【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

70:バカ可愛いの生み出したもの

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 小さい神の話は続いた。

あのジュ。
精霊の樹の精霊?と思っていたが
何とあれも、俺のバカ妹が
生み出したものだった。

どんだけ凄い妄想力なんだよ。

そういや、BLの薄い本とか
作って喜んでたよな。

あいつ、絵を描くのも好きだったし。

ジュは妹が「もしお兄ちゃんが
イクスになったら、こんな可愛い猫が
使い魔になって……」という
妄想がさく裂して描いた絵だったのだが

小さい神がその妄想パワーを
魔力に変換していた時に、
急に生まれてしまったらしい。

小さい神は驚いたが、
せっかく生まれたのだからと
ジュに精霊の樹の守という役目を与えた。

精霊の樹は寿命が来ることは
すでにわかっていたので、
精霊の樹を守り、
次代の精霊の樹を生み出す役目だ。

イクスオレはそもそも、
バカ妹の妄想力のおかげで
他の人間たちよりも魔力量は多く、
そして、何故かかつて小さい神が
滅ぼした魔術を生み出す資質。

そしてすでに人間が
失ったはずの魔法属性まで持っている。

まぁ、これらもバカ妹の
妄想のせいだとは思われるが、
その妹が生み出したジュがいれば
おそらく、それに引かれて
イクスオレは精霊の樹に
やってくるだろうし

現状、なかなかうまくいかない
この世界の安定に関しても
ジュと俺が繋がることで
なんとかできるだとうと
小さい神は考えたのだとか。

物凄く安易な考えだが、
結果的には上手くいったと
言っていいと思う。

俺はジュに引かれたのではなく、
たまたま、ヘルマン辺境伯領に
やってきたのだが。

とはいえ、偶然というものも
神の采配ということであれば
俺はこの小さい神に導かれて
精霊の樹にたどり着いたと
言えるだろう。

小さい神は言う。

『まだまだこの世界は
あの世界から力を得る必要があるが、

ジュは、私が干渉しなくても
直接、あの女性のパワーを
その身に受けることもある』

つまり?
俺のバカ妹の妄想パワーを
今でも直に受けとめてるってことか?

『君が望み、練習をすれば
君もあの世界と。

あの女性と意識を繋ぐことも
できるかもしれない』

本気で!?
また妹と話ができるのか!?

『ただし、別世界への干渉は
少ない方が良い。

すでに私もあの世界に
干渉しているからな。

もしこの世界に穴が開き、
あちらの世界と繋がったら
大変な被害になる』

「……確かに。
わかりました。
俺も妹に会いたいけど、
むやみやたらり干渉はしません。

ただ、もし運よく、
妹と最後の言葉を交わすことが
できるのであれば、
その時は、妹と話すことを
許してください」

俺が頭を下げた。

世界を崩壊させたいわけでは無いが
妹に、結婚おめでとう、ぐらいは。

俺のことは心配せずに
幸せになれ、って一言ぐらいは言いたい。

小さい神は俺の言葉には
返事をしなかったが
それでも、頷いてくれた。

『ジュは今、大きな役目を終え
眠っている。

目が覚めればおそらく
君の元に行くだろう。

ジュは君とも私とも繋がっている。
あの君の妹だと言うあの女性とも。

君はこの世界の要だ。

あの女性の力は、
君がこの世界にいるから
送り込まれているようなもの。

しっかりとこの世界で
幸せに生きて欲しい』

「もちろんです」

幸せに生きることを目指すのは
あたりまえのことなので
俺は素直に返事をする。

『何かあればジュを通して
私に話しかければいい。

そして、君の能力だが
あの女性が君を強く思えば思う程、
その能力は増え、強くなっていくだろう。

私はこの世界に魔術など
必要ないと思っている。

だが人間たちの感情を
神が操作することはできない。

だからこそ、あの女性の
純粋な感情はこの世界を救う程の
強く大きな力になっている。

それも踏まえ、
君が魔術を紐解き、
何かを成し遂げるのであれば
私はそれを咎めることはない。

ただその代わり。

今回のように、
この世界で揺らぎや崩れが起きた時は
手を貸して欲しい。

あの女性の力を純粋に
強大な力として使えるのは
この世界では君だけだろう」

……ですよね。

あのバカ妹のイクス愛は
強烈ですもんね。

俺は遠い目をしてしまう。

あの妹のおかげで
この世界は救われている。

それはすごいことだ。
凄いことだが……。

俺はもし、あのバカ妹に
将来、声を届けることができたら。

「この、バカタレが!」って
怒ることにしよう。

そしてあの青年に謝るのだ。

「こんなバカ妹でスミマセン。
よろしくお願いします」と。

あぁ、妹よ。

そしておそらく妹と共に
腐った妄想をして喜ぶ友人女性たちよ。

感謝はしている。
している、が。

頼む。
イクスオレをイケメンハーレム設定にだけはしないでくれ!

