【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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高等部とイケメンハーレム

79:夜会と王家

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 社交界のデビューの時期は決まっていない。
ただ、だいたいは中等部に入るころ、
つまり、12,13歳ぐらいに
デビューする者が多い。

特に下級貴族で金銭に余裕がある者は
早めにデビューするのが当たり前だ。

何故なら社交場は、
高位貴族と出会う場であり
良縁を結ぶ場でもあるから。

それに大人同士では
利害関係が絡むし、
家柄だって人間関係に
強く影響するが、
子どもたちは違う。

学校に通う子どもであれば
それなりのマナーは
わきまえてはいても、
貴族の上下関係の枠を
超えての付き合いを
している者もいる。

そうした子どもの縁を使って
親もまた社交に力を入れるのだ。

だが俺は違った。

病弱だった俺を心配して
父は俺には社交デビューなど
しなくてもいい、って言ってたし、

俺が社交を頑張らなくても
公爵家には兄がいる。

公爵家は兄が継ぐのだから
俺は人前に出なくても構わないと
俺自身も思っていた。

だが、ダメだとわかった。

だって兄が結婚するのだ。
俺は公爵家のお荷物にはなりたくない。

今日は沢山の人と縁を結んで
良縁を引き寄せて帰るのだ。

俺は公爵家を継げないので、
もし、どこかの貴族の男性に
嫁ぐのなら、俺はその
嫁いだ家のために
社交をして、その家を
盛り立てねばならない。

もしくは、
どこかの爵位を持つ
貴族女性と結婚したとしても
俺は婿入りになるので
その女性の家のために
頑張らねばならないだろう。

いや、いや、メンドクサイ。
考えるだけで苦痛になる。

まだ俺、16歳だぞ。
結婚なんて考えられない。

でも、兄のお荷物にはなりたくないし。

そうだ。
いっそ、結婚とかではなく
平民として生きていけないだろうか。

……いけない、よな?
今の俺、めちゃくちゃ病弱だし。

早く前世妹に妄想を止めるように言わねば
俺の魔力はとどまることを知らずに
成長し続けてしまう。

「大丈夫か?
やはり、今日はやめておくか」

ヴィンセントに言われ、
俺は我に返った。

そうだった。
俺はデビューするために
夜会に来ていた。

今は入場する扉の前で
名を呼ばれるのを待っていたのだ。

「大丈夫、ちょっと、
考え事してただけ」

名は下級貴族から呼ばれるので
俺たちはまだまだ先だ。

というか、俺は一番最後だ。

「考え事?」

「うん。その……婚約、とか」

俺の言葉にヴィンセントが
驚いた顔をする。

「あ、あのね。
父様は僕には言わなかったけど、
カミルとクルトから
婚約の打診があったみたい。

父様は断ってくれたようだけど。

僕、それを聞いてしまったから
二人と顔を合わせるのが
ちょっと気まずいかなって」

これは本当のことだ。

ただの仲の良い幼馴染だと
思っていたのに、
まさか婚約話が出ているとは思わなかった。

父が断ってくれて良かったのだが、
もしかしてこれも、前世妹の
妄想パワーのせいかと
ちょっとだけ焦った。

小さい神は人間の感情を
操作することはできないようなことを
言っていたけれど、

あの妹の暴走妄想パワーなら
イクスオレにイケメンを侍らすために
世界の理を変え、
イケメンハーレムシナリオを
この世界にもたらしても
おかしくはないと思ってしまう。

大丈夫だよな?
さすがにそんなことになったら
あの小さい神がなんとかしてくれるよな?

「大丈夫だ。
じつは俺も公爵爵殿から
その話を聞いていたのだが」

え?
当事者で息子の俺には黙ってたのに、
ヴィンセントには話してたの?

俺の父のヴィンセントへの
信頼度が怖いよ、本気で。

「おそらく王家と公爵家が
結びつけば、王家も安泰だと言う
政治的な見解からの
婚約の打診だったと、
公爵殿も言っていた。

だが今の王家は
公爵家の力などなくても
大丈夫だし、
わざわざイクスが犠牲になって
王家に嫁ぐ必要もないと俺も思う」

その言葉に俺は安心した。

そうか。
カミルとクルトが俺を望んで、
俺と婚約したがったのではなくて、
陛下が政略的に俺を望んだのか。

「公爵殿も陛下も
婚約話を断ったからと言って
気まずくなる間柄ではない。

イクスが心配することは
一切ないから大丈夫だ」

ヴィンセントがそう言って
俺を支えるように背中に手を添えてくれる。

ほんと、ヴィンセントって
頼りになると言うか
そばにいてくれたら安心する。

「ありがと、好き」

ってまた口から出て、
ヴィンセントはその言葉に
優しく笑う。

「俺も」って背中を撫でてくれて。

俺はそれが嬉しかったけれど。

でも、俺は気が付いてしまった。

俺の口から洩れる「好き」は
もう口癖みたいになっていて。

最初はヴィンセントを兄として
慕ってたし、憧れみたいな存在の
「好き」だった。

でも「好き」という言葉は
いつのまにか俺の中で
育ち、変化した。

恋愛感情の、「好き」に。

でも俺はヴィンセントと
恋人になりたいとは
思っているわけではない。

ただ、幼い恋心を装い、
ヴィンセントに自分の気持ちを
伝えているだけだ。

これでいいんだ、って。
想いを伝えることができるだけで
満足だって、そう思うようにしている。

俺が「好き」って言ったら
ヴィンセントはいつも優しい顔で
笑ってくれる。

「俺も」って言ってくれる。

でも「俺も」は「好き」ってことじゃない。

ヴィンセントは俺を
「弟のように可愛いって思ってる
って意味だ。

だから俺は「好き」って言ったら
嬉しいけれど、ちょっとだけ
胸の奥が悲しくなる。

でも、それだけ。

俺がその悲しい痛みに
気が付かないふりをして
笑ったら、ヴィンセントも
一緒に笑ってくれるから。

俺が腕にしがみついても、
笑って許してくれるから。

だから俺は、
自分の恋心を見つめない。

あとほんの少しだけ。

いつかこの気持ちを
ちゃんと全部消化するから。

だから、もうちょっとだけ
ヴィンセントにそばに居て欲しい。

俺の名が呼ばれた。

ヴィンセントは恭しい仕草で
俺に手を差し出した。

正式な場での、
ヴィンセントのエスコートだ。

俺はその手を取る。

よし。

一瞬だけ緊張したけど、
ヴィンセントの手のぬくもりに
俺は平常心を取り戻す。

「行けそうか?」

「もちろん」

俺は笑顔を作って頷き、
一歩足を踏み出した。


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