【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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高等部とイケメンハーレム

75:社交デビュー

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 とうとう俺は中等部を卒業した。

今は次の学年に上がるまでの長期休み中だ。

俺は休みの期間中に、
父から社交デビューの準備を
するよう言われている。

デビューなど必要ないと言いたいが
公爵家の子息としては
そうはいかないのだろう。

それに……。

じつは俺はあの事件以降、
ヘルマン辺境伯とは
なかなか親しい間柄になっている。

親しいと言っても
手紙のやりとりぐらいだが、
ヘルマン辺境伯はあの強面からは
想像つかないぐらいに
筆まめだった。

新しい精霊の樹の様子や
辺境伯領の発展、
寒さや干ばつに強い作物の
改良の話などを
沢山書いて送ってくれる。

一度その話をヘルマン辺境伯の
息子であり、俺の友人の
ヴァルターに言ったら、
物凄く呆れた顔をされた。

そして
「俺の命が危ないから
親父の手紙にはいちいち
返事をしなくてもいい」と
真顔で言われたのだ。

返事を書かずに不義理をして
叱られるのならともかく、
何故、返事を書いただけで命の危険になる?

言われている意味が分からず、
そばにいたミゲルに助けを求めたが
ミゲルも曖昧に笑うだけで
何も言わなかった。

ついでにそのことを
ヴィンセントに言ってみたら
ヴィンセントは大きく頷き、
「あいつも良いことを言う」と
ヴァルターのことを褒めた。

ほんと、意味わからん。

話はズレてしまったが、
俺はまだ社交デビューをしていない。

じつはそれが理由で
ヴィンセントが成人の儀を
するときに辺境伯領に
ついて行こうとしたら、
ヘルマン辺境伯の許可が出なかったのだ。

まだ社交デビューをしていない
未成年の子どもを、
成年の儀に呼ぶわけにはいかない、と。

なるほど、と思ったが、
その返事を聞いたヴィンセントは
数日間、暴れていた。

……おそらく、物理的に。

だって、その話を聞いた
数日後、何故か騎士団の
訓練が厳しくなったとか
怪我人が増えたとか。

騎士団の練習場が
炎で焼きただれたとか、
そんな話が俺が通う学校にまで
聞こえてきたのだ。

俺の前でのヴィンセントは
いつも通り優しかったが、
俺はひそかに、ヴィンセントが
騎士団で暴れたのだと思っている。

そんなヴィンセントは
いまや騎士団のスターだ。

通常騎士団は、
魔法を使うことが得意な青騎士団、
剣を得意とする赤騎士団がある。

そして青騎士団と赤騎士団で
切磋琢磨した実力者だけが
入ることができる白騎士団があるのだが。

ヴィンセントは赤騎士団に入ったものの
強い火魔法も使えるし、
剣の腕もかなりのものだ。

そんなわけで、
すぐに白騎士団への誘いが来て
騎士団に入ってから
異例の出世として現在は
白騎士団に所属している。

忙しそうにしているが
白騎士団は王族の近衛兵としての
役目もあるようで、
地方に出向くことは無い。

つまり俺としては
会いたいときにヴィンセントと
会うことができるので
地方に行くことがある青騎士団や
赤騎士団ではなくて
王都をメインに活動する白騎士団に
ヴィンセントが入ってくれて
大助かり……いや、嬉しい、うん。

ヴィンセントは何かと俺の世話を焼いてくれる。

実の兄よりも優しいし
気配り上手だ。

今回のデビューの話も、
ヴィンセントが父に話をしてくれたらしい。

父は「いつまでも可愛いイクスは
子どもでいいんだ」なんて言ってたらしいが
ヴィンセントと俺の母に説得されて
しぶしぶ俺のデビューを許したんだとか。

いや、俺の年で社交界デビューを
してないってのはおかしいから。

遅すぎるからな?

