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高等部とイケメンハーレム
85:子どもと忍耐・1【ヴィンセントSIDE】
しおりを挟むイクスのデビュタントの準備は完璧だった。
俺はイクスの母上である公爵夫人と一緒に
イクスの衣装から髪型、アクセサリーまで
すべて俺たちで考えた。
イクスには俺の髪と同じ色を
身に付けて貰ったが、
ふんわりとした布を使って
見ようによってはドレスにも
見えるようなデザインにした。
その方がイクスの美しい顔立ちが
映えると思ったし、
公爵夫人も大喜びで
様々なドレスっぽい衣装を
ついでとばかりに注文していた。
公爵夫人曰く、
「イクスが女の子だったら、って
ずっと思っていたのよ」らしい。
もちろん、イクスの服は、
自分の衣装とも合わせている。
俺とイクスの婚約は、
公言はしていないが、
俺たちの衣装を見れば
俺たちが婚約していることは
一目瞭然になる筈だ。
これでイクスに見惚れる奴らを
牽制することができる。
あと、王家の王子たちも
まだイクスのことを諦めて
いないようなので、
釘をさす必要もあるだろう。
イクスに王家から
婚約の申し込みが来た時は
公爵殿が呆れた顔で俺に伝えてくれたが
きっと、クルト殿下が
イクスのことを諦めきれないのだろう。
だが王家だろうとなんだろうと
俺はもうイクスと婚約しているし、
手放すつもりもない。
だいたいここまで来るのに
俺がどれほど苦労したと思っている?
それはヘルマン辺境伯領のことだけでない。
普段から、可愛い顔をして
俺に抱きつき、
腕を絡めてくるイクスに
俺は常に『兄』の顔をし続けているのだ。
この苦労を経験もせずに、
求婚など、100万年早い。
王子たちにも、
俺とイクスの間には
割って入ることはできないのだと
デビュタントでは知らしめる
必要があるだろう。
そう気合を入れて迎えた
イクスのデビュタントだが、
控えめに言ってイクスは美しく、
最高に綺麗だった。
俺の前では表情をくるくると変え、
幼い顔を良くするが、
緊張して笑顔が消えた姿は
傾国美人と言っても
過言ではないぐらいに美しいと思う。
16歳でこれなのだから
成人を迎えるまでに、
あとどれぐらい美しく成長するのか
楽しみでもあるが、不安もある。
とにかく俺がイクスを守らねば。
俺はイクスをエスコートして
夜会会場へと向かった。
ここのところ
イクスの体調はあまり
良くなかったという。
イクスは魔力量が多いために、
魔力が身体に馴染むまでは
身体に異変が起こりやすいと言う。
とはいえ、イクスも16歳だ。
そろそろ魔力も安定しても
良い頃だと医者も言っているようだが、
なかなかイクスの体調は安定しない。
まさか、まだ魔力量が
増えているとか、
そんなことはない……だろうな?
イクスは前世の記憶というものを
持っていて、おそらくだが
この世界では、特別な存在なのだと思う。
イクスは辺境伯領の精霊の樹を
次代へと引き継がせ、
その精霊さえも懐かせたのだ。
普通と違うことが起こっても
おかしくはない。
今日は陛下に挨拶をして、
デビュタントのダンスを踊ったら
すぐに帰ろう。
俺はそう決めていたのに、
いざ、夜会に着くと
なかなかそううまくは行かなかった。
イクスがデビュタントの礼をしたら
陛下はわざわざ、階段を1段下りて
言葉を述べる。
そんなことをしたら
イクスが王家から特別扱いを
されていることを周知するのと同じことだ。
国王陛下は王家の保護下にいることを
周囲に知らしめることで
イクスを守ろうとしているのかもしれないが
大きなお世話だ。
それにヘルマン叔父上もそうだ。
わざわざ辺境から出てきて、
イクスの後見人になるなど、
わけのわかんことを大きな声で言うので
聞きようによっては
イクスが辺境伯へ養子か
婿入りするようにも聞こえる。
もっとも、ヘルマン叔父上は
イクスとヴァルターを結婚させて
イクスを辺境伯領へと
連れて行こうと日々画策しているので
これもわざとだろう。
イクスを欲しがる者が
多くて気が休まらない。
なんとか可愛いイクスと
ファーストダンスを踊って
心を落ち着けたと思ったら、
今度は王子殿下たちに絡まれた。
デビュタントでは王子殿下たちと
踊ることは確かに決まっている。
だがそれは、女性だけだ。
イクスがわざわざ王子たちと
踊る必要はない。
なのにイクスはクルト殿下に
手を取られてダンスフロアに出てしまう。
「ごめんね」
イクスを見送っていると、
カミル殿下が目尻を下げて俺を見た。
「クルトもわかってるんだ。
君たちの間に割り込むつもりはないよ。
でも、けじめをつけたいって
弟に泣きつかれてね。
今回だけだ」
「……いえ」
俺は短く返事をする。
「父王もね、
イクスのことは気に入ってるし、
王家の嫁に来てくれたら良いと
思っているようだけれど。
でも、きっと優しく
繊細なイクスには
王子妃というのは負担になる。
体調も安定していないようだし、
イクスには王宮で多くの視線に
晒されるよりも、
穏やかに過ごして欲しいと
私は思っているんだ」
俺は声は出さなかったが
深く頷いた。
俺も同じことを思っている。
イクスに権力は似合わない。
権力には、汚いものがついてくる。
そういうのはイクスには似合わないし、
力が必要ならば、
俺が力を手に入れて
イクスのために使えばいい。
「ヴィンセントはさ、
強いよね。
そういう瞳、イクスを守るって、
決意している瞳を
クルトも持つことが出来たら
違ってたんだろうけど」
あいつは第二王子で
甘やかされて育ったところがあるから、
そういう覚悟ができないんだ。
そうカミル殿下は肩をすくめた。
「この曲が終わったら、
私もイクスを誘うことにするよ。
ヴィンセントがいない間は
私がイクスを守るから
するべきことをすればいい」
カミル殿下の言葉に
俺は迷った。
体力のないイクスに
まだダンスをさせる気か?
そう思ったが。
カミル殿下がイクスのそばに
いてくれるのであれば、
俺がこの場を離れても
大丈夫だろう。
俺は頭を下げた。
だが、俺が感謝の言葉を言う前に
ダンスの曲がゆっくりと終わっていく。
カミル殿下は片手を上げて
イクスたちの方に歩き出した。
俺も下げた頭を元に戻し、
早足で会場内を歩き出す。
まずは公爵家の侍従を捕まえる。
そして、イクスを連れてすぐにでも
公爵家に帰ることを告げた。
あとは公爵殿たちを見つけて
その旨を知らせる。
もし見つけることが無理でも、
侍従に公爵殿への言伝を
頼んだので、最悪、
挨拶が出来なくても構わないだろう。
夜会会場は広い。
急いで行動したはずだが、
すべてを終えて元の場所に
戻ったのは、カミル殿下と
イクスが踊っていた曲が
ちょうど終わるころだった。
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