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魔法と魔術と婚約者
60:精霊
しおりを挟む俺がほっとしていると、
周囲がさらに明るくなった。
膜が光ったのではない。
別の何かが……
考える俺の足元に、
小さな小さな光が生まれ、
目を閉じたくなるぐらい
一瞬、大きく光る。
俺は思わず目を背け、
すぐに視線を戻した。
すると、光の繭のようなものが
俺の足元にある。
大きさで言えば、
リスとかハムスターぐらいだ。
俺はしゃがんで、
それを指先で突いたのだが……
別に力を入れたわけでもないのに、
俺がつん、と触った途端、
その繭は大きくひび割れをおこした。
「え? え?
いや、俺、そんなに力いれてないけど」
慌てる俺の前で、
繭はバリバリとヒビが入り、
中から、何かが出て来た。
何か……動物?
「は?」
中から、真っ白い動物?
が出て来た。
なぜハテナマークかというと、
見たことも無い動物だったからだ。
全身は真っ白で大きな羽が生えている。
だが姿はどうみても鳥ではない。
猫?
大きさはリスぐらいだが、
猫っぽい身体をしている。
その動物は、猫っぽく
んーっと四つ足で
身体を伸ばすと、俺を見た。
『トモ、ダチ』
頭に言葉が響く。
俺が外にいた時に聞いたのと
同じ声だと思った。
「そう、友達。
なってくれるか?」
俺が聞くと、猫……みたいな
動物は首を斜めにする。
肯定ではなさそうだが、
否定でもない。
『ジュ』
「ジュ?
樹の属性のことか」
俺が聞くと、動物は唸る。
なんだ、違うのか。
『イク、ス、ジュ』
おー、俺の名前を呼んだぞ!
すげぇ。
ってそうか。
「ジュ。
ジュって名前か?」
俺が問うと、動物……いや
ジュは頷いた。
なんだよ、ジュって。
誰が付けたか知らんが、
適当につけたんじゃないだろうな。
俺だったらもっとかっこい名前を付けたのに。
「じゃあさ、ジュ。
また来るから、
一旦、外に出てもいい?」
俺がが言うと、
ジュは俺の周囲をグルグル回った。
まるで警戒しているかのように。
「嘘は言わないよ。
ちゃんと話に来る。
そうだ。
絵本も持ってくるよ。
精霊の樹の話が描かれた絵本もあるんだ」
俺がそう言うと、
ジュは突然、俺の周囲を回るのを止めた。
そして俺の目の前に座って
まるで猫の銅像みたいに
じっと動かなくなる。
『トモダチ』
今度ははっきりと聞こえた。
「友だち。
うん、俺、友達になりたいんだ。
友だちだから、
また会いたいし、
会いたいから会いに来るよ」
俺の言葉にジュは
じーっと俺を見つめたまま
何故か口を開けた。
するどい牙が口から覗く。
なんで?
もしかして威嚇されてる?
「えっと。
急に友だちって馴れ馴れしかった?
じゃあ、知り合い、とか……」
って、変だよな。
知り合いになろう、って
どう考えてもおかしいだろ。
「俺、またジュと
会いたいんだけどダメか?」
もしかしたら
このままここに閉じ込められるのでは?
という嫌な予感と、
それでもこの場所にもう一度
戻って来たい、
ジュと話す機会を持ちたいと
思う気持ちが止められず、
俺はジュの前にしゃがんだ。
「これっきりで終わりじゃなくて。
何度も会いたい。
ジュと仲良くなりたい。
だから友達になりたいんだ」
俺が床に膝をついて
ジュを見つめてそう言うと、
ジュはようやく四つ足で立ち上がった。
そして何故か急に俺の前で
奇妙な踊りを踊り始めた。
いや、踊りではないかもしれないが。
何故か自分のしっぽを
追いかけるかのように、
一つの場所でグルグル回り、
かと思ったら、宙返りをして
次は床に背中をこすりつけ始める。
なんだ、いったい。
何の儀式だ?
友だちになるのに必要な
儀式とか言わないよな?
俺が戦々恐々とその動きを見ていたら
突然、ジュは動きを止めた。
そして俺を見る。
「な、なに?」
思わず後ずさりしそうな俺に
ジュは床に落ちた羽を
口に加えて俺の前に置いた。
「くれるの?
もしかして、背中の羽を
抜くためにさっきの動きを
していたの?」
俺が目を丸くすると、
ジュは照れたように、
ふい、っと顔を横にする。
「ありがとう!
嬉しいよ。友達の印だね」
俺は羽を受け取ると
ポケットに入っていた
ハンカチで羽を丁寧に包んだ。
「あ、そうだ。
じゃあ、僕からもこれ」
俺はポケットの中に
入っていたリボンをジュに見せた。
俺の髪は長くて、
一つにまとめることもあるのだが
何故か、リタを含め侍女たちは
俺にリボンを付けたがる。
俺は女の子じゃないのだから
リボンなんて嫌なのだが、
リタの押しが強くて
断れないのだ。
その代わりに、リタから離れると
俺は自主的にリボンを外し
ポケットに入れる。
そのリボンがたまたま
ポケットに入ったままになっていたのだ。
慌てて辺境伯領までやってきたから
リボンのことなどすっかり忘れていた。
「ねぇ、付けてあげるよ」
俺が言うと、ジュはちらり、と
俺を見てから、おずおずと
近づいて来る。
本当は抱き上げたかったけれど
いきなり距離を詰めるのは
良くないだろう。
信頼関係を築いていくために
強引な真似をしてはダメだ。
俺は手を伸ばして
一定の距離を置いたまま
ジュの首にリボンを結んだ。
「可愛い、俺よりもよっぽど似合う」
俺は思わず呟く。
本心だった。
だって真っ白い小さい猫が、
白い羽をはやして
ピンクのリボンを付けてるんだぞ。
メルヘンでしかない。
そして純粋に可愛い。
俺のつぶやきにジュは
満足そうな顔をした。
猫の顔なのに、
ドヤ顔になった。
『ココニクル、ハネ』
短い言葉がまた頭に響く。
「羽?
あの羽を使えば、
ここに来れるの?」
ジュは肯定のように首を動かす。
「ありがとう。
外に出るのも、羽?」
俺はハンカチに包んだままで
羽をジュに見せる。
ジュは返事をしなかった。
俺に出て行って欲しくないのだろうが
肯定の目をしていた。
『ミズ』
「水? 水魔法の水?」
『ジュ。ミズ』
どう言う意味だ?
『カレル、ジュ、ミズ』
枯れる?
そうだ、だから水がいるんだろ?
「わかってる。
でも水魔法ごときじゃ
ダメなんだろう?
どうすればいい?」
信頼関係が先だと思っていたのに
焦ってまた同じことを聞いてしまう。
ジュは首を振り、
『ジュ、ミズ』と言う。
意味はわからない。
だが重要なことだと思う。
「時間は?
急がないとダメなんだろう?
この種はどれぐらいで育つんだ?」
俺の言葉にジュは答えない。
その代わりに、
ハンカチの中に合った羽が
急に光った。
すると、目の前がチカチカして、
急に目の前が暗くなる。
「待って、ジュ。
まだ聞きたいことが……」
俺は焦ったが、
ジュは何も答えない。
そして一瞬、身体が勝手に
揺れるのを感じて、
気が付くと俺は精霊の樹の外で、
ヴィンセントに抱きしめられていた。
えっと……。
どう言う状況?
いや、心配かけて……
ごめん?なさい?
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