と俺が言えるのも、
ミゲルがそういうことを
教えてくれるからだ。

そうでなければ俺も、
社交界デビューなんてめんどくさいし
俺には関係ない、って思ってた。

……社交界なめててスマン。

ヴィンセントは俺が成人の儀に
一緒に行けなかったことを
物凄く根に持っていて。

いや、心配していて、
早く社交界にデビューして
一緒に色々な場所に行こう、と
提案してくる。

別にデビューなんてしなくても
今までだって色々な場所に
一緒に遊びに行っていたのだが、
デビュー前とデビュー後とでは
遊びに行く場所が違うのだろうか。

なんにせよ、
俺は戸惑うことも多いが
立派に16歳になったわけだし
社交界にデビューをしたら
もう大人の仲間入りだな。

成人になるは18歳になってからだが
気分は前世の記憶があるから
すでに大人だし、
ここらでデビューを果たして
一気に俺が大人なところを
披露しても構わないだろう。

そうでなければ俺はいつまでも
『可愛くて小さな子どものイクス』の
ままになってしまう。

俺はもう、そう言うのから卒業したい。

いつまでも膝の上に乗せられて
菓子を食べている俺ではないのだ。

ジュは相変わらず
俺のそばに居て、俺はジュと一緒に
魔法の訓練をしている。

樹と光魔法の練習だ。

この二つは学校では
学ぶことができないから
ジュと一緒に練習できるのは嬉しい。

あと勘違いだと思いたいのだが、
前世妹の暴走妄想が激しいのか
新しい属性の魔法を習得した……気がする。

だが、俺はそれを見ないことにした。

だってあの前世妹の妄想が
創り上げた魔法だぞ?

『言葉が通じなかったら
強気なアプローチが強姦になる』
みたいな理由で、
俺に自動翻訳機の能力を付けた
あの妹だぞ?

新しく生まれた魔法に
興味が無いかと言われたら
興味はあるが、怖くて見れない。

ちなみに。
俺の親友で可愛い枠だった
ミゲルは初恋を実らせ
エリオットと婚約した。

ミゲルは次男だし
爵位は継げないので
将来はエリオットに
輿入れすることになる。

もしこの話をこの世界に
転生したばかりの時に聞いていたら
男同士ですげぇ!って
思ったかもしれないが。

俺はもうそんなことは思わないし
ミゲルが幸せそうで
本当に嬉しい。

ヴァルターは恋愛の『レ』の字も
出てこない様子だったが、
すでに騎士団から打診を受けていて
卒業したらすぐに騎士団に入ることが
決定していると言う。

今は恋愛どころではない、と
ヴァルターは言うのだが、
俺としては可愛い可憐な女の子が
ヴァルターのお嫁さんになってくれたら
いいのにな、と勝手に思っていたりする。

そして俺は……。
そう、俺は。

自分の結婚とか、婚約とか
そういうのをどうすれば良いのかと
思うようになった。

兄のレックスには、
最近、婚約者ができた。

隣国の第二王女様で、
どうみても政略結婚なのだが
お互いに、親交パーティーで
一目ぼれしたらしい。

弟バカだったレックスが
急に恋愛バカになり、
俺は「恋って怖い」と慄いたが
驚く周囲とは裏腹に
王女様との婚約話は
あっという間にまとまってしまった。

もしかしたら裏で父や
いや、兄が画策したかもしれないが
とにかく兄は幸せそうだ。

公爵家は兄が継ぐし、
俺は今後、どうしたら良いのだろう。

俺は兄が結婚することを
あまり考えていなかった。

だからずっと公爵家で
魔法の研究とかできたらいいな、
なんて思っていたのだが、
あの家に兄のお嫁さんが来るなら
話は別だ。

さすがに小姑になって
あの屋敷に居座ることはできない。

将来の不安も生まれ、
社交デビューもじつは不安だ。

そんなわけで俺が泣きつくのは
いつもヴィンセントだ。

俺が泣きつきに行くと
ヴィンセントはいつも俺を
受け入れてくれるし、
髪を撫でて、大丈夫、っていう。

それが嬉しくてついつい
ヴィンセントに甘えてしまうのだが
こうやって甘えるのも
ヴィンセントに婚約者がいないからだ。

そういやヴィンセントは
俺よりも5つも年上なのに、
婚約の話を聞いたことが無い。

もしかして、俺がいるせい?

ヴィンセントの恋愛を俺が邪魔してる……?

いかん。
落ち込んできた。

俺は自室のベルを鳴らす。

すぐにリタが部屋に入って来た。

「ごめん、リタ。
何か飲みたい」

お茶でも飲んで気分を変えよう。

リタはかしこまりました、と
俺に頭を下げて部屋を出る。

それを見送り、
そういやリタは前世のゲーム内では
守銭奴だったなー、なんて。

そんなことをふと思った。


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