、と思った。

位置的に俺の股間に
イクスの息がかかる。

見ようによっては
俺の股間に顔をうずめるイクスに
背徳感にも似た感情が沸き起こる。

ダメだ。
イクスを見たら勃ってしまう。

俺はわざとイクスから顔を反らし、
ひたすらイクスの髪を撫でる。

だが俺の行動さえも
イクスは理解してないようで
甘えた声でイクスは言う。

「ヴィー兄様は安心する」

「そうか」

声を出すのも、もどかしい。

「体、大きいし」

「まぁな」

せめて、顔をあげてくれないだろうか。
イクスが声を出す度に、
あまい息が股間を刺激する。

「頼りになるし」

「そうか」

俺は今、冷静な声を出すことができているだろうか。

「僕のこと、いつも見ててくれる」

「当たり前だ」

それだけは胸を張って言える。

たとえ、今すぐイクスを抱きしめたいとか、
もっと深い関係になりたいとか。

イクスには知られてはならない
不埒なことを俺が考えていたとしても。

イクスはどこまでも俺をあおってくる。

ぐいぐりと顔を俺の股間に
……いや違う。

俺の膝に顔をすりよせてきて、
俺の腰に腕を回してくる。

いいのだ。
俺が我慢すればいいだけのことだ、

とにかく俺は冷静に……。

そう、なんとか冷静になって
せめて公爵家にたどり着くまでは我慢だ。

公爵家まで行けば、
あとはなんとかなる。

そう思っていたのに。
公爵家に着いたら着いたで
またひと悶着あった。




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