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魔法と魔術と婚約者
36:王子様と
しおりを挟む合同演習が終わった後も
俺たちは大興奮だった。
もちろん、ヴィンセントが一番
恰好良かったが、
それ以外の騎士さんも
魔法師さんも凄い人ばかりで
俺たちは圧倒されまくった。
ミゲルは魔法師団の人たちの話ばかりだし
ヴァルターは騎士の話ばかりして
俺はその真ん中でヴィンセントの話をした。
話は嚙み合ってない感じはしたが、
誰も気にしなかった。
俺たちは興奮のまま
馬車へと向かったが、
俺たちが馬車んに乗る前に
王家の使いという侍従が
俺に声を掛けて来た。
正確には公爵家の馬車を
守っていた侍従に声を掛けたのだが、
すぐそばにいる俺にも
もちろん聞こえている。
使いの者曰く、王族の皆さまが
プライベートなお茶会をするので
来て欲しい、だそうだ。
侍従は困ったように俺を見る。
だよな。
困るよな。
こういうのは父がいる時に
連絡してきて欲しい。
いや、父がいないのを知って
わざと連絡をしてきたのかもしれないが。
俺は迷ったが、
ミゲルもヴァルターも
一緒に誘われていたし、
公爵家には王家から使いを出すと言うので
俺は了承した。
ミゲルとヴァルターは恐れ多いと
言ってはいたが、
ミゲルもヴァルターも優秀な人材だし、
陛下はそんな二人を
見ておきたいと思ったのかもしれない。
俺を通して二人を呼んだら
周囲から勘繰られることもないだろうしな。
まぁ、俺の友を見てみたいと
思っただけかもしれないが。
俺はあの階段落ちの件から
あまり王宮に出向かなくなったし、
王家とは一線を引いている。
だが、もともと俺は陛下たちには
幼い頃から可愛がってもらっていたし
あれからもう2年だ。
そろそろ関係改善を、と
陛下も思っているのかもしれない。
案内されたのは王家の庭だった。
広い庭には大きな屋根のついた
東屋があり、その下にカトラリーが
準備されている。
「イクス!」
東屋に向かおうとすると
名を呼ばれた。
第二王子のクルトが
走ってくるのが見える。
その後ろを、第一王子のカミルが
ゆっくりと歩いて来ていて、
その後には陛下と王妃様が
歩いて来るのが見えた。
「久しぶり!」
とクルトに言われるが、
久しぶりではない。
学校では姿をよく見かけている。
ただ、話をするのは久しぶりだが。
「今日はね、イクスが好きな
イチゴのケーキを用意してあるんだ」
「イチゴ!」
それは上手そうだ。
クルトは俺の手を握り、
エスコートするように
東屋に連れて行ってくれる。
必要ないかも?と思いつつ
一応、ミゲルとヴァルターを
紹介したのだが。
クリムはおざなりに挨拶をして
ひたすら俺に話しかけて来た。
どうした?
寂しくなったのか?
かまってちゃんか?
俺が戸惑っていると
カミルが東屋に到着し、
その後、陛下と王妃様もそばに来た。
俺たちは臣下の礼を取ったが、
陛下は楽にしていい、と笑う。
「この場では不敬など言わんよ」
と言われて、
ミゲルとヴァルターは息を吐く。
緊張しているようだ。
すぐに侍女がお茶の準備をして、
イチゴが乗ったケーキを出してくれた。
王妃様が勧めてくれて
俺たちはいそいそとケーキにフォークを刺す。
「ヴィンセントはなかなかの活躍だったな」
陛下がケーキを口に入れた俺を見た。
もぐもぐしているので
返事ができない。
「そうね。
イクスちゃんを守るには
まぁ、あれぐらいの強さは
必要かもしれないけれど」
王妃様が言う。
王妃様にとっては俺はいつまでも
小さな子どもらしい。
「でも、イクスちゃんを守るのは
伴侶でなくてもいいと思うの」
俺はイチゴを飲み込んだ。
何言ってんだ?
