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魔法と魔術と婚約者
59:ともだち
しおりを挟むいや、眩しいからって
俺が目を閉じてどうするよ!
俺が魔法の発動を止めればいんだって。
光は一向に収まらず、
カミサマも精霊も助けてくれそうに
無いことに気がついて、
俺は気合で目を開けた。
そして、落ち着け、落ち着け、と
呟きつつ、魔力を押さえるように
意識をする。
すると徐々に魔法は小さくなり
俺の魔力は放出を止めた。
なんだ、簡単じゃん。
俺が魔法の発動をやめれば良かったんだ。
はは。
当たり前のことなのに
焦ってパニックになったようだ。
俺は深呼吸をして
先ほどの光のたまごに
目を向けた。
「おぉ!」
思わず俺は声を挙げた。
だって、目の前には
丸い光の膜につつまれた
植物の種らしきものが浮かんでいたのだ。
種、だと思う。
見た目は梅干しの種みたいな感じだが、
とにかく、デカイ。
俺の手のひらぐらいはありそうだ。
俺は手を伸ばしたが、
何故か、膜に触れることはできない。
逆に、俺が触れようとすると
警告するかのように、
膜がちかちかと光を点滅させる。
「触ったらだめなのか?
なんで?
いや、まだ育ってないからダメだとか?」
くそ。
ノートを持ってくればよかった。
俺は種の周囲をグルグル回って観察をする。
植物の種は、たとえば、
果物の種も、タンポポみたいな
植物の種も。
きちんと育つ状態になるまでは
外に出ることは無い。
つまり、まだこの種は、
この膜から出る段階ではないのだ。
でも、この精霊の樹って
かなりヤバそうだったよな。
今にも枯れそうだったし、
種が育つまで保つのか?
「ごめんな。
もっと早く来れたらよかったのに。
俺は何も知らなかったから」
俺が呟くと、
返事をするかのように
周囲のあかりがチカチカ点滅する。
まるで返事をしてくれているようだ。
「俺の言葉、聞こえてるのか?」
また返事をするかのように
周囲が明るくなる。
「そっか。
もしかして、こうやって
話しかけてくれる人が来るのを
待ってたのか?
いや、俺が『樹』の属性を
持っていたから……か。
『樹』の属性を持ってるから
こうやって精霊の樹の中に
入ることができたし、
こうやって話もできるのか」
俺のつぶやきを、
肯定するかのように、
今度は種を包む繭まで
光を点滅させる。
なるほどな。
今の世界は『樹』の属性は
存在しないことになってるから
まさか精霊の樹にそんな属性の
魔法を持つ者が必要だと
気づく者などいなかっただろう。
そして『樹』の属性持ちではければ
どんなに精霊の樹に話しかけても
それは意味をなさない。
いや、もうほんと。
俺、めっちゃ生まれてきて
よかったんじゃね?
「でもさ、
まだ文言は残ってるよな
『樹であればしずくになる』
これは俺の属性のことだろ?
俺はどうしたらいい?」
俺が聞くと、
今まで明るく照らしていた
周囲の明かりが一斉に暗くなった。
え?
これ、聞いたらダメなこと?
「お、俺にできることなら
協力したいんだけど。
水がいるんだよな?
干ばつで大変みたいだし。
川を蘇らせるのは無理だけど、
俺の水魔法で良かったら……
少しぐらいは、足しになるか?」
反応は、ない。
こりゃ、一筋縄ではいかなそうだな。
それにこの種も成長させないとダメだし。
というか、きっとこれ、
俺の水魔法と光魔法で成長するから
この種を成長させるのは
俺の役目だよな。
「えっとさ。
一度、外に出てもいい?
一緒に来た人たちもいるし
心配してると思うから」
また反応は無い。
「ちゃんと種が育つまで、
毎日来るよ。
それに……話をしよう。
俺さ、今まで魔法に関して
沢山考察したんだ。
ノートを持ってくるから
話を聞いてくれよ。
それに前世の話も。
さっき、聞いてくれて
俺、嬉しかったんだ。
こんな話、誰にもできないし」
俺が言い募ると、
周囲の明かりが戸惑う様に
ゆっくりと明るくなったり、
暗くなったりする。
「精霊の樹ってさ、
長い間、ひとりだったんだろ?
俺はその寂しさは
わかってあげられないけど、
俺も、この世界で一人だけ
前世の記憶があって、
その話を気軽にすることもできなくて。
自分だけが世界の中で
異質な存在じゃないかって
思うこともあるんだ。
もちろん、俺には
俺を愛してくれる家族も
友人もいるから寂しくなんかないけど。
でも、世界でひとりぼっちだと
思う気持ちってのは、
俺も、わかる……と思う」
誰も読めない古語を
自動翻訳機で勝手に読む俺の存在は
この世界では絶対に異質で、
異端の筈だ。
なのに普通に生きていけるのは
家族のおかげだと思うし
感謝もしている。
けれど。
他の人間たちと違う自分に
ふと気が付いたとき、
俺は無性に寂しくなる。
俺はまだ子どもだから
周囲に甘えることもできるが
この精霊の樹はそんな真似は
きっとできないだろう。
なんたって、樹木なわけだし
もし精霊と言う存在が
今ここで俺の話を
聞いていたとしても、
精霊の存在は神のように
崇められる存在だ。
人間に甘えるなど、
とうていできないと思う。
「なぁ、会話ができないのは
ちょっと寂しいけど。
でも、この種が育つまでは
ちゃんと水と光をあげに来るよ。
沢山話もしよう。
それから……」
俺は悩む。
どう言えばいいのだろう。
意思の疎通が図れているかもわからない。
周囲の明かりはどんどん暗くなる。
俺の提案は、
望むものではなかったってことか?
あの絵本の話は……。
「いや、違う」
俺は、もう一度種を見た。
俺とこの精霊の樹は、
今日、出会ったばかりだ。
信頼関係も何もない。
そんな相手に話をしようとか
そんなことを言われたって
怪しいとしか思えない。
俺だって初対面の人間に
話をしましょう。
あなたのこと、わかってあげれます。
何て言われたら
正直、鳥肌ものだ。
どこの新興宗教だよ、って思う。
それじゃだめだ。
大事なのは、信頼関係。
そして、そのために必要なのは……。
「ごめんちゃんと挨拶できなくて。
俺はイクス。
イクス・バットレイ。
ここのヘルマン辺境伯と
俺の幼馴染が親戚で、
その関係でこの地に遊びに来たんだ。
そしてヘルマン辺境伯から
精霊の樹が枯れそうだと聞いて
心配になってやってきた。
心配だったんだ。
勝手に心配して、
勝手にべらべらしゃべりかけて、ごめん。
良かったら僕と友達になってください」
俺は頭を下げた。
まずは、ここからだ。
こんにちは、の挨拶の次は、
友だちになりたい、だろう?
俺が顔を上げると、
周囲の明かりが、いいよ、と
言うかのように、明るくなり、
目の前の種を包んでいる膜も
チカチカと光を放った。
……ふう、よかった。
受け入れて貰えそうだ。
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