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魔法と魔術と婚約者

51:精霊の樹

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 俺は描き写したノートの文字を
改めて読んだ。

『精霊に感謝を
愛を
捧げよ』

なんじゃこりゃ、

また謎解きになった。

どう言う意味だ?

俺は絵本をまた見る。

この絵本がもしも、
精霊の樹のことを
子どもたちに教えるために
描かれたものだったとしたら?

俺は絵本の中の少女を見る。

少女は精霊の樹に
毎日語り掛けたんだっけ。

つまり、感謝とか愛を
精霊の樹に伝えればいいのか?

いや、それだけなら
誰だってできる。

なにせ精霊の樹なんだ。

立ち入り禁止の森とはいえ
辺境伯の当主ぐらいは
様子を見に行ったり、
感謝を告げたりしたと思うし。

じゃぁ、足りないのは何だ?

前世で良くやったパズルゲームみたいだ。

関連性のあるものを引っ付けて
問題を消せばいい、だけ。

なのに、関連性があるものが見えてこない。

俺はノートに書きなぐる。

絵本から考えられるピースを
どんどん書き出して、
その中から関連性を見つけるのだ。

たとえば魔法の属性、
女の子の様子や
登場した村人たちの数。

種、やしずく、という単語や
あとは……

待てよ?

俺はノートには日本語を書いていたが、
そこで精霊の樹の『樹』という
漢字に目を向けた。

俺の属性も『樹』だった。

これが、絵本で言う
少女の役割ができる資格なのでは?

そして少女は水魔法を使える。

つまり『樹』の魔法属性を持ち
水魔法を使える俺が、
少女の代わりになれるのではないだろうか。

そしてだ。
『光と水を重ねたら種になり、
樹であればしずくになる』

これの意味は……。

いや、『樹』が属性だったら
ここでいう、しずく、は
『雫』という魔法属性にならないか?

なら、『種』も魔法属性?

いやいや。
そんなはずはない……か?

「ノート! 
ノート!、どれだっけ」

俺はあわてて書き溜めたノートを
ペラペラめくる。

確か、魔法属性だろう種類の
記述を見つけた時、
それを書き留めた記憶がある。

仮説は一つじゃない。

色んなケースを考えて
俺は古いノートを見ながら、
真っ白なページに自分の考えを
書き連ねていく。

どれぐらい時間が経ったのか、
俺にはわからない。

ただ、地に着かない足の状態に
俺の身体がだんだん疲れて来て。

ちょっと体勢を変えるかと
顔を上げた時だ。

物凄くまじかにあるヴィンセントの
不安そうな顔と、
ただじっと俺の手元を見つめる
ヘルマン辺境伯の姿に
俺は驚いて、思わずのけ反った。

その俺の背をヴィンセントが支えてくれる。

「大丈夫か?」

「うん、ありがと」

俺は頷き、一度、
イスから立ち上がる。

ん-っと伸びをして、
今度は椅子に座らずに
自分が書いたノートを見下ろした。

少し遠くから見ることで
自分の考えを俯瞰するためだ。

「その、私も口を挟んでも
かまわないかね?」

ヘルマン辺境伯が俺の様子を
伺うように近づく。

「はい」

「君がノートに書いた文字は……
いや、それはどうでもいいのか。

それで、何かわかったのかね?」

そう聞かれると、
俺は言葉を濁してしまう。

「解決策と言う意味では
まだ何もわかりません。

でも、古書を読み比べてみて
試したいことがいくつか
出てきました」

俺の言葉にヘルマン辺境伯は
何も言わずに、先を促すように
首を少し動かす。

「できれば、僕を
精霊の樹のところに
連れて行って欲しいのですが、
それはできるものでしょうか」

もしも、他の領の者には
精霊の樹を見せることは
出来ないとか言われたら、
俺はもうお手上げだ。

だって俺が建てた仮説は
すべて俺自身の魔法属性を
活用してどうするか、という
ことだから。

俺の言葉に、ヘルマン辺境伯は
言葉を詰まらせた。

だが、わかった、と頷く。

「今日はもう遅い。
明日の朝、準備をして出かけよう。
私が案内する」

ありがとうございます!

と俺は勢いよく返事をしたが
もう遅い、と言う言葉に
首を傾げる。

「もう夜更けに近い。
何時間、お前は叔父上の執務室を
占領していたと思う?」

ヴィンセントの声に、
俺は絶句する。

そう言われてみれば、
いつの間にか部屋には明かりがともっていた。

まさかそんなに時間が経ってたとは。

というか、ここ。
ヘルマン辺境伯の仕事場なのに
俺が机を使ってしまってた。

申しわけない。

だが、めちゃくちゃ広くて助かりました!

だってノートも古書も絵本も
全部広げたままで見れるのだから。

俺、公爵家の図書室では
最悪、床に本を広げて
寝そべってノートに書くからな。

俺はヘルマン辺境伯に
机を使ってしまった謝罪と
感謝を改めて告げる。

ヘルマン辺境伯は首を振った。

「いや、こちらこそ、
我が領地のために
ここまでしてくれることに
感謝している。

さすがだな。
ヴィンセントは良い婚約者を見つけたものだ」

はぁ?
何言ってんだ?

「いえ、ヴィー兄様は
僕の幼馴染……」

「叔父上!」

俺が否定の言葉を言う前に
ヴィンセントが大きな声を出した。

「イクスも疲れているでしょうし、
一旦、部屋に下がりたいのですが」

「あぁ、そうだな。
気が利かなくてすまない。

客間ももう整っているだろう。
自由に使ってくれ。
夕食も用意させよう」

ヘルマン辺境伯の言葉に
ヴィンセントはお礼を言い、
机の上のノートや本を
あっという間に片づけた。

そしてそれらを鞄に入れて、
俺の手を取る。

「じゃあ、一旦部屋で
休ませてもらおう」

「え、あ、うん」

なんか強引な感じだけど、
いいのかな?

俺がそっとヘルマン辺境伯を
見ると、大きく頷いてくれたので
俺はほっとして部屋を出る。

「部屋に着いたら
俺にも説明してくれるか?」

ヴィンセントが俺の耳元で言う。

誰にも聞かれないように、という
配慮だとは思うが、
耳元で囁くのはやめてくれ。

俺はせっかく頭の中で
色々と考えていたのに
ヴィンセントの甘い声に
あっという間にすべてを忘れて
顔を熱くしてしまった。



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