「ねぇ、イクスちゃん。
王家にお嫁に来ない?」
俺の両隣りに座るミゲルとヴァルターの動きが止まった。
「だってね。
うちの息子たち、全然、
婚約者が決まらないんだもの」
いや、だからと言って
俺を選ぶのもどうかとしてると思います。
「王妃様、光栄ですが
僕には無理です」
俺は王妃様の言葉を笑顔で却下した。
こういうのは冗談で終わらせるのが一番だ。
王妃様は本気の顔をしていたけれど。
「あら、どうして?」
俺は肩をすくめる。
「王妃様をお母さまと呼ぶようになったら
僕の母がきっと暴れると思います」
わざと真顔で言ってやった。
母と王妃様は今は仲が良いが
かつては、お互い仲が良いのか
嫌っているのかわからない状態だったらしい。
学生時代は好敵手と言えば
聞こえは良いが、
なんでもかんでも
張り合う仲で周囲も困っていたようだ。
例えば、ドレスの色や形、
どちらが似合うか、
ヒールの長さはどちらが高いか。
学校の成績だけでなく、
ラブレターを貰った数や、
夜会で男性と踊った数。
とにかく、なんでもかんでも
張り合っていたと言う。
母はいつも自分が勝っていたのだと
鼻高々に言っているが、
俺は話し半分に聞いている。
結婚して二人とも
張り合うことは無くなったようだが
俺がもしも二人の息子になったら
俺を挟んでまた張り合う姿が目に浮かぶ。
俺の言葉に陛下も何か思い至ったようだ。
「それは……確かに」
と深く頷く。
すると、クルトが立ち上がった。
「イクス、俺と婚約してくれ」
いや、今の話、聞いてた?
というか、笑い話にしたんだから
空気読めよ。
しょうがないなぁ。
もしかして王妃様に何か
言われていたのだろうか。
俺にプロポーズしろ、とか。
無理、と笑顔で言いたかったが
陛下の前では無理だな。
となると、スルーだ。
スルーしかない。
俺は紅茶を一口飲んで立ち上がる。
ヴァルターとミゲルに
小声でちょっとごめん、と言って
俺はクルトに近づく。
「クルト、久しぶりに
ミックスと遊びたい」
「え? へ? あ、あぁ」
ミックスとは王家で飼っている
大きくて真っ白い犬だ。
番犬も兼ねているのだが
最初見た時は、俺が小さかったこともあり、
子どもの熊だと思ったぐらいだ。
クルトが口笛を拭くと
大きな犬が走ってやってくる。
「ミックス!」
俺が両手を広げると
ミックスが俺に全力で向かって来た。
クルトが焦るように俺の身体を引き寄せる。
だがミックスはそのまま俺と
クルトを芝生の上に押し倒した。
「あははは、ミックス、
久しぶり」
べろべろと顔を舐められ
俺は声を出して笑う。
うん、久しぶりだが
もふもふの心地よさは健在だ。
俺はミックスの首に抱きつき
ふかふかの毛に顔をうずめる。
「ちぇ。
僕よりもミックスがいいのかよ」
俺のそばからクルトの
拗ねたような声が聞こえる。
「ミックスは可愛いもん」
言いながら俺は手を伸ばして
クルトの髪を撫でた。
王子様にこんな真似ができるのは
幼馴染の俺ぐらいだろう。
「でもクルトも頑張ってるもんね。
偉い、偉い」
王子様としてクルトは頑張っている。
俺はちゃんとそれを知っている。
学校でも王子としての振る舞いを
意識しているし、他人との距離を
きちんとおいて誰とでも接する。
でもきっと寂しいと思う。
幼馴染の俺の前ぐらい、
王子ではないクルトを
見せてくれていいと思う。
だから。
「別に婚約者なんかじゃなくても
クルトと僕は親友でしょ?
幼馴染で、大親友。
だから結婚しなくても
一緒に遊べるし。
他の人の前で王子様をするのが
苦しいんだったら
もっと僕に会いに来ても……
頼ってもいいんだよ」
俺がそう言うと
クルトは目をうるっとさせて。
それからミックスごと
俺を抱きしめた。
そうだよな。
本音が言えない相手としか
付き合えないなんて苦しいよな。
俺も階段落ちの件で
ちょっとビビってたこともあるし、
周囲の過保護具合に
振り回されているところもあったから
王家とは距離を置くようにしていたけれど。
もう、いいよな。
以前みたいに親友に戻っても。
俺はしがみついてくるクルトの背に
腕を回して、よしよし、と
その背を撫でた。
クルトはいつのまにか
俺よりも背が高くなっていて
身体付きもがっしりしているのに。
なんだか俺よりも
ずっと子どもみたいで可愛い、と
そんなことを思った。
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