【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

57:想定外

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 もっと気の利いた言葉が
言えたのかもしれないが、
俺が精霊の樹に発した第一声は
「こんにちは」だった。

自分でも間が抜けてると思ったが
言ってしまったものは仕方が無い。

俺は精霊の樹の反応を待ってみた。

だが、変化はない。

だよな。
ただの樹だもんな。

前世で見たアニメみたいに
樹木が話しかけてくるかと思ったが、
そんなことはなかった。

俺はさらに精霊の樹に近づいた。

手を伸ばして、太い幹に
手のひらを乗せてみると、
固く、かさかさとした幹の感触が
手のひらに伝わってくる。

「のど、乾いてるよね?」

焼け石に水だとは思うが
俺は水魔法を手の平に展開させ
水をだした。

だが、幹を水で濡らしても
やはり変化はない。

まぁ、これぐらいは予想していた。

だって、ヘルマン辺境伯家でも
水魔法を使える者を集めてたって
言っていたし。

でも何も変化はなかったんだよな。

あの絵本から考えて
精霊の樹に話しかけるってのは
有効だとは思ったが、
見た限りでは、どうみても
ただの樹木にしかみえないし、
精霊が宿っていて、
話に付き合ってくれそうな気配はない。

俺はとりあえず幹から手を離し、
下から樹木を見上げた。

枯れた葉の隙間から
木漏れ日が見える。

葉がもっと青々としていたら
物凄く綺麗だっただろう。

さて、どうするか。

今日はもともと長丁場の予定だ。

水筒だって用意してもらったし、
できそうなことは何でも試してみよう。

俺が斜め掛けしている鞄には
俺のノートが入っている。

ヴィンセントとヘルマン辺境伯は
俺のすることを少し離れた場所で
じっと見つめているが、
俺と止める気配はなさそうだ。

まぁ、そばに来られても
気になるから、今は
放置してくれるのが一番助かる。

俺は鞄を肩から下ろして
ノートを取り出した。

ノートをめくると、
『光と水を重ねたら種になり、
樹であればしずくになる』
と言う文言がすぐ見える。

ここで言う『光』は
木漏れ日の光ではないんだよな。

もしそうならさっき
俺の魔法の『水』と重なったから
種が生まれてもおかしくないだろうし。

と、言うことは。

『光』は光魔法のことだろうか。

俺が持つ『光』魔法。

持っていることは秘密にしているので
使ったことは無いが、
身体の中にがあることは
認識できる。

きっと、水魔法を使った時のように
意識すれば使えるとは思うが……。

そして『光』とは別にある
もう一つの、もの。

『樹』という属性の魔法も
俺は体内に感じることができた。

だが、『樹』という魔法属性は
この世界では無いものとされている。

だから、何ができるか全く
わからないし、文献すら
残って無かった。

いや、古語で書かれた本を
読み漁れば出てくるかもしれないが、
残念ながら、その記述には
今まで出会うことはなかった。

俺は思い切って『樹』の力を
体内で意識をした。

そして指先に集中して
『樹』の力を精霊の樹に流してみる。

すると……

「ん?」

何か聞こえた気がした。

俺は思わず周囲を見回した。
が、誰もいない。

ヴィンセントたちも俺から
離れているし、声を掛けられた
気配も無い。

気のせいか?

俺はもう一度、
精霊の樹に『樹』の魔法を流す。

すると、今度はもっとはっきりとした
声が、頭の中に聞こえて来た。

そう、声は耳から聞こえたのではなく
頭の中に響いてきたのだ。

もしかして『樹』の魔法って
樹木の声が聞こえるのか?

俺は今度は指先だけでなく
両方の手のひらに魔力を込めて
乾いた幹に手を当てた。

そしてコツン、と額を
固い幹に当てる。

すると……

『ハヤク』と声が頭に響いた。

男性の声にも聞こえたが、
声は高く、子どものような声に
聞こえた気もする。

「早く?
早く、どうしたらいい?」

俺は額を幹に付けたまま
小さく問う。

ヴィンセントたちに聞かれないように、
背を向けて、目を閉じて。

じっと精霊の樹に祈りを捧げているように
見えるような仕草を取る。

『キテ』

来て?

もう、来てるけど?

『ヒカリ……タリナイ
ミズ……ナイ』

苦しそうな声に、
俺の心臓がまた痛みだす。

もしかして、俺が息苦しいのって
この精霊の樹と同調しているからか?

「なぁ、光と水、
どうしたらいい?

俺の魔法でなんとかなるのか?」

俺は小声て聞いてみたが、
反応は無い。

質問が長すぎたか?

それとも、言いたいことは言えるが
俺の声は届いてないのだろうか。

この声は精霊の声なのか
精霊の樹の声なのか。

謎がふかまるばかりだ。

『ヒカリ……ミズ……
……ジダイ』

脳に響く声もまた、小さい。

大丈夫だろうな。

いきなり消えないよな?

弱弱しい声に、俺は不安になってしまう。

とにかく、光と水が必要なんだな?
問題はそれをどうやって届けるかだ。

というか、それは物理的な水や光じゃなくて
俺の魔法ということでいいんだよな?_

会話ができないから、
何を求められているのかさえ
理解できていない。

それに、ジダイって聞こえた。

ジダイって、次代?

次の精霊の樹ってことだろうか。

やはり目の前の精霊の樹は
寿命にちがいない。

どうすればいいのか。

迷う俺は幹に強く手のひらを押し付ける。

と。

急に、固く乾いた幹が、
ぐにゃり、と歪んだ気がした。

いや、正確には、
固い筈の幹が、プリンやゼリーのように
やわらかい感触に変化したのだ。

俺は手のひらに体重を掛けていたから
体勢を整える間もなく
ずぶぶぶ、っと体ごと
精霊の樹の中に倒れ込んでいく。

え?

え?

「イクス!?」

驚くヴィンセントの声は聞こえたけれど。

俺は振り返ることさえできずに、
そのまま精霊の樹に向かって両手を前にしたまま
倒れ込むように、精霊の樹の中に取り込まれてしまった。

はぁ?

ファンタジー展開は受け入れるが、
こんなのは想定外すぎるーっ。



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