【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

62:自分にできること

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 眉間にしわが寄ったヴィンセントは
なんとなく、怖い。

こうしてみると、さすが
ヘルマン辺境伯と親戚だけある。

なんて思っている場合ではないのだが。

「だ、だって。
そう言わないとあのまま
外に出れなくなったら困ると思って」

俺は言い訳するように
早口で言う。

「でもね、きっと、
あの精霊猫とおしゃべりして、
僕の水魔法で『種』に
お水を上げたら。

きっと『種』も育つと思うんだ」

そういうと、
さすがにヴィンセントも
反対はできないだろう。

それ以上は何も言わずに
ヴィンセントは俺を無言で
見つめてくる。

俺は苦し紛れに
ヘルマン辺境伯に視線を向けたが、
さっきまで険しい顔をしていた
辺境伯の顔が少しだけ、
安堵したような顔になった。

俺が解決策を示したからだろう。

いや、まだ解決策になってるか
どうかはわからない。

やってみないとどうなるのか
わからないからな。

俺はポケットから
ハンカチを取り出した。

丁寧に広げると、
真っ白い羽がでてくる。

「……これか?」

とヴィンセントが手を伸ばしたが、
羽に触れる前に、
バチっと静電気のようなものが起こり
ヴィンセントの指をはじいた。

「なんだ、こいつ。
生意気にも、イクス以外に
触れられたくないとか言うのか?」

いやいや。
精霊相手に生意気にも、って
言ったらダメだと思うぞ。

天罰が下ったら……いや、
神様じゃないから
天罰は無いのか。

「イクス君」

俺が怪我はしなかったかと
ヴィンセントの指を
確かめていたら
ヘルマン辺境伯に名を呼ばれた。

俺が顔を上げると
真剣な顔をした辺境伯が、
勢いよく頭を下げる。

「君一人に負担を掛けることになる。
すまない。

だが、手を貸して欲しい。
この地を守るために。

精霊の樹を守るために」

「もちろんです」

俺は大きく頷く。

「精霊?とも約束したし、
僕にできることは
何でもするって
そう決めて僕はここに来たんです。

その、ヴィー兄様は
反対するかもしれないけど、
僕は毎日だって
ここに通いたいし、
『種』だってちゃんと
育てるつもりです」

俺は宣言するように言い、
ちらり、とヴィンセントを見た。

ヴィンセントは顔をしかめていたが
俺がそう言ったせいか
ダメだとは言わなかった。

そして一言
「しょうがないな」と言う。

「うん、しょうがないよね」

俺が言うと、
「お前が言うな」と
ヴィンセントに軽く睨まれる。

そして俺が羽をポケットに
直すタイミングで
ヴィンセントから
クッキーの袋を渡された。

「きっと魔力をいつもより
使い過ぎたんだろ。
魔力を使った後は
腹が減るもんだ」

へぇ。
魔力なんてあまり使わないから
それは知らなかった。

「それで?
これからどうするつもりだ?」

俺がまた袋から
クッキーを1枚取り出して
口に入れようとしたとき、
ヴィンセントがそんなことを言う。

「精霊の樹の中に
入れることはわかったけど、
それ以外にも調べたいことがあるんだ。

だからしばらくはここにいて
精霊の樹を観察したいんだけど」

俺の言葉にうなずき、
ヴィンセントはヘルマン辺境伯を見る。

「そういうわけです。
叔父上、俺はイクスにこのまま
ついていますが、
叔父上は通常の仕事に
戻っていただいて大丈夫です」

ヴィンセントの提案に
ヘルマン辺境伯は眉間にしわを寄せた。

怖い顔の迫力が倍増になる。

「ここに俺と叔父上がいても
できることはないでしょう。

この場所は危険も無いようですし
イクスを守るのは
俺一人で十分です」

すげぇ。
ヘルマン辺境伯に言いたいことを
言えるなんて、さすがヴィンセントだ。

「……それで構わないかね?」

ヘルマン辺境伯はヴィンセントではなく
俺に返事を聞いてきた。

「はい。
僕は僕にしかできないことを
ここでやってみます。

僕にはこの領地の人たちを
守る術はもっていないけれど、
沢山の知識だけはノートに
書いて持ってきましたから」

俺が胸を張って言うと、
ヘルマン辺境伯は少しだが
表情をやわらげた。

目元が緩み、
優しい瞳になる。

「そうか。
では、頼む。

私は私ができることをしよう。
我が領民を守るために」

そう言って、
ヘルマン辺境伯は立ち上がった。

そして持っていた鞄を
ヴィンセントに渡す。

「必要なものがあれば
使えばいい。
頼むぞ」

「ええ。叔父上。
任せてください」

「頑張ります」

俺たち二人の声に
ヘルマン辺境伯は大きく頷き
背中を向けた。

その背が遠くなるのを見送り、
俺は手に持っているクッキーを
口に入れる。

「それ、うまいか?」

「うん。めちゃくちゃ固くて
噛めないけど」

そう言うと、
ヴィンセントは声を挙げて笑う。

「軍の携帯食みたいなもんだろうな。
一応、昼飯になりそうな物も
持たせてくれたようだが
どれも固いだろうな」

ヴィンセントはヘルマン辺境伯から
手渡された鞄を覗きながら言う。

「だが、こんな時に
食料を分けてくれるのは
有難い話だ」

「そうだね。
干ばつも酷かったみたいだし、
食糧事情も良くないってことは
見ただけでわかるもん。
疫病が流行ったって言ってたし」

その言葉にヴィンセントは
重々しく頷く。

「だが、それを改善するために
ここに来たわけだ。

俺も、俺にできることをしよう。
イクス、俺にできることは?」

え?
何もない、んだけどな。

元気よく聞かれて、
俺は戸惑う。

ヴィンセントにできることは
何もないけど、
だからと言って「何もない」
なんか言ったら
ヴィンセント、落ち込む、よな?

どうしよう。

できること?

できることって……に、
荷物持ち……は、ダメ、かな?

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