【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

68:バカ可愛い最愛

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 真っ暗な闇の中に、
突然、光が生まれた。

淡い光は、精霊の樹の中にあった
『種』を包んでいた繭を思い出させる。

『君の可愛い妹の望みは
純粋で、強かった』

まぁな。
俺の妹はバカだが、
思い込んだら一途なのだ。

兄バカかもしれないが、
俺は妹の、そう言うところが
可愛いと思っていた。

『そこで私はね、
その願いを叶えることで
この世界を書き換えることにしたんだよ』

はぁ?
意味が分からん。

と思っていた俺の前で
繭が割れた。

中から、小さな……妖精?
トンボみたいな翅の生えた小人みたいな
生き物が現れた。

白く長い髪をしていて、
同じ様な薄い白い布を
何枚も体に巻き付けた
簡素な服を着ている。

「えーっと、精霊……様?」

かろうじて、様、を付けたが
妖精っぽいものは首を振る。

『私はこの世界を管理する者だ。
精霊は私の配下になる』

それって神様ってこと!?

この小さいのが?

と思った瞬間、
小さな神が俺をにらんだ。

心臓が急に痛くなり、
俺は心の底からスミマセン、と平謝りする。

心の中で必死に謝ると
小さな神は怒りの表情を解き、
ふわりと飛んで俺の目の前に来た。

そして
『お前の知りたいことを教えてやろう』と
可愛い姿とは裏腹に、
物凄く冷たい声で言い放った。


小さな神の話したことは
俺にとってはまさに
前世でよく読んだ漫画や
アニメのような話だった。

この世界は今は
目の前の小さな神が
管理をしているが、
数百年前までは
別の神が管理をしていた。

その別の神が本来の
この世界の創造者だったらしい。

ところがその神は
この世界の人間を愛しすぎた。

そして人間に魔力という
人間には過ぎる力を与えてしまう。

人間たちはより力や富を求め、
魔法を使い、魔術を生み出し、
あっというまに栄華を誇り……
そして、大きな争いを起こし、
自ら滅びの道をたどる。

そのことに嘆き悲しんだ創造神は
涙を流し、この世界の管理を放置した。

これが過去、
魔術が栄えていた時の話らしい。

そしてこの目の前の小さい神が
新しい管理者として
この世界にやってきた。

創造神とは旧知の仲らしく、
ほっておけなかったらしい。

小さい神はまず人間たちから
魔力を奪った。

巨大な魔法を使えなくしたのだ。

魔法が使えなければ
魔術も使えなくなる。

そして人間たちから
文字を奪った。

魔法や魔術に関する記述も
文字が読めなければ意味がない。

突然文字が読め無くなったり
魔法が使えなくなった当時の
人々はさぞ慌てただろう。

だが人間はそこから
したたかに立ち上がり、
新しい文字を作り、
魔力があまりなくても
生き残る術を見つけた。

その人間の強さに
小さな神は感銘を受けて
この世界を見守り、
滅びではなく繁栄させることを
決めたのだとか。

なるほど。

つまり過去に
この国の研究者たちが
何年も古語を研究し、
解読しようとしても
出来なかったのは、
神様の仕業だからなのか。

じゃあ、俺は?

自動翻訳機を脳内に持っている
俺はどうなるんだ?

俺はその疑問を口にしなかったが
小さな神にはお見通しらしい。

トンボの羽でパタパタと
飛んでいた神は、
くるり、と俺の目の前で
宙がえりした。

すると、その目の前に
何故か小さなイスが生まれ、
小さな神はその椅子に座る。

椅子は豪華な、まるで王様が
座るかのような長い背もたれの
椅子だったが、とにかく眩しい。

光り輝いていて、
色はよくわからない。

そして椅子は宙に浮いていた。

俺の目線と合うように
調整されているようにも思う。

『本来はね、
私がこの世界の管理者になった時、
全てが滅び、新しい世界が
再生されるはずだった。

だが私はこの世界の人間たちを
気に入った。

だから、元々の世界の上に、
今の世界を重ねて作ったのだ』

うーん。
難しいが、いわゆるパソコンの
上書きインストールのようなものか?

それかゲームの、追加パッケージみたいなものとか。

元々あったゲームに、
追加パッケージをダウンロードしたら
世界が広がったり、新しいシナリオが
生まれたりするんだよな。

この世界はそんな感じで、
過去の魔術があった世界に
新しい文字を使った文明を
上書きするように重ねて作ったってことか。

だから文化は同じだが、
今は使われている言葉が違ったり
魔術が使えなくなったりしている。

『そう。
それでこの世界は
順調に繁栄するはずだったが、
重なった世界は、1つになるのに
時間がかかってしまった』

小さな神は座ったまま足を組んだ。

身体は小さいのに、足、長いな。

『そこで二つの世界を
1つにするための楔として
君たちの言う精霊の樹木を
創ったんだよ』

なるほど。

そりゃ精霊の樹の役目は重大だ。
枯れなくて良かった。

「いやいや、違う。
そうじゃなくて。

俺が知りたいのは……」

俺は口を開いた。

この世界の話も知りたいことだが
それよりも、もっと知りたいことがある。

それはあの前世妹の夢と、
俺がイクスに生まれ変わったことだ。

「俺は、何故この世界に、
いやそれよりも、
あの夢は、俺の妹の姿は
本当にあったことなのか?

妹は俺が居なくても
幸せになったんだよな?」

イクスオレのことよりも、
まずは妹のことを知りたい。

俺が意気込んで聞くと、
小さな神は鷹揚に頷いた。

『あの祈りは、願いは
まっすぐで強く、
強烈だった。

別世界の私にまで
届くほどのものだった。

だから私は
あの人間のいう世界を
この世界に重ねて作った。

イクスと言う人間や、
その者を愛すると言う者たちを
生み出したのだ』

え?
待って?

物凄く嫌な情報を聞いたぞ。

つまり、俺の前世妹の言葉に
興味を持ったこの世界の神が
あのBLの世界と同じような設定を
この世界に持って来た、と。

そしてあのBL世界の設定を
組み込みこんだ。

いわゆる3度目の
世界の上書きインストールを
してしまったということか。

なんてこった!
バカ妹よ。

お前の腐った妄想話のおかげで
世界が1つ、BLになってしまったぞ!

俺は思わずしゃがみこんで、
頭を抱えてしまった。

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