【完結】「誰よりも尊い」と拝まれたオレ、恋の奴隷になりました?

たたら

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魔法と魔術と婚約者

43:ダブルデート

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 エリオットとミゲルと
ヴィンセントと俺。

4人で出かけることになったのは
演習があった日から
約2週間後のことだった。

学校も休みの日で、
エリオットが休みの日でないと
出かけることができないので
なかなか日が合わなかったのだ。

今日のことは父にも
ちゃんと伝えているが、
ヴィンセントが一緒に居からか
何も言われなかった。

というか、父はものすごく
ヴィンセントを信頼していると思う。

長期休暇にヴィンセントと一緒に
辺境伯領に行きたいと言った時も、
ヴィンセントが丁寧に父に説明して
俺も一緒に連れて行きたいというと、
あっというまに頷いたのだ。

俺一人だったら、
絶対に無理だったと思う。

ヴィンセントがどうやって
父の信頼を勝ち取ったのか
ぜひ聞いてみたい。

まぁ、俺がヴィンセントと
同じことができるとは思えないが。

「イクス、楽しみだね」

とミゲルが俺に声を掛けて来た。

俺たちは少し裕福な
平民が着るような服を着て
街に着いたばかりだ。

馬車を下りて、
貴族街を歩いている。

今日のおめあては、
貴族街の広場で公演中のサーカスだ。

サーカスは貴族の屋敷が
1つまるまる入るぐらいの
大きなテントの中でやっていて、
恐らくだが、前世の記憶にある
サーカスと同じだとは思う。

ただし、照明や演出に
関するものは魔法だとは思う。

この世界には電気が無いし。

でも魔法を見れるだけでも
俺にとっては貴重な体験だし
わくわくしてしまう。

サーカスのチケットは
俺の父が準備してくれた。

なんでも公爵家が
スポンサーになっているらしい。

今日はみんなでサーカスを見て
その後はカフェでお茶を飲む予定だ。

あとは様子を見つつ、
俺とヴィンセントは二人から
離れようとこっそり
話合っていた。

今日はミゲルとエリオットの
仲を深めるためのものだからな。

俺はそう意気揚々としていたのに、
なぜかミゲルは俺と
手を繋いで歩いている。

「ミゲル、僕も楽しみだけど
僕と手を繋ぐんじゃなくて
エリオットさんと手を繋いだら?」

「そ、そんなの無理だよ」

ミゲルは顔を真っ赤にして言う。

「でも今日は、エリオットさんとの
仲を進めるチャンスだよ」

俺は押せ押せ精神で言うが
ミゲルは顔を赤くして
首を振るばかりだ。

うーむ、どうするか。

俺は後ろを歩いている
ヴィンセントとエリオットを
振り返って見た。

「ヴィー兄様」

俺が呼ぶとヴィンセントは
長い足ですぐに俺に
近づいて来てくれる。

「僕と手を繋ごう」

俺が手を差し出すと
ヴィンセントは、よろこんで、
と手を差し出してくる。

俺がミゲルと繋いでいる手を
そっと離した。

「エリオットさんは
迷子にならないように、
ミゲルと手を繋いであげて」

いいですか?

と俺が首を傾げると、
エリオットも喜んで、と
笑ってミゲルに手を差し出す。

ミゲルは顔を真っ赤にして
口をぱくぱくしていたが、
どうだ!俺の作戦は。
と俺は胸を張ってやった。

……ちょっと強引過ぎたか?

エリオットと手を繋いだミゲルは
可哀そうなぐらい
挙動不審になっている。

そんなミゲルを見てエリオットは
優しく言う。

「人が多いから不安?
大丈夫。何も起こらないし、
何かあっても、ちゃんと俺が守るから」

うひゃーっ、カッコイイ!

「イクス。俺もお前を守る」

耳元で急にヴィンセントが言う。

あれ?
さっきのカッコイイ発言、
口から出てました?

「ヴィー兄様もカッコいい」

思わず付け足したように
言ってしまったが、
ヴィンセントは満足そうな顔をした。

ヴィンセントってたまに
こうやって子どもみたいに
なるんだよな。

俺はヴィンセントの手をぎゅっと握る。

大きな手だ。
指には剣タコがあって
物凄く固い。

俺はこの手が大好きだ。

大きな手で頭を撫でられるのも
頬を包み込むように
撫でられるのも心地よい。

手を繋いでいると安心するし
自分に自信がないことでも
頑張れそうな気になってくる。

俺たちが歩いていると
すぐにテントが見えて来た。

大きなテントなので
遠目でもすぐに見える。

ミゲルは顔をまっかにしたまま
時折俺を横目で見て来たが
俺はしらんぷりだ。

このままサーカスは
エリオットの隣で見ればいいと思う。

そんな気持ちで見たサーカスは
最高だった。

少し動物園の匂いがするテントだったが、
空中ブランコや動物の火の輪くぐり
なんかもある。

ただ、前世のサーカスと違ったのは
魔法を使って演出効果を
入れている所と、
お芝居をしている所だ。

このサーカスは最初から
1つの劇を見ているように
物語りが進んでいく。

その物語の演出に
空中ブランコや動物の火の輪
くぐりなんかが入ってくるのだ。

物語りは前世で言う
ロミオとジュリエットだった。

敵対する貴族の子どもたちが
恋に落ち、苦悩し、駆け落ちを考える。

だが、ちょっとした
互いの勘違いから
物語りは悲劇へと向かって行く。

敵対する貴族たちの
やりとりで、ナイフ投げや
火の輪くぐりがあったり、
駆け落ちの場面で
空中ブランコが使われた。

臨場感たっぷりで、
見ていた最初の頃は、
なんだ、ロミオとジュリエットか。

なんて思っていたが
俺はあっという間に引き込まれ、
サーカスが終わる頃には
ぼろぼろと涙があふれていた。

子どもの身体、
感受性が高すぎだろう、と
自分でも思ってしまうが、
涙は止まらない。

ヴィンセントが心配そうに
ハンカチを渡してくれて、
俺はそれを受け取りつつ
ミゲルを見ると、
ミゲルは俺以上に泣いていた。

ミゲルよ、可愛いやつめ。

俺はヴィンセントのハンカチを
目に当てて必死で涙を
押さえていたが、
どういやらエリオットは
ハンカチを持っていないらしい。

ミゲルを慰めつつ、
何度もポケットに手を入れていたが、
最後は、ミゲルを抱き寄せて
自分のシャツの胸当たりで
ミゲルの涙を拭いていた。

そういうのってありか?

と思ったが、ツッコむのはやめよう。

これで二人が仲良くなればいいな。

もしかしたら、
弟の面倒を見る兄の図、
に、なってるのかもしれないが。

俺がちらちらミゲルを見ていたからだろう。

ヴィンセントが俺から
ハンカチを奪った。

「イクスもここで拭く?」

ヴィンセントは親指で
自分の胸を差す。

ばっか。
そんなの恥ずかしすぎて
できるわけないだろう。

可愛いミゲルじゃあるまいし。

俺はそう思ったのに。

「拭く」

と口が勝手に動いてしまう。

ヴィンセントは笑って
俺の腕を引いた。

「では、どうぞ」

なんておどけた様子で
力強い腕が俺の背に回された。

俺は恥ずかしくて仕方なかったけれど。

どうにも離れがたくなってしまって。

素直に広い胸に顔を押し付けてしまった。


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