俺はイケメンもスーパーダーリンも
必要ないんだ。

「頼む、勘弁してくれーっ!」

不特定多数のイケメンに組み敷かれるのだけは嫌だー!

っと心の中で叫んだ瞬間、
俺は、はっと目を開けた。

「イクス?」

心配そうな声に顔を横に向けると
ヴィンセントがいた。

俺はベットの上にいて、
どうやら眠っていたらしい。

夢、か?
いや、そんなわけがない。

めちゃくちゃ内容を覚えてるし、
腐った妄想パワーが世界を救うなんて
設定、俺が考えつくわけがない。

清々しいほどバカらしすぎて、
あのバカ妹だからこそ
できたのだと思わざるおえない。

「はは」

もう乾いた笑いが口から洩れる。

「どうした?
うなされていたようだ」

ヴィンセントがコップに水を入れ
俺のそばに来た。

俺はヴィンセントに支えられ、
水を飲ませてもらう。

はぁ、美味しい。
水が冷たい。

俺が水を飲み干すと、
ヴィンセントはコップを
サイドテーブルに置いて
俺の額に手を当てる。

「熱は下がったようだな。
まだ夜だが……
何か食べるか?」

その言葉に俺は首を振る。

身体はだるいし、
食欲は無い。

「ここはヘルマン辺境伯の屋敷?」

初めて見る部屋だが、
ベットや部屋の家具などが
泊めて貰った客間と雰囲気が似ている。

ヴィンセントは頷いた。

何でも俺はあれから
5日間も眠り続けていたらしい。

ヴィンセントの話では
あの時降り出した雨は
3日間ずっと降り続き、
領地を潤した。


そして4日目の朝、
雨が止んだかと思うと、
枯れていた草木や農植物が
あっというまに芽吹き、
実が育ったという。

領地の民は大喜びで、
精霊のおかげだとお祭り騒ぎだったそうだ。

そして精霊の樹と言えば、
雨が降り続いた3日間で
すくすくと育っていき、
あっという間に大木になったらしい。

それはそれは良かった。

この部屋はヘルマン辺境伯の
客間の一つだが、
農作物があっという間に育ち、

不足していた薬草なども
収穫することができたので、
流行病に罹っていた領民や
この屋敷で働いていた人たちの
病も快方に向かっているらしい。

良かった。

薬事情と食糧事情の心配が
無くなってくると領民たちも、
屋敷の人たちも心に余裕が生まれてくる。

そこで屋敷の人たちは
いままで放置されていた仕事に
手を付けるようになった。

俺はずっと、あの夫婦の客間で
眠っていたのだが、

生きる不安がなくなった侍女たちが
客間をきちんと調えたので、
部屋の移動をすることになったらしい。

俺は眠ったままだったが
ヴィンセントが俺の身体を
運んでくれたとか。

「別にあのままでも良かったのに」

と俺は言ってしまったが、
俺は熱を出して寝込んでたし、
そんな俺が隣にいるのに
さすがのヴィンセントも
ゆっくり眠ることなどできないだろう。

そう考えると
部屋を移って良かった。

でも俺、ヴィンセントに
ひっついて眠るの、
好きだったんだけどな。

ヴィンセントは俺の言葉に
苦笑して、俺の髪を撫でる。

「さぁ、もう少し寝ろ」

言われて俺はベットに横になったが。

あの夫婦の客間ではなく
ヴィンセントがこの部屋にいると言うことは
もしかして俺の看病をしてくれていた?

つまり、ヴィンセントには寝る部屋がない。

……こともないかもしれないが。

ここは甘えて良いとこだよな?

だって俺、頑張ったし。
いや、病人だし。

「ヴィー兄様」

「なんだ?」

俺は自分の隣をシーツの上から
パンパン叩いた。

「一緒に寝よ?」

俺の誘いにヴィンセントは何故か目を丸くして
大げさにため息をつく。

「病人は一人で寝るもんだ」

乱暴に髪を撫でられ、
俺は唇を尖らせる。

「そばにはいる。
ここにいるから、安心しろ」

「……うん」

髪を撫でていた大きな手が
俺の目を塞ぐ。

大きな、温かい手。
安心する手だ。

俺は考えることは
沢山あった思うのだが。

ヴィンセントの優しい手に
全てを忘れてしまった。

まぁ、いいか。

俺はこの手がそばにあるだけで
十分幸せだし。

今欲しいのは、この手だけだ。

俺は目を閉じ、
またウトウトする。

頭のどこかで、ジュが
にゃ、と鳴いたような気がしたが。

すに襲い掛かって来た眠気に
感じたジュの気配は、
あっという間にかき消されてしまった。








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