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魔法と魔術と婚約者

55:添い寝……?【ヴィンセントSIDE】

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 何故夫婦用の客間なんだ?

俺は内心焦った。

なにせ、部屋に足を踏み入れた途端、
すぐに目に入ったのが
大きなダブルベットだった。

だが、部屋に案内した
家令の話を聞いて、
納得せざるおえない。

今の辺境伯領は、
疫病や干ばつが相次ぎ、
人手もかなり減っているらしい。

確かに見る限りでは
侍女や侍従の数が
極端なまでに少ないように感じる。

突然押しかけた身で
贅沢は言えないだろう。

それに食料だって
今の状態ではかなり貴重なハズだ。

それを俺たちに分け与えて
くれるのだから
文句は言えない。

イクスは小柄だし、
俺とイクスは幼馴染だ。

子どもの頃は一緒に
寝たことだってある。

通常であれば、
たとえ婚約者と言えど
婚姻前に同じ部屋で休むなど
あってはならないことだ。

だが、イクスはまだ
成人前の子どもだし、
婚約も周知していない。

そう言ったことから
同じ部屋でも問題ないと
判断されたのだと思う。

だがしかし。

「僕はいいよ。
昔は良く一緒に寝たもんね」

なんて可愛い顔で
イクスが俺を見上げるから
俺は一瞬、言葉に詰まる。

イクスは子どもで問題ないが
俺はすでに17歳だ。

それなりに成長してるし
閨事だって知っている。

欲だって、
人並みにはある。

だからと言って、
イクスを襲うとか、
そう言うつもりは全くないが
俺の理性は大丈夫だろうか。

いや、そうではない。
それよりも問題なのは
やはりイクスが俺に対して
意識を全くしていないということだ。

はやり俺はイクスにとって
大好きな兄なのだろう。

頬を赤くして、
「好き」なんて口癖のように
俺に言うクセに。

あぁ、ダメだ。
そんなイクスを責めるような
ことを考えるなんて。

イクスに恋愛として
意識されていないのは辛いが
逆に、イクスはまだ、恋愛としては
誰も好きではないということだ。

そしておそらく、
家族以外で言えば、
イクスに一番愛されているのは
俺だ。という自信はある。

そんなことを、
一瞬の間に考えて、
俺は表情だけは穏やかに、
家令に言う。

「イクスが良いなら俺も構わない。
こちらこそ、急に来て悪かった」

俺が言うと、
家令はほっとしたように
頭を下げて部屋を出た。

さて、どうするか。

できたらイクスに俺を
意識されるように持って行きたいが、
だが意識されて避けられるのも嫌だ。

俺はイクスの本が入った鞄を
手にしたまま、
どうしたものかと悩んでいたが。

なんとイクスは俺の手を振り払い
「わーい」とベットに転がり込んだ。

俺は思わずあんぐりと口を開けてしまった。

意識させる?
絶対に無理だろう。

行儀が悪いと言いたいが、
イクスがあまりにも幸せそうに
ベットのクッションに
顔をうずめるから、
俺は何も言えなくなる。

可愛い声が視線だけ俺に向けて
「あーキモチイイ、
癒されるー」などと言うから
俺は一瞬、目を背けた。

可愛い顔だったが、
よからぬ想像をしそうな顔だったからだ。

イクスは幼いが
色白で、客観的に言えば美人だ。

もともと体が弱かったせいか
どこか庇護欲をそそられるし、
顔立ちも儚い印象を受ける。

ましてや、寝具の上で
目を閉じる姿は、
情欲をそそるようにも見える。

いや、子ども相手に何を
俺は考えている?

しかし。
もう少し成長すれば
イクスはきっと
今以上に成熟した魅力を
惜しげもなく披露するだろう。

なにせ本人の自覚がないのだ。

俺はイクスの隣で、
しっかりと見張り、
守らねば、と心に強く思う。

そんな俺のことなど
気が付かない様子で
イクスは俺を呼ぶ。

「ヴィー兄様、
ベットふわふわ~」

俺は理性をどう増員して
テーブルに鞄を置き、
ベットに近づく。

「少し休むか?」

俺は先ほどまでの
動揺を隠して努めて冷静言う。

イクスの顔は眠そうだし、
どうみても疲れた顔をしている。

だが俺がそう聞くと、
イクスは唇を少し尖らせた。

眠たいけど、寝たくない。

そんな顔だ。

俺はベットの端に座り、
イクスの髪を撫でる。

小さなころからイクスは
こうして撫でてやると
すぐに眠りに落ちていた。

だから俺はゆっくりと
髪を撫でる。

イクスの疲れが取れるように。

「イクスは……何を思いついたんだ?」

イクスがウトウトし始めたので
眠っているのか、
起きているのか確かめたくて
聞いてみたが、イクスは
眠いのだろう。

「……いろいろ」

と返事は返ってきたが、
それ以上の声は聞こえない。

もう眠ったのか?

「危険はあるか?」

もう少し声を出す。

「ん-、ない、と思う」

思いのほかしっかりと
返事が返ってきたので
俺はもう少し、突っ込んだことを聞いてみる。

「なら、俺ができることはあるか?」

イクスは答えない。
俺は言い方を変えてもう一度聞く。

「なんでもいい。
イクスのために、俺ができることはあるか?」

イクスを守ってやりたいと思う。
だが、何の知識もない俺が
勝手に動いてもイクスの
邪魔になることぐらい
俺にだってわかる。

だから俺は聞いた。

するとイクスは眠そうだった瞳を開けて俺を見た。

「なんでもいい?」

眠いのだろう。
少し下っ足らずにイクスは言う。

俺がもちろんだと返事をすると
イクスは突然、自分の隣を
ぽんぽんと手のひらで叩いた。

「ヴィー兄様も、寝て」

「は!?」

何言ってんだ?
俺は思わず焦ってしまう。

「ヴィー兄様にしかできないことだから。
何でもするんでしょ?」

なんて言われてしまえば、
俺に拒否などできるはずもない。

俺は仕方なくベットに横になった。

するとイクスは体の向きを変え、
俺の腹の上に頭を乗せて来た。

密着しずぎじゃないのか!?

俺は何を言えばいいかわからない。

だがイクスは俺の腹は
気に入らなかったようで、
頭を下へと移動させる。

俺の腹から太ももに可愛い頭が動き、
良い場所を探すように
頭をぐりぐりと動かしてくる。

「おいっ!」と俺は思わず声を出した。

イクスの頭ぐらい、
いつでも乗せてやるが、
その場所はダメだ。

俺の下半身を刺激するかのように
俺の股に頭を乗せてくるイクスを、
俺は乱暴に引きはがしたくなる。

何度も言うが
俺は正常な成人した男なのだ。

刺激されれば固くなるし、
ましてや相手はイクスだ。

そのようなことなど
考えてないと声を大にして
言いたいが、それでも身体は
正直に反応する。

だが焦る俺とは裏腹に、
イクスは何も気が付かなかったようだ。

安堵したのもつかの間、
イクスは今度は俺の横に移動して
俺の腕を枕にするように
脇の間に頭を沈めてくる。

これは腕枕だと思うのだが……。

イクスは甘えるように
俺の脇に頭を押し付けて
小さな指で俺のシャツを握った。

そして幼い顔で、
さも眠そうにあくびをする。

「……イクス?」

まさかこの状態で寝る気か?

「ちょっと……だけ。
ごはんまで……」

眠そうに言われて、
もちろん、拒否などできない。

イクスの先ほどの様子を
見ただけでも、
かなり体力が消耗しているのはわかる。

仕方が無い。
俺は腕枕をしたまま
イクスの身体を抱き寄せてやる。

するとイクスはさらに
俺にすり寄った。

純粋に可愛いと思う。

だが、それだけではない。

俺はもう、可愛い、
守りたいと思う理由が、
「イクスは弟のようだから」
ではないことを、
もう理解している。

しばらくじっとしていると
イクスから寝息が聞こえて来た。

信頼されているのだと思う。
俺のそばは心地よいと
そう思ってくれているのだろう。

「5歳差か」

俺は思わず呟いた。

イクスが成人するまで待つと
俺は21歳になる。

卒業してすぐに婚約発表をして
結婚するとしても、
まだあと4年はあるのだ。

それも、イクスが専攻に進まず
高等部で卒業したら、の話だ。

だからと言って
イクス以外の恋人を作るとか
そんなバカげたことをする気はないが。

イクスを手に入れるまであと4年。

まだまだ先は長い。

だがあと4年でイクスに
俺のことを恋愛として
意識してもらい、
イクスが俺を望んで、
婚約者になってもらわねばならない。

そう思うと4年は短いような気もする。

「まぁ、問題は
4年が長いか短いかではないよな」

イクスが恋愛として俺を
好きになることが大事なのだ。

「今更手放せないし、
頑張るしかないか」

俺はそう呟いて。

イクスの可愛い前髪に
そっと唇を落とした。





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