【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

52:夫婦の部屋

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 与えられた客室は
なんと!夫婦用の客間だった。

なんで夫婦用!?と思ったが
なんでも今現状の辺境伯領は
生活水準も低くなっており、
流行病が流行った影響で
人でも不足しているらしい。

2部屋の客間を準備する
余裕もない状態らしく
俺とヴィンセントが幼い頃から
良く一緒に遊んでいたことを聞き、
夫婦用の客間を調えさせてもらったと
ヘルマン辺境伯家の家令が言う。

ただ、不都合であるのなら
時間を貰えたらあと一部屋は
なんとかするから、
もし嫌なら言って欲しいと言われ、
俺とヴィンセントは顔を見合わせた。

まぁ、いいか。
急に押しかけたのは俺の方だし、
幼い頃は互いの領地に泊まった際は
良く一緒に寝ていた。

それに家令も俺が子どもだから
大丈夫だと判断したに違いない。

本来であれば、
家令が勝手に判断するのではなく
ヘルマン辺境伯に状況を伝えて
判断をゆだねるべきだとは思うが、

そのヘルマン辺境伯は
俺たちとずっと一緒に、
しかも人払いをされた状態で
何時間も執務室に籠っていた。

そしてようやく部屋から出てきたら
すぐに俺たちが部屋で休みたいと言う。

家令も困ったに違いない。

「僕はいいよ。
昔は良く一緒に寝たもんね」

俺がヴィンセントを見上げて言うと
ヴィンセントは視線を俺から
さっと外した。

だが。

「そうだな。
イクスが良いなら俺も構わない。
こちらこそ、急に来て悪かった」

と家令に言う。

家令はほっとしたような顔をして
うやうやしく頭を下げた。

「お夕食は準備ができ次第
お声を掛けに参ります。
どうぞそれまではごゆるりと
お過ごしください」

部屋の前でそう言われて
俺たちは素直に頷く。

そして部屋に入ったのだが。

その内装に、まず俺は驚いた。

広い!
そしてベットが大きい!

ついでに大きなソファーと
テーブル、それとは別に
広いデスクもある。

それからお酒が入った棚や
クローゼットもあった。

凄いぞ!

俺は、わーい、と
ヴィンセントの手を振り払い、
ベットにダイブする。

物凄く心地よいクッションが
俺の身体を受け止めてくれた。

「あーキモチイイ、
癒されるー」

俺が思わず呟くと、
ヴィンセントも俺のそばに来て
ベットに座った。

「少し休むか?」

そう言われ、俺は悩んだ。

正直、疲れている。

考えに没頭してしまって
俺は夢中でノートを書いていたが、
正気に戻ると、なんだが
腕が痛い……気がする。

でもこういう時は
一気に考えた方がアイデアは出やすい。

ちまちま休憩しながらだと
どうも脳が働かない気がするのだ。

ヴィンセントが俺の髪を
ゆっくりと撫でてくる。

やめろ、眠くなるだろ。

「イクスは……何を思いついたんだ?」

ウトウトし始めた時、
ヴィンセントがそんなことを
聞いて来る。

「……いろいろ」

全然答えになっていないが、
なんか、眠くなってきたので
説明するのがめんどくさい。

俺はベットのクッションに
顔をうずめたまま答える。

「危険はあるか?」

「ん-、ない、と思う」

色々試しては見たいが、
もしお失敗したとしても
何も起こらないだけだ。

「なら、俺ができることはあるか?」

俺の髪を撫でている大きな手が
動きを止めた。

「なんでもいい。
イクスのために、俺ができることはあるか?」

俺は考える。
精霊の樹に関しては、何もない。

まぁ一緒に来てくれたら嬉しいけど
来てもらっても、ヴィンセントが
できることは何も無さそうだ。

「なんでもいい?」

俺が聞くと、なんでもいい、と
返事が返ってくる。

今俺は疲れていて、
なんというか……無性に。

無性に甘えたくなっていた。

ヴィンセントが頭を撫でるなんて
しなかったら、こんな気分には
ならなかったのに。

父の前では我慢したのに。

イクスにとっての
ヴィンセントはたぶん、
頼れる兄で、恰好良くて、
憧れの存在で。

だから、大好きなんだ。

実の兄よりも年上で
強くて、守ってくれて、
甘やかしてくれるヒーローだ。

その気持ちは前世の記憶が
戻ったとしても変わりはない。

まぁ、サラリーマンの感覚からすると
まだ学生のヴィンセントに
自称年上の俺が甘えるのはどうかと思うが。

でも、そんな考えも
吹き飛ばして甘えたくなったり、
カッコいいと呟いてしまうのが
ヴィンセントなのだ。

俺はもう、前世の理性など考えない。

年相応に甘えてやる。

疲れた時と、子どもは
我が儘を言って甘えて良い存在なんだ。

俺は寝転がったまま
ぽんぽん、と自分の横を叩いた。

さすが夫婦用の客間だ
ベットはものすごく大きい。

「ヴィー兄様も、寝て」

「は!?」

ヴィンセントが焦ったような声を出す。

「ヴィー兄様にしかできないことだから」

何でもするんでしょ?
って俺が言うと、
ヴィンセントは無言で俺の隣に
横になった。

俺は仰向けに寝転がったヴィンセントに
ずりずりと近づくと、
えい、とその腹に頭を乗せる。

膝枕ではなく、腹枕だ。

と、思ったのだが。
なんだか、固くてダメだ。

俺は腹から足の方に
頭を移動させたが、ヴィンセントは
くすぐったかったのか
おいっ!と焦ったような声を出す。

だが大丈夫だ。

ヴィンセントの太ももも
固くて枕にはなりそうになかった。

俺は仕方なく体の向きを変えた。

ヴィンセントの身体と
同じ様に俺は縦になって、
今度は大きな体の脇あたりに
頭をこすりつける。

うん。
腕枕っぽくなってしまったが、
すっぽりはまった感じで
なかなかに心地よい、

ヴィンセントの息遣いや
心臓の音も聞こえてきて、
ますます俺は眠くなってしまう。

俺は小さくあくびをした。

「……イクス?」

「ちょっと……だけ。
ごはんまで……」

寝る、と俺はちゃんと
最後まで言えただろうか。

俺が目を閉じると、
ヴィンセントの苦笑したような
声が聞こえる。

ほら、な。

ヴィンセントだって俺のことは
可愛い弟枠なんだ。

俺がこうやって甘えても
何も言わずに受け止めてくれる。

そりゃ、イクスだって
しょっちゅう、カッコいいとか
好きとか言っちゃう筈だ。

でも。
俺はこのぬくもりを手放したくないから。

この気持ちを、恋になんかしない。

俺が本気で恋をしたら、
ヴィンセントは絶対に俺から
離れてしまう。

弟に惚れられるなんて
困るだろうし、
逆に気を遣われるのも嫌だ。

だから俺は。
本気で恋に落ちないように、
こうやって甘えて。

イクスの幼い恋心を
少しだけ満たして満足する。

俺はそれ以上は望まない。
現状維持が、今の俺の幸せなんだ。

俺は、すり、とヴィンセントに
すり寄って。

夕食を食べたらもう一度
ノートを整理しようと思いつつ
眠りに落ちた。



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