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魔法と魔術と婚約者

38:誤解で恋は加速する

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 まぁ、突然、
「友だちになってください」
なんて言われたら。

そんなことを言われたら
はぁ? だよな。

俺もそう思う。

でも、それ以外の言葉が
思い浮かばなかったのだ。

俺が放った言葉は
周囲の空気を何故か凍らせた。

急に場が静かになり
俺は訳が分からず焦る。

やはり言い方が悪かったのだろうか。

でもさ。
俺とエリオットが友達になったら
ミゲルも連れて遊びに行けると思うんだ

よし。
言い方を変えてみよう。

「それから僕を
遊びに連れて行ってください」

って言った。
言ってやったが、
冷静に考えると俺、
めちゃくちゃ失礼だよな。

何様だ、俺。

だがもう、後には引けない状態だ。
発してしまった言葉はもう戻らない。

俺は公爵家の息子なんだ。
多少のわがままは許容範囲だ、たぶん。

俺の横暴ぶりにヴァルターも
ミゲルも驚いた様子だったが、
俺の様子を見ていたヴァルターが
理解したかのように小さく頷いた。

そして
「俺とも友達になってください」
なんて頭を下げる。

「はは、なんか俺、
急に下級生たちにモテてるな」

エリオットは笑う。

「そんなに俺、恰好良かった?」

「「「はい、かっこよかったです」」」

ミゲルも含めた俺たち3人の言葉はハモる。

「剣に魔法を纏わせるのって
凄いと思います」

ヴァルターが言うと
ミゲルも、うんうん、と頷く。

そしてミゲルも「僕も」と
声を出すものの
本人を前に褒めるのは
恥ずかしいのか頬を赤く
染めたまま俯いてしまう。

そんなミゲルの顔は
どうみても真っ赤で
目は潤んでいた。

「はぁ、ミゲル、可愛い」

俺は思わず呟いた。

ミゲルが、え?と俺を見る。

俺は手を伸ばして
ミゲルの頭をなでなでした。

「ミゲル、可愛い」

「も、もう、イクスは
すぐそういうことを言うんだから」

ミゲルは照れたように言う。

だがそれすらも可愛いぞ。

俺がそういうとヴァルターも
まぁ、確かに、と笑う。

こう言ったやり取りは
俺たちの間では良くあることだった。

だって、俺は心はアラサーの
サラリーマンだからさ。

同級生とはいえ、
親戚の甥っ子を見ているような感覚なのだ。

だから俺はつい
ミゲルもヴァルターも
可愛いと言ってしまうし、
二人はそれにすっかり慣れてしまた。

だがそれに慣れてない
ヴィンセントたちは
オカシイとでも思ったのだろうか。

エリオットは苦笑していて
ヴィンセントは何故か
笑顔を消して俺を見ている。

また少し居心地の悪い空気になったが
それをエリオットが壊した。

「そう言えば、
君たちはどうやって帰るの?」

質問の意味が分からずに
俺は首を傾げる。

だがヴァルターが
「俺とミゲルは公爵家の馬車で
送ってもらえることになってるので」
と答えた。

なるほど。
馬車留めにある馬車の数と
俺たちの人数が
合わないと思ったのか。

「そうか。
ならミゲルは俺が送っていこう」

「え!?」

ミゲルが目を見開くが
俺は口を開けた。

なんでって、
思いもよらないチャンスだったからだ。

「ミゲル!」

俺はミゲルが遠慮して
断ろうとしたことに気が付き、
誰よりも早くその腕を引っ張った。

そしてミゲルの腰を抱き寄せて
耳元で小さく言う。

「チャンスだよ!
さっきは僕と友達になってもらって
ミゲルと一緒にお出掛けとか
してもらおうと思ったけど。

ここは送ってもらって、
そのお礼ってことで
どこかに誘えばいい」

「ど、どこかってどこ?」

「どこかは、どこか、だよ」

そんなこと言われても俺にはわからん。

「誘うのが無理だったら、
なんかお礼がしたいから
何がいいか聞いたらどうだ?

そしたら渡すとき、また会えるだろう」

俺の作戦会議に
ヴァルターも参加した。

ナイスアイディア!

「そうだよ、そうしなよ」

「でもいらない、って言われたら?」

ミゲルは消極的だ。
気持ちはわかるが。

「じゃあ、俺とイクスが
ファンになったみたいだから
一緒に遊びに行ってください、とか
そう言う感じでいいんじゃないか?」

「いいと思う。
ミゲル、それでいこう」

俺が力強く言うと、
ミゲルは顔を真っ赤にしたまま
俺とヴァルターを見る。

「でも、僕……」

「ミゲル。
このままだと、次会えるのは
いつになるかわからないよ」

告白なんて夢また夢になる。

「わ、わかった。
僕、頑張る」

よし!

俺とヴァルターは強く頷き、
ミゲルを前に押し出した。

「では、よろしくお願いします。
ミゲルは僕の大事な友人なのです」

俺が頭を下げると、
エリオットはまるで保護者だな、と
笑った。

そのつもりだが、何か?

「じゃあ、行くか」

エリオットの声にミゲルは
おずおずと頷いて、
俺たちの手を振る。

俺とヴァルターは手を振り返した。

「じゃあヴァル、僕たちも帰ろう」

俺はそう言ったが、
ずっと無言だったヴィンセントに
腕を引かれた。

「イクスは俺が送っていこう。
ヴァルターは、ハーディマン家の
馬車を使えばいい」

「え、いえ、俺は……」

本家の馬車なんて、と
ヴァルターは言うが、
俺の馬車は公爵家の馬車なんだけどな。

ヴァルターを揶揄ってやろうかと
思ったが、それよりも先に
ヴィンセントは少し先にいた
ハーディマン家の侍従に手で合図をする。

すると侍従が馬車の扉を開けた。

「ヴァルターを送っていくと
イクスが帰るのが遅くなる。

公爵家はイクスに関しては
心配症だからな。

早く帰った方が良い」

それを言われると、
俺もヴァルターも何も言えない。

その通りだからだ。

しかも今は予期せぬ王家のお茶会に
呼ばれたので、結構時間が経っている。

一応、王家からは
心配しないように使いの人が
屋敷に知らせに行ってくれているとは思うが

逆に王家に呼び出されたと言って
心配しているかもしれない。

「わかりました。
では、お借りします」

ヴァルターが頭を下げる。

「あぁ」

ヴィンセントは頷き、
俺の腰に手を当てた。

「イクスはこっちだ」

え、あ、はい。
そうですね?

ヴァルターを見送るつもりだったが
先に馬車に乗れと
言わんばかりに背中を押される。

「じゃあ、ヴァル、またね」

俺は慌ててヴァルターに手を振る。

ヴァルターは手を振り返してくれたが
すくにそばまで来たハーディマン家の
侍従に説明しているのだろう。

軽くヴィンセントにも頭を下げたが
すぐに侍従に視線を向けた。

俺たちは馬車に乗り込んだが、
なぜかヴィンセントは無言だ。

しかもなんか、距離が近い?

俺の隣に座っているが
膝がめちゃくちゃくっついてるんですけど。

「……イクスは」

馬車が動き出して
しばらくしてから
ようやくヴィンセントが声を出した。

「エリオット先輩がカッコイイと思うのか?」

は?

ようやく口を開いた第一声がそれ?

意味がわからない。

素直に恰好良かったと言えばいいのか?

俺は質問の意図が分からず
首を傾げてしまった